REPLY FORM
スポンサードリンク
三年 中村昂太郎
RES
1『さくらのまち』(小説)作者:三秋縋
[概要]
二度と戻らないつもりでいた桜の町に彼を引き戻したのは、一本の電話だった。
「高砂澄香が自殺しました」
澄香――それは彼の青春を彩る少女の名で、彼の心を欺いた少女の名で、彼の故郷を桜の町に変えてしまった少女の名だ。
澄香の死を確かめるべく桜の町に舞い戻った彼は、かつての澄香と瓜二つの分身と出会う。
あの頃と同じことが繰り返されようとしている、と彼は思う。
ただしあの頃と異なるのは、彼が欺く側で、彼女が欺かれる側だということだ。
[考察]
世界観は現代日本ではあるものの、その世界の中には現実には存在しない技術があり、それが自然な描写で作中の世界に馴染んでいた。近未来的な設定がある中で、テーマとなっているのは現実世界にも当てはめることができるものだった。また、作者が東北出身であることもあってか、雪国とそこに住む人間の心情の描写がとてもリアルで、主人公の寒々しい心象風景と重なって読めた。
人を信じられなくなった主人公が過去のトラウマと向き合い、前を向けるようになるまでを丁寧に描いている中で、高砂澄香の死の真相を追うミステリー要素もあり、読者に途中で飽きさせない工夫があった。
青春をやり直す物語ではなく、青春の思い出を取り戻す物語だった。全ての真相が明らかになった時にはすでに手遅れであり、主人公ははじめと変わらず孤独のままであるにも関わらず、終わりはとても爽やかなものとなっていた。これは物語が主人公の視点で進んでおり、心情の変化が読者に伝わりやすくなっていることによって、結末がいわゆるビターエンドとなっていても爽やかな読後感を与えられていると考える。
2 『超人X』(漫画)作者:石田スイ
【概要】
黒煙を上げ墜落していく飛行機が目撃された。それはどうやら“超人”によって引き起こされたものらしい。しかし、不思議なことにその事故は機体の損傷も少なく、何より生存者が「200名」もいた。高校生の黒原トキオと東アヅマは事故処理のボランティアの帰り、因縁の不良にいきなり絡まれるが…
いつもと何か様子がちがう──
【考察】
現在も連載中であり、大きく分けて第一部と第二部に分けられるが、第一部は主人公のトキオが自身の力と向き合い、今後どのように生きていくかを決めるまでがキャラクター同士のコミカルな会話で描かれている。物語全体の空気感がコミカルだが、シリアスな展開を描く時はギャグ抜きにしっかりとシリアスを描くため、作品にメリハリが生まれている。それでいて展開に唐突な印象は無く、非日常が日常とシームレスに繋がる延長線上にあるもののように描かれている。
トキオなどの主要人物は高校生ということもあり、登場人物が作中で自分のこれからの人生について考える描写が多く存在する。第一部はキャラクターそれぞれの信念を描写し、第二部からは、成長して強くなったトキオたちが作中世界の問題にその信念に従って立ち向かう様が描かれている。
第二部からはトキオが戦うことに対して葛藤する場面が多く、敵味方問わず多くの登場人物たちの思惑の中で自身の信念を曲げないトキオの強さと優しさが描かれている。
3 『灰仭巫覡』(漫画)作者:大暮維人
【概要】
「夜」。それはかつて天災と呼ばれていたもの。人智を超えた災害の襲来に対し、少年たちはただひたすらに舞う。神々の力を借りる為、「夜」の怒りを鎮める為、そしてこの世界を救う為――。日本の田舎町に住む少年・仭は、「夜」により故郷を追われた英国軍人・ガオと出会う。自然に囲まれたのどかな町で、仲間たちと青春を過ごす二人。しかしそんな彼らの下に、再び「夜」が襲い来て……!?
