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3年 高垣かりん 春休み課題1-20
RES
1 『DUNE/砂の惑星 Part1』監督/ドゥニ・ヴィルヌーヴ
人類が地球以外の惑星に移住し、宇宙帝国を築いていた。一つの惑星を治めていたアトレイデス家は、高値で取引される貴重なスパイスが取れる砂漠の惑星アラキス〈通称:デューン〉を治めることになるが、それは罠だった。やがて、侯爵は殺され、妻のジェシカと息子のポールも命を狙われることに。
2022年のアカデミー賞で10部門ノミネート、6部門受賞した名作で、映像の迫力と世界観の作りこみが細かかった。主人公のポールが何らかの能力を持っており、この一作目ではまだ開花前のような描写が続いていた。また、夢に出でてくる少女が何者なのか、なぜ夢に出てくるのかという疑問を残したまま終わった。この作品は、今後続くデューンシリーズの世界観構築と伏線を敷く序章の役割が強く、単体作品としてはすこし単調にも感じた。
2 小説『幸せな家族 そしてその頃はやった唄』作/鈴木悦夫
「幸せな家族」という保険のCMモデルに選ばれた家族は、密着中に次々と謎の死を遂げていく。それは「その頃はやった唄」という歌の歌詞に沿っていた。犯人はいったい誰なのか。
この小説は子供向けの児童書ながらホラーミステリとなっており、恐ろしい結末を迎える。語りは末の弟で、彼の語りはずっと家族から一歩引いた他人事のような口調となっており、違和感と不気味さが終始付きまとう構造となっていた。
殺しは「その頃はやった唄」というオリジナルの唄に沿って起きるのだが、末の弟が感じていた退屈、それから脱却するための手段として間接的な家族殺しをするという考えが生まれる異常さが、弟の持つ独自性ではなく家庭の異様な環境によって生まれたものである点が皮肉的であった。
3『毒 poison』監督/ウェス・アンダーソン
自分の寝ているベッドに毒蛇を発見した男の話。ネットフリックス限定の短編映画
物語自体は男がベッドの上で身動き1つ取れないところに助けを呼ぶというコメディ。登場人物が怒涛のセリフ量で物語を語っていく。その際はカメラ目線で観客に語り掛ける。監督の演出の特徴で、アカデミー賞を受賞した同監督の『奇才ヘンリー・シュガーの物語』にも同様の演出がみられる。その作家性はセットにも表れており、舞台のように周りが動き、演劇的な構成と重なり映像的な美しさが際立つ。
4『桐島、部活やめるってよ』監督/吉田大八
学校の人気者、桐島をめぐる周囲の高校生たちの群像劇。
人気者の桐島が学校に来なくなり、部活を辞める日までの数日間を描いているが、桐島の姿や声は一切描かれない・映らないところが特徴的だった。桐島の造形が視聴者にわからない状態で話が進んでいくことで、学校の中心ではない人物の視点が鮮明に描かれ、思春期の高校生たちの人間関係やその中での悩みやすれ違いが目立っていた。最後の対話の場面では、スクールカーストの垣根を超え、一個人の気持ちが表れていたと思う。
5 『カラーパープル』(2024) 監督/プリッツ・バザウレ
優しい母を亡くし横暴な父の言いなりとなったセリーは、父の決めた相手と結婚し、自由のない生活を送っていた。さらに、唯一の心の支えだった最愛の妹ネティとも生き別れてしまう。そんな中、セリーは自立した強い女性ソフィアと、歌手になる夢を叶えたシュグと出会う。彼女たちの生き方に心を動かされたセリーは、少しずつ自分を愛し未来を変えていこうとする。そして遂に、セリーは家を出る決意をする。
黒人差別、性差別、家庭内暴力など、当時のアメリカ国内の黒人コミュニティにおける問題を取り上げた本作は、ミュージカルではあるが内容はほとんどが暗く重いものとなっていた。時代設定は昔のものであるが、現在の社会にも通ずる女性のエンパワーメントにフォーカスが当てられ、セリーが独り立ちし、自身の洋服屋で女性用のズボンを販売するところは、型にはめられない女性像と社会進出を象徴していると思う。
6 『カラオケ行こ!』 監督/山下敦弘