【考察】
物語の展開そのものは王道のバトルものだが、大暮維人の圧倒的な画力で描かれるそれは外連味あふれるファンタジー作品となっている。世界観はオカルトが霊磁力学という科学として確立された世界で、登場人物たちの生活に違和感なく密接に溶け込んでおり、しかしそこで過ごす人々、特にメインとなる高校生たちの価値観は現代と共通するものが多く、設定の壮大さと膨大な書き込み量の作画に圧倒されてしまうが、読み進めれば登場人物たちの青春活劇に引き込まれるようになっている。
4『君の話』(小説)作者:三秋縋
【概要】
手違いから架空の青春時代の記憶を植えつけられた孤独な青年・天谷千尋は、その夏、実在しないはずの幼馴染・夏凪灯花と出会う。戸惑う千尋に灯花は告げる、「君は、色んなことを忘れてるんだよ」。出会う前から続いていて、始まる前に終わっていた恋の物語。
【考察】
偽りの記憶である「義憶」をめぐったミステリーであると同時に、夏凪灯花とのラブストーリーでもあった。伏線回収が鮮やかでわかりやすく、また、主人公の考えの変化がとても丁寧に描かれており、終盤の展開に説得力が生まれている。
物語を通して虚構の優しさを描いており、虚構を嫌悪し、なおかつ現実にも希望を見出せない主人公が、夏凪灯花と過ごしていく過程で虚構を受け入れていくまでの描写で、読者にも虚構を受け入れさせるようなつくりとなっている。
5『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』(アニメ映画)監督:黒川智之
【概要】
3年前の8月31日。東京の空に突如巨大母艦が出現し、この世は終わるかに思えた。しかし、母艦が浮かぶ東京の空は日常に溶けこんでいった。そんな東京に住む女子高校生の小山門出と中川凰蘭は、受験勉強に追われながら、毎晩オンラインゲームを楽しんでいた。
【考察】
ごく普通の高校生の日常の中に巨大な「母艦」が浮かぶ光景はとても異質で、その母艦から始まり徐々に日常が蝕まれていき、決定的に変わってしまう瞬間の演出がとてもゾッとするものになっていた。また、前編では主人公たちの過去で、純粋な子どもが超常的な力に溺れて後戻りができなくなってしまう様を丁寧に描いており、伏線として視聴者に強烈な印象を残す役割があったと考える。
後編から完全に日常から離れてしまうのかと思いきや、環境が変わっただけで主人公たちの日常に大きな変化はなく、作中世界で起こる様々な問題や事件からも完全に蚊帳の外となっており、それがむしろ、非日常な出来事が起こるようになっても、結局いつかはそれも含めて日常となるというリアルな表現になっていたと考える。
6『チ。ー地球の運動についてー』(アニメ)監督:清水健一
【概要】
15世紀前半のヨーロッパの「P王国」では、「C教」という宗教が中心となっていた。地動説は、その教義に反く考え方であり、研究するだけでも拷問を受けたり、火あぶりに処せられたりしていた。その時代を生きる主人公・ラファウは12歳で大学に入学し、神学を専攻する予定の神童であった。しかし、ある日、地動説を研究していたフベルトと出会ったことで地動説の美しさに魅入られ、命を賭けた地動説の研究が始まる。
【考察】
物語全体のテーマはいくつもあるように感じたが、私は最も重要なものは「知ることへの欲求」だと考える。作中の人物が命をかけて地動説を研究することの理由の根幹にあるものは、真実を知りたいという想いだった。知ろうとすることが制限されている時代を舞台に知ることを諦めない人間を描くことで、その重要性が視聴者に伝わりやすくなっていた。
天文学をめぐる話だが、鑑賞するのに教養が必要というわけではなく、事前知識などがなくても作品のテーマを理解することができるつくりになっていた。
7『ベイビーわるきゅーれ』(映画)監督:阪元裕吾
【概要】
プロの殺し屋である女子高生コンビが、卒業を機に表の顔として普通の社会人を演じることになる。しかし、人殺ししかしてこなかった彼女たちは、社会に馴染もうと悪戦苦闘する。
【考察】
主人公二人の若者らしい言動を通して人の命が軽い裏社会をとてもコミカルに描いていた。人殺ししか取り柄が無く全く社会に馴染めない者と、一見コミュニケーション能力の高い常識人のように見えて、すぐに暴力を振るってしまう者のコンビで物語は展開されていく。どちらも社会で生きていく上で致命的な欠点があり、最終的にはその欠点をお互いに受け入れる。殺し屋というショッキングなテーマだが、描かれているものは王道のバディ物と言える。