合唱部部長の岡聡実はヤクザの成田狂児に突然カラオケに誘われ、歌のレッスンを頼まれる。組のカラオケ大会で最下位になった者に待ち受ける“恐怖”を回避するため、何が何でも上達しなければならないというのだ。狂児の勝負曲は X JAPAN の「紅」。聡実は、狂児に嫌々ながらも歌唱指導を行うのだが、いつしかふたりの関係には変化が起きる。
中学生が絶対にかかわるはずのないヤクザという存在と触れ合うことで、ファンタジーチックな空間が出来上がっていた。その空間が子供と大人が交わるものとなっていることで、日常で聡実の体に起きる大人への変化(声変わりなど)と対比され、思春期特有の子供の二面性を表現していると思った。
7 『俺物語!!』 監督/河合勇人
高校生に見えない顔と巨体の剛田猛男は、ある朝町で困っていた女子高生・大和凛子を助けて一目惚れしてしまう。しかし、凛子が猛男の親友のイケメン・砂川誠のことが好きだということに気づいてしまう。猛男の恋の行方はどうなるのか。
見た目で判断されがちだった猛男、心優しい部分を親友以外に見てもらうきっかけとなった出来事が、以前女性を助けたときと同じシチュエーションであったことで、猛男の本質を見てもらえたということがよくわかった。
8 『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』(ドラマ)
アベンジャーズ/エンドゲーム』後、新たな“キャプテン・アメリカ“誕生を描くマーベル・スタジオのドラマシリーズ。伝説的なヒーローを失い混沌とした世界で、ファルコンとウィンター・ソルジャーはヒーローを殲滅させる巨大な陰謀に立ち向かう。
人種、血清、特殊能力など、今までのキャプテン・アメリカでトピックにならなかったワードが多く出てきた。とくに、ベトナム戦争で暗躍した黒人の超人兵士の話が出てきたことで、話の中で透明化された存在が浮かび上がってきた。スティーブ・ロジャースは、純粋に個人として評価したサム・ウィルソンという人物が「アメリカ」という国を社会的に背負うことができるのかという視点が抜けていたことがわかった。
9 『キャプテン・アメリカ/ブレイブ・ニュー・ワールド』 監督/ジュリアス・オナー
“正義の象徴”を受け継いだ〈新たなキャプテン・アメリカ〉アメリカ大統領ロスが開く国際会議でテロ事件が発生。それをきっかけに生まれた各国の対立が、世界大戦の危機にまで発展してしまう。
サム・ウィルソンがキャプテン・アメリカとなったあとの話で、サムの本質がよく表れた話だった。サムは超人ではないが、努力と対話で信頼される人物としてキャプテンを務めていた。
この作品単作では理解できないほど昔の別作品の内容や登場人物が深く関わっていたことで、マーベル作品の情報量の多さからくる難解さが残っていると感じた。また、この中に出てくる日本がアメリカに対して優位に強く出る外交をしておりとても現実的ではなく、よく見られるオリエンタリズム的な描写でもないことがとても興味深かった。
10 『近畿地方のある場所について』(小説) 作/背筋
著者の友人で、ある場所にまつわることを調査し行方不明になった小沢さんを探しているという前書きから始まるモキュメンタリーホラー小説。
カクヨムというウェブ小説サイトで昨年話題になったモキュメンタリーホラーで、小説のモキュメンタリーという形式が斬新で面白かった。
はじめは「小沢さん」を探しているという情報、その小沢さんと著者が関わっていた「近畿地方のとある場所」にまつわる記事やインタビューが載っていた。その時点では単なるオカルト集のような印象を受けるが、ある時点で著者が意図的に何かの情報を隠していることがわかり、読者はそれが何なのかを知るために読み進めることになる。
最近、ネットフリックスの『呪詛』という映画で話題になった、主人公が視聴者に呪いをかけていたというものに通ずる結末で、ホラー系では読者・視聴者の日常を侵すような恐怖を与えるようなものが話題になるのだと思った。
11 『ルックバック』 監督/押山清高
学生新聞で4コマ漫画を連載している小学4年生の藤野。クラスメートからは絶賛を受けていたが、ある日、不登校の同級生・京本の4コマを載せたいと先生から告げられる。
『チェンソーマン』の藤本タツキ原作で、作画はマンガ版によく寄せられていた。内容は明らかに京都アニメーション放火殺人事件から影響を受けている。夢を追いかけ絵を描く少女たちの青春と挫折、絶望、希望を約60分に詰め込んだ作品だと感じた。タイトルの「ルックバック」が作中に効いていて、藤野の背中を追う京本の一人称視点が何度か登場すること、京本の背中に描いた藤野のサイン、過去を振り返るラストの流れ、作中の印象的で重要な要素は「ルックバック」を基本とされていた。
12 『幽霊の日記』 監督/針山大吾、小林洋介
茨城県稲敷郡。日本最大の異次元構造物のすぐ近くに、そのレストランはある。 そこでは十数年間、心霊現象が起こり続けていた。
YouTubeで期間限定公開された28分のショートフィルム。2021年リモートフィルムコンテストグランプリ作品『viewers:1』の続編。
『幽霊の日記』というタイトルから想像するとホラー作品かと思っていた。しかし、心霊現象と思っていた現象は、実は異次元構造物に影響され違う次元にいった未来の自分の影響で起きていたということがわかる。レストランの主人をしている主人公には未来の自分が見えておらず、違う次元の主人公からは見えている。ちがう次元の主人公は、その次元では独りぼっちだが、一瞬だけもとの世界線と繋がれる瞬間があり、人とのつながりを求めていく。コロナ禍に作られた作品の続編ということもあり、実際には会えない人とのつながりやそれを求めることへの前向きなメッセージが込められていると思った。
13 『私の夫と結婚して』(ドラマ)
夫パク・ミンファンと親友チョン・スミンの不倫現場を目撃した末期がんを患うカン・ジウォン。2人に殺されたジウォンは、突然10年前の過去に戻ってしまう。会社の上司ユ・ジヒョクに助けられながら、人生の“ゴミ”を処分し、運命を変えようと奮闘する。
タイムリープして自分の人生をやり直すという物語はよくあるが、このドラマはタイムリープしたのが主人公ともう一人、上司がいて、二人が協力関係を結ぶという少し変わった設定があった。また、タイムリープして運命を変えることで、他の人にその運命が移ってしまうというデメリットもあり、本筋の復讐が終わった後もその問題が出てくるなど、細かい設定がされていた。
14 『マッドマックス:フュリオサ』 監督/ジョージ・ミラー
世界崩壊から45年。バイカー軍団に連れ去られ、すべてを奪われた若きフュリオサは故郷への帰還を誓い、MADな世界(マッドワールド)に対峙する——巨大なバイカー軍団、その頂点ディメンタス将軍は可愛い熊の人形を持ち改造バイクで絶叫し、さらには、白塗りの兵隊ウォーボーイズたちが神と崇めるイモータン・ジョーは鉄壁の要塞を牛耳り、互いが覇権を争っていた。
前作同様、ディストピアの世界観の作り込みが壮大だった。物語自体は、フュリオサが前作に至るまでどのような生涯を送っていたかという前日譚で、男社会の中でフュリオサがどのように地位を築き上げたのかがわかるものだった。しかし、フュリオサが女性として力を持っていくというより、男性に紛れ込み男性としてだんだん成り上がっていた。この作品ではフュリオサが女性としての権利や暴力支配を変えることができないが、このつらい経験から前作のように支配された女性を解放しようとする意志が生まれたのだと思うととても納得した。
15『インターステラー』 監督/クリストファー・ノーラン
舞台は、寿命が尽きかけた地球。居住可能な新たな惑星を探すという人類の限界を超えたミッションに選ばれたのは、まだ幼い子供を持つ元エンジニアの男。彼を待っていたのは、未だかつて誰も見たことがない、衝撃の宇宙。はたして彼は人類の存続をかけたミッションを成し遂げることが出来るのか。