殺し屋コンビが主人公なので、当然アクションシーンが多い作品となっているが、登場人物たちが人を殺すことに一切躊躇が無いので、むしろ爽快なアクションとなっている。
8『スパイダーマン:スパイダーバース』(アニメ映画)監督:ボブ・ペルシケッティ ピーター・ラムジー ロドニー・ロスマン
【概要】
スパイダーマンことピーターの訃報により、悲しみに包まれるニューヨーク。彼の役目を引き継いだ少年は、闇社会との戦いに不安を覚えていた。そんな中、彼は時空のゆがみによって並行する別の宇宙からやってきた中年のピーターと出会う。
【考察】
別々の次元からやって来たスパイダーマンが一緒に戦うお祭り映画のような作品だった。同時に、一人の少年が大いなる責任を果たすためにスパイダーマンになるという、これまでのスパイダーマン作品の原点を改めて描いた作品でもあった。
CGアニメと手書きアニメの良いとこどりとも言えるようなアニメーションの作りとなっており、アメコミがそのまま映像化したような演出と合わさり、とても鮮やかな画面となっていた。
9『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』(アニメ映画)監督:ホアキン・ドス・サントス ケンプ・パワーズ ジャスティン・K・トンプソン
【概要】
マルチバースを自由に移動できるようになった世界。マイルスは久々に姿を現したグウェンに導かれ、あるユニバースを訪れる。そこにはスパイダーマン2099ことミゲル・オハラやピーター・B・パーカーら、さまざまなユニバースから選ばれたスパイダーマンたちが集結していた。愛する人と世界を同時に救うことができないというスパイダーマンの哀しき運命を突きつけられるマイルスだったが、それでも両方を守り抜くことを誓う。しかし運命を変えようとする彼の前に無数のスパイダーマンが立ちはだかり、スパイダーマン同士の戦いが幕を開ける。
【考察】
マルチバースと呼ばれる多くの次元が舞台となっており、前作同様様々なスパイダーマンが登場するお祭り映画となっている。カノンイベントというスパイダーマンが避けられない大切な人の死という事象を主人公が否定することが、視聴者がスパイダーマンをよく知っていればいるほど、その行動の重みが理解できるので、ファン向け映画と言えるが、世界中で有名なスパイダーマンなので、それがハンデになっていなかった。
前作とは違い、登場人物が非常に多くなっているので、画面の情報量がとても多く、それでいて見づらさなどは無いように工夫されて作られていた。
10『その復讐、お預かりします』(小説)作者:原田ひ香
【概要】
愛した男に騙され仕事を失った美菜代は、凄腕の復讐屋がいるという噂を聞きつけ、その男、成海慶介の事務所を訪ねる。しかし提示された依頼料は高額で、とても払えない。追い返されても諦めきれない美菜代は成海のもとで働かせて欲しいと頼み込み、押しかけ秘書となるが——。
【考察】
様々な依頼人が登場し、様々な依頼を受けていたが、どれも結論は復讐なんてしなくても良いというものだった。タイトルから暗い復讐譚を想像してしまうが、内容はとても温かく、苦しめられた弱者に寄り添ったものとなっていた。
物語全体を通して主題となっていた美菜代の復讐は、最終的にどうなったのかは描かれなかったが、それまでに描かれていたこの作品が定義する、何もせずにいることが復讐という論理を読者は理解できているので、不完全燃焼にはならず、非常に爽やかな読後感が味わえるようになっていた。
11『限りなく透明に近いブルー』(小説)作者:村上龍
【概要】
米軍基地の街・福生のハウスには、音楽に彩られながらドラッグとセックスと嬌声が満ちている。そんな退廃の日々の向こうには、空虚さを超えた希望がきらめく――。
【考察】
性やドラッグについての描写が大変生々しく、読んでいて脳内に映像が流れ込んでしまうほどだった。真実はわからないが、村上龍はドラッグを使用したことがあるのかと思ってしまうほどのリアリティがあった。あまりに描写がリアルなため、読んでいる途中で気分が悪くなってしまう人間も多くいるということに納得した。私も何度か読む手が止まってしまった。途中手が止まることはあるが、それでも文を追う目が止められない不思議な引力のようなものが作者の文章にあったように感じる。純文学とそれ以外の違いがわからない人間がこの作品を読んでも、これが純文学であると無意識に理解してしまうほどだった。
12『グレイテスト・ショーマン』(映画)監督:マイケル:グレイシー
【概要】