ノーラン監督の特徴でもある、時間の流れが混ぜこぜになるような映画の作りは難解だった。重力と時間の流れの関係性を解き明かした流れは、SF作品のなかでも異彩を放っていた。父親が地球を救うキーパーソンとなったのに、それが世間には知られず時の流れにも置いて行かれ、唯一真相を知る娘はおばあさんになっているという落ちは本当のハッピーエンドとはいえるのだろうか。
16 『ピンクの豹』(1964) 監督/ブレイク・エドワーズ
ヨーロッパの美しいプリンセスが持つ「ピンクの豹」と呼ばれるダイヤモンド。その宝石を盗むため、怪盗ファントムが動き出す。ファントムの逮捕を命じられたクルーゾー警部は追跡を開始するも、ドジばかりで行く先々で騒ぎを起こしてしまう。
有名な「ピンクパンサー」シリーズの第一作。
怪盗が宝石を盗むために念入りな作戦を立てるが予想外のことが起き続けるシチュエーションコメディで、それぞれの立場が入り乱れる展開が面白さを引き立てていた。
17 漫画『童夢』 作/大友克洋
不審死が多発する郊外のマンモス団地。捜査をする警察は、何人もの怪しい人物を目撃する。また一人、捜査員が不審死を遂げたのち、団地に引っ越してきた少女・悦子は超自然的な力を秘めていた。
『AKIRA』の作者として有名な大友克洋の歴史的傑作として名高い『童夢』だが、その評価に引けを取らない物語と漫画表現だった。躍動感のある漫画は多いが、この作品は静の描写が秀でていて、マンガの登場人物が感じているであろう異質感や恐怖を動きではなく止めの画で表現していた。また、映画的な表現も多く、スタンリー・キューブリックに影響されたであろう画角や、音(効果音)の有無、カットの選択など、今までの漫画表現ではないようなものが多数見られたと思う。
18 『パーフェクトブルー』 監督/今敏
2年続けたアイドルグループを卒業し女優への転身を図った霧越未麻。しかし、アイドルの皮を破るための過激グラビアやドラマの過激シーンなどの仕事が舞い込んでくる。急激な変化に戸惑う人々、さらに仕事関係者が犠牲となる事件が多発する。追い詰められた未麻は、もう一人の未麻を目撃するようになる。次第に現実と虚構の区別がつかなくなっていく。
現実と虚構が入り交ざり、区別がつかなくなるような描き方は、のちの『パプリカ』などにも引き継がれる今敏の作家性だと思う。
この『パーフェクトブルー』では、主人公の精神状態から時系列や記憶が錯乱しているというミスリードがうまく効いて、最後のもう一人の未麻の正体を衝撃的なものとしていた。
19 『羊たちの沈黙』 監督/ジョナサン・デミ
FBIの訓練生・クラリスは、女性を誘拐して皮を剥ぐ連続殺人鬼の捜査に加わることに。彼女の任務は獄中の天才精神科医・レクター博士の協力を得ることだった。クラリスは自分の過去を語ることと引き換えに、レクターから事件の手掛かりを聞き出すことになる。
この作品で人々の印象に残るのは、やはりレクター博士だと思う。しかし、レクターの登場時間は少なくセンセーショナルな事件を起こしても、その様子は描かれない。このような条件の中で人々の印象に残るのは、彼の映し方に理由があると考えた。意図的に全身が写されたり、極端に顔のアップが映ったり、彼がどこかちぐはぐで危険な見え方をする撮り方がされていた。
20 『国宝』 監督/李相日
任侠の家に生まれた喜久雄は、その美貌と才能を見初められ、上方歌舞伎の一門へ足を踏み入れる。やがてその才能と血をめぐる苦悩にさらされる。
まず、この映画は映像が美しかった。歌舞伎の舞台はもちろん、重要なシーンの背景やその取り方は、邦画というよりも洋画を彷彿とさせた。特に、あまり引きの画を撮らずに、人物をクローズアップして撮る場面が多く、ここぞというときに引き画がとられるため、その背景の美しさが引き立っていたと思う。
物語に関しては、ゲーテの悲劇『ファウスト』をベースにしていると考えた。「悪魔と取引した」という印象的な言葉の通り、その取引により得たものと失ったものを中心にめぐる物語はほとんど同様の流れを汲んでいた。喜久雄と俊ぼんは二人でファウストの役割を担い、喜久雄は悪魔と取引し、家族や信頼、俊ぼんの両足を無くす。両足=ファウストの失った両目であり、『国宝』はやはり悲劇として描かれていると考えた。
人類が地球以外の惑星に移住し、宇宙帝国を築いていた。一つの惑星を治めていたアトレイデス家は、高値で取引される貴重なスパイスが取れる砂漠の惑星アラキス〈通称:デューン〉を治めることになるが、それは罠だった。やがて、侯爵は殺され、妻のジェシカと息子のポールも命を狙われることに。
2022年のアカデミー賞で10部門ノミネート、6部門受賞した名作で、映像の迫力と世界観の作りこみが細かかった。主人公のポールが何らかの能力を持っており、この一作目ではまだ開花前のような描写が続いていた。また、夢に出でてくる少女が何者なのか、なぜ夢に出てくるのかという疑問を残したまま終わった。この作品は、今後続くデューンシリーズの世界観構築と伏線を敷く序章の役割が強く、単体作品としてはすこし単調にも感じた。
2 小説『幸せな家族 そしてその頃はやった唄』作/鈴木悦夫
「幸せな家族」という保険のCMモデルに選ばれた家族は、密着中に次々と謎の死を遂げていく。それは「その頃はやった唄」という歌の歌詞に沿っていた。犯人はいったい誰なのか。
この小説は子供向けの児童書ながらホラーミステリとなっており、恐ろしい結末を迎える。語りは末の弟で、彼の語りはずっと家族から一歩引いた他人事のような口調となっており、違和感と不気味さが終始付きまとう構造となっていた。
殺しは「その頃はやった唄」というオリジナルの唄に沿って起きるのだが、末の弟が感じていた退屈、それから脱却するための手段として間接的な家族殺しをするという考えが生まれる異常さが、弟の持つ独自性ではなく家庭の異様な環境によって生まれたものである点が皮肉的であった。
3『毒 poison』監督/ウェス・アンダーソン
自分の寝ているベッドに毒蛇を発見した男の話。ネットフリックス限定の短編映画
物語自体は男がベッドの上で身動き1つ取れないところに助けを呼ぶというコメディ。登場人物が怒涛のセリフ量で物語を語っていく。その際はカメラ目線で観客に語り掛ける。監督の演出の特徴で、アカデミー賞を受賞した同監督の『奇才ヘンリー・シュガーの物語』にも同様の演出がみられる。その作家性はセットにも表れており、舞台のように周りが動き、演劇的な構成と重なり映像的な美しさが際立つ。
4『桐島、部活やめるってよ』監督/吉田大八
学校の人気者、桐島をめぐる周囲の高校生たちの群像劇。
人気者の桐島が学校に来なくなり、部活を辞める日までの数日間を描いているが、桐島の姿や声は一切描かれない・映らないところが特徴的だった。桐島の造形が視聴者にわからない状態で話が進んでいくことで、学校の中心ではない人物の視点が鮮明に描かれ、思春期の高校生たちの人間関係やその中での悩みやすれ違いが目立っていた。最後の対話の場面では、スクールカーストの垣根を超え、一個人の気持ちが表れていたと思う。
5 『カラーパープル』(2024) 監督/プリッツ・バザウレ
優しい母を亡くし横暴な父の言いなりとなったセリーは、父の決めた相手と結婚し、自由のない生活を送っていた。さらに、唯一の心の支えだった最愛の妹ネティとも生き別れてしまう。そんな中、セリーは自立した強い女性ソフィアと、歌手になる夢を叶えたシュグと出会う。彼女たちの生き方に心を動かされたセリーは、少しずつ自分を愛し未来を変えていこうとする。そして遂に、セリーは家を出る決意をする。
黒人差別、性差別、家庭内暴力など、当時のアメリカ国内の黒人コミュニティにおける問題を取り上げた本作は、ミュージカルではあるが内容はほとんどが暗く重いものとなっていた。時代設定は昔のものであるが、現在の社会にも通ずる女性のエンパワーメントにフォーカスが当てられ、セリーが独り立ちし、自身の洋服屋で女性用のズボンを販売するところは、型にはめられない女性像と社会進出を象徴していると思う。
6 『カラオケ行こ!』 監督/山下敦弘
合唱部部長の岡聡実はヤクザの成田狂児に突然カラオケに誘われ、歌のレッスンを頼まれる。組のカラオケ大会で最下位になった者に待ち受ける“恐怖”を回避するため、何が何でも上達しなければならないというのだ。狂児の勝負曲は X JAPAN の「紅」。聡実は、狂児に嫌々ながらも歌唱指導を行うのだが、いつしかふたりの関係には変化が起きる。
中学生が絶対にかかわるはずのないヤクザという存在と触れ合うことで、ファンタジーチックな空間が出来上がっていた。その空間が子供と大人が交わるものとなっていることで、日常で聡実の体に起きる大人への変化(声変わりなど)と対比され、思春期特有の子供の二面性を表現していると思った。
7 『俺物語!!』 監督/河合勇人
高校生に見えない顔と巨体の剛田猛男は、ある朝町で困っていた女子高生・大和凛子を助けて一目惚れしてしまう。しかし、凛子が猛男の親友のイケメン・砂川誠のことが好きだということに気づいてしまう。猛男の恋の行方はどうなるのか。
見た目で判断されがちだった猛男、心優しい部分を親友以外に見てもらうきっかけとなった出来事が、以前女性を助けたときと同じシチュエーションであったことで、猛男の本質を見てもらえたということがよくわかった。
8 『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』(ドラマ)
アベンジャーズ/エンドゲーム』後、新たな“キャプテン・アメリカ“誕生を描くマーベル・スタジオのドラマシリーズ。伝説的なヒーローを失い混沌とした世界で、ファルコンとウィンター・ソルジャーはヒーローを殲滅させる巨大な陰謀に立ち向かう。
人種、血清、特殊能力など、今までのキャプテン・アメリカでトピックにならなかったワードが多く出てきた。とくに、ベトナム戦争で暗躍した黒人の超人兵士の話が出てきたことで、話の中で透明化された存在が浮かび上がってきた。スティーブ・ロジャースは、純粋に個人として評価したサム・ウィルソンという人物が「アメリカ」という国を社会的に背負うことができるのかという視点が抜けていたことがわかった。
9 『キャプテン・アメリカ/ブレイブ・ニュー・ワールド』 監督/ジュリアス・オナー
“正義の象徴”を受け継いだ〈新たなキャプテン・アメリカ〉アメリカ大統領ロスが開く国際会議でテロ事件が発生。それをきっかけに生まれた各国の対立が、世界大戦の危機にまで発展してしまう。
サム・ウィルソンがキャプテン・アメリカとなったあとの話で、サムの本質がよく表れた話だった。サムは超人ではないが、努力と対話で信頼される人物としてキャプテンを務めていた。
この作品単作では理解できないほど昔の別作品の内容や登場人物が深く関わっていたことで、マーベル作品の情報量の多さからくる難解さが残っていると感じた。また、この中に出てくる日本がアメリカに対して優位に強く出る外交をしておりとても現実的ではなく、よく見られるオリエンタリズム的な描写でもないことがとても興味深かった。
10 『近畿地方のある場所について』(小説) 作/背筋
著者の友人で、ある場所にまつわることを調査し行方不明になった小沢さんを探しているという前書きから始まるモキュメンタリーホラー小説。
カクヨムというウェブ小説サイトで昨年話題になったモキュメンタリーホラーで、小説のモキュメンタリーという形式が斬新で面白かった。
はじめは「小沢さん」を探しているという情報、その小沢さんと著者が関わっていた「近畿地方のとある場所」にまつわる記事やインタビューが載っていた。その時点では単なるオカルト集のような印象を受けるが、ある時点で著者が意図的に何かの情報を隠していることがわかり、読者はそれが何なのかを知るために読み進めることになる。
最近、ネットフリックスの『呪詛』という映画で話題になった、主人公が視聴者に呪いをかけていたというものに通ずる結末で、ホラー系では読者・視聴者の日常を侵すような恐怖を与えるようなものが話題になるのだと思った。
11 『ルックバック』 監督/押山清高
学生新聞で4コマ漫画を連載している小学4年生の藤野。クラスメートからは絶賛を受けていたが、ある日、不登校の同級生・京本の4コマを載せたいと先生から告げられる。
『チェンソーマン』の藤本タツキ原作で、作画はマンガ版によく寄せられていた。内容は明らかに京都アニメーション放火殺人事件から影響を受けている。夢を追いかけ絵を描く少女たちの青春と挫折、絶望、希望を約60分に詰め込んだ作品だと感じた。タイトルの「ルックバック」が作中に効いていて、藤野の背中を追う京本の一人称視点が何度か登場すること、京本の背中に描いた藤野のサイン、過去を振り返るラストの流れ、作中の印象的で重要な要素は「ルックバック」を基本とされていた。
12 『幽霊の日記』 監督/針山大吾、小林洋介
茨城県稲敷郡。日本最大の異次元構造物のすぐ近くに、そのレストランはある。 そこでは十数年間、心霊現象が起こり続けていた。
YouTubeで期間限定公開された28分のショートフィルム。2021年リモートフィルムコンテストグランプリ作品『viewers:1』の続編。
『幽霊の日記』というタイトルから想像するとホラー作品かと思っていた。しかし、心霊現象と思っていた現象は、実は異次元構造物に影響され違う次元にいった未来の自分の影響で起きていたということがわかる。レストランの主人をしている主人公には未来の自分が見えておらず、違う次元の主人公からは見えている。ちがう次元の主人公は、その次元では独りぼっちだが、一瞬だけもとの世界線と繋がれる瞬間があり、人とのつながりを求めていく。コロナ禍に作られた作品の続編ということもあり、実際には会えない人とのつながりやそれを求めることへの前向きなメッセージが込められていると思った。
13 『私の夫と結婚して』(ドラマ)
夫パク・ミンファンと親友チョン・スミンの不倫現場を目撃した末期がんを患うカン・ジウォン。2人に殺されたジウォンは、突然10年前の過去に戻ってしまう。会社の上司ユ・ジヒョクに助けられながら、人生の“ゴミ”を処分し、運命を変えようと奮闘する。
タイムリープして自分の人生をやり直すという物語はよくあるが、このドラマはタイムリープしたのが主人公ともう一人、上司がいて、二人が協力関係を結ぶという少し変わった設定があった。また、タイムリープして運命を変えることで、他の人にその運命が移ってしまうというデメリットもあり、本筋の復讐が終わった後もその問題が出てくるなど、細かい設定がされていた。
14 『マッドマックス:フュリオサ』 監督/ジョージ・ミラー
世界崩壊から45年。バイカー軍団に連れ去られ、すべてを奪われた若きフュリオサは故郷への帰還を誓い、MADな世界(マッドワールド)に対峙する——巨大なバイカー軍団、その頂点ディメンタス将軍は可愛い熊の人形を持ち改造バイクで絶叫し、さらには、白塗りの兵隊ウォーボーイズたちが神と崇めるイモータン・ジョーは鉄壁の要塞を牛耳り、互いが覇権を争っていた。
前作同様、ディストピアの世界観の作り込みが壮大だった。物語自体は、フュリオサが前作に至るまでどのような生涯を送っていたかという前日譚で、男社会の中でフュリオサがどのように地位を築き上げたのかがわかるものだった。しかし、フュリオサが女性として力を持っていくというより、男性に紛れ込み男性としてだんだん成り上がっていた。この作品ではフュリオサが女性としての権利や暴力支配を変えることができないが、このつらい経験から前作のように支配された女性を解放しようとする意志が生まれたのだと思うととても納得した。
15『インターステラー』 監督/クリストファー・ノーラン
舞台は、寿命が尽きかけた地球。居住可能な新たな惑星を探すという人類の限界を超えたミッションに選ばれたのは、まだ幼い子供を持つ元エンジニアの男。彼を待っていたのは、未だかつて誰も見たことがない、衝撃の宇宙。はたして彼は人類の存続をかけたミッションを成し遂げることが出来るのか。
ノーラン監督の特徴でもある、時間の流れが混ぜこぜになるような映画の作りは難解だった。重力と時間の流れの関係性を解き明かした流れは、SF作品のなかでも異彩を放っていた。父親が地球を救うキーパーソンとなったのに、それが世間には知られず時の流れにも置いて行かれ、唯一真相を知る娘はおばあさんになっているという落ちは本当のハッピーエンドとはいえるのだろうか。
16 『ピンクの豹』(1964) 監督/ブレイク・エドワーズ
ヨーロッパの美しいプリンセスが持つ「ピンクの豹」と呼ばれるダイヤモンド。その宝石を盗むため、怪盗ファントムが動き出す。ファントムの逮捕を命じられたクルーゾー警部は追跡を開始するも、ドジばかりで行く先々で騒ぎを起こしてしまう。
有名な「ピンクパンサー」シリーズの第一作。
怪盗が宝石を盗むために念入りな作戦を立てるが予想外のことが起き続けるシチュエーションコメディで、それぞれの立場が入り乱れる展開が面白さを引き立てていた。
17 漫画『童夢』 作/大友克洋
不審死が多発する郊外のマンモス団地。捜査をする警察は、何人もの怪しい人物を目撃する。また一人、捜査員が不審死を遂げたのち、団地に引っ越してきた少女・悦子は超自然的な力を秘めていた。
『AKIRA』の作者として有名な大友克洋の歴史的傑作として名高い『童夢』だが、その評価に引けを取らない物語と漫画表現だった。躍動感のある漫画は多いが、この作品は静の描写が秀でていて、マンガの登場人物が感じているであろう異質感や恐怖を動きではなく止めの画で表現していた。また、映画的な表現も多く、スタンリー・キューブリックに影響されたであろう画角や、音(効果音)の有無、カットの選択など、今までの漫画表現ではないようなものが多数見られたと思う。
18 『パーフェクトブルー』 監督/今敏
2年続けたアイドルグループを卒業し女優への転身を図った霧越未麻。しかし、アイドルの皮を破るための過激グラビアやドラマの過激シーンなどの仕事が舞い込んでくる。急激な変化に戸惑う人々、さらに仕事関係者が犠牲となる事件が多発する。追い詰められた未麻は、もう一人の未麻を目撃するようになる。次第に現実と虚構の区別がつかなくなっていく。
現実と虚構が入り交ざり、区別がつかなくなるような描き方は、のちの『パプリカ』などにも引き継がれる今敏の作家性だと思う。
この『パーフェクトブルー』では、主人公の精神状態から時系列や記憶が錯乱しているというミスリードがうまく効いて、最後のもう一人の未麻の正体を衝撃的なものとしていた。
19 『羊たちの沈黙』 監督/ジョナサン・デミ
FBIの訓練生・クラリスは、女性を誘拐して皮を剥ぐ連続殺人鬼の捜査に加わることに。彼女の任務は獄中の天才精神科医・レクター博士の協力を得ることだった。クラリスは自分の過去を語ることと引き換えに、レクターから事件の手掛かりを聞き出すことになる。
この作品で人々の印象に残るのは、やはりレクター博士だと思う。しかし、レクターの登場時間は少なくセンセーショナルな事件を起こしても、その様子は描かれない。このような条件の中で人々の印象に残るのは、彼の映し方に理由があると考えた。意図的に全身が写されたり、極端に顔のアップが映ったり、彼がどこかちぐはぐで危険な見え方をする撮り方がされていた。
20 『国宝』 監督/李相日
任侠の家に生まれた喜久雄は、その美貌と才能を見初められ、上方歌舞伎の一門へ足を踏み入れる。やがてその才能と血をめぐる苦悩にさらされる。
まず、この映画は映像が美しかった。歌舞伎の舞台はもちろん、重要なシーンの背景やその取り方は、邦画というよりも洋画を彷彿とさせた。特に、あまり引きの画を撮らずに、人物をクローズアップして撮る場面が多く、ここぞというときに引き画がとられるため、その背景の美しさが引き立っていたと思う。
物語に関しては、ゲーテの悲劇『ファウスト』をベースにしていると考えた。「悪魔と取引した」という印象的な言葉の通り、その取引により得たものと失ったものを中心にめぐる物語はほとんど同様の流れを汲んでいた。喜久雄と俊ぼんは二人でファウストの役割を担い、喜久雄は悪魔と取引し、家族や信頼、俊ぼんの両足を無くす。両足=ファウストの失った両目であり、『国宝』はやはり悲劇として描かれていると考えた。
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