19世紀半ばの米国で、失敗を繰り返しながらも家族のために奮闘し続ける興行師の男性。やがて、唯一無二の個性を持つ演者を集めたかつてないサーカスを始める。彼らのショーは成功を収めたが、同時に批判家たちは酷評。なおも彼は、次なる挑戦を続けていく。
【考察】
マイノリティに属する人々が居場所を手に入れることがテーマのひとつだったが、居場所を与える主人公はマイノリティに対して理解がある訳でも同情から行動しているわけでもなく、終始金儲けのために動いていた。主人公のそうした姿勢は終盤で改善されるのだが、19世紀という時代の中で初めから聖人のような主人公を用意せずに、初めは現代の人間からすれば多少の嫌悪感を抱いてしまう造形の人物を採用することで、時代背景に合ったリアリティが表現出来ていたと考える。
劇中に挟まれる曲のクオリティも非常に高く、そのシーンに合った歌詞と演出でセリフで語らせるよりも効果的に歌っている人物の心情や性格を描写していた。
13『ラグナクリムゾン』(漫画)作者:小林大樹
【概要】
銀剣を振るい、竜を狩り、報酬をもらう職業──『狩竜人(かりゅうど)』。ヘボ狩竜人の少年・ラグナは、ぶっちぎりの竜討伐数を誇る天才少女・レオニカとコンビを組み、日々、竜討伐に挑んでいた。ラグナの願いはひとつ──「強くなれなくてもいい。レオのそばにずっといたい。」少年の想いは最凶最悪の竜の強襲により、儚くも散りさる…。
【考察】
初めは主人公が圧倒的な強さで敵を蹂躙する作品という印象を受けるが、物語が進むにつれて主人公よりも強い敵がいくつか登場し、スケールの大きい王道バトル漫画となった。しかし、主人公の相棒の非人道的な行為によってこの作品の個性が補強されている。また、相棒の非人道的行為は常に敵を倒すための行動であることと、調子に乗ればすぐに報いを受けさせることで読者のストレスをこまめに軽減させる工夫もされていた。
14『ベイビーわるきゅーれ 2ベイビー』(映画)監督:阪元裕吾
【概要】
プロの殺し屋である、ちさととまひろ。一方、お金に困っていた殺し屋協会アルバイトのゆうりとまことは、ちさととまひろのポストを奪うため、2人を殺すことを決意する。
【考察】
常にちさととまひろと、ゆうりとまことの二組を対比しており、プロの殺し屋としてある程度の暮らしが約束されているちさととまひろに対して、アルバイトで苦しい生活を送るゆうりとまことは、お互いが自分たちの有り得た姿であると認識していることをセリフを使わずに表現していた。
全体の雰囲気はコメディでありながらも、ゆうりとまことが物語が進むにつれて破滅へ追い詰められていく様は、裏社会を描く作品特有の非情さが表れていたと考える。しかし、終盤の決着シーンはとても爽やかに描かれており、殺し合いの結末をここまで爽やかに描けるのはこの作品特有の重苦しくも軽薄でも無い雰囲気が為せるものだと考える。
15『ジョン・ウィック』(映画)監督:チャド・スタエルスキ デヴィッド・リーチ
【概要】
愛する女性との出会いをきっかけに、裏社会から足を洗った伝説的殺し屋ジョン・ウィック。平穏な生活を送っていた彼の心の支えを、ある日突然ロシアンマフィアが奪っていく。怒りに震える彼は、1人で復讐することを決意する。
【考察】
ジョン・ウィックが次々と刺客を倒していく爽快なアクションが間違いなく見所の一つである。また、希望を奪われ全てがどうでもよくなった男が新たに前を向いて生きるまでの過程を描いており、ラストシーンで重傷を負ってそのまま死のうとしたジョン・ウィックが、亡くなった妻の動画から聞こえる声で目を覚まし生き残ろうとする姿は、これから彼の人生が暗いものにはならないだろうと視聴者に思わせるものとなっている。
16『税金で買った本』(漫画)原作:系山冏
【概要】
小学生ぶりに図書館を訪れたヤンキー石平くん。10年前に借りた本を失くしていたことをきっかけに、あれよあれよとアルバイトすることに! 借りた本を破ってしまった時は? 難しい漢字の読み方を調べたい時は? ルールに厳しくも図書を愛してやまない仲間と贈る、読むと図書館に行きたくなる図書館お仕事漫画。
【考察】
職員の視点から図書館のルールや仕組み、職員の苦悩などが分かりやすく解説されており、それらを通して「本を読んで学ぶこと」の大切さ、楽しさを描いている。主人公が何も知らないヤンキーでありながらも、好奇心旺盛な少年であるが故に、解説パートへスムーズに移行することができていた。
図書館というテーマであるからこそ、その地区で暮らす市民に寄り添った内容になっている。様々な事情を抱えた人たちを登場させることで、そこで暮らす人であれば誰でも図書館を利用する権利を持っているというメッセージを込めていると考える。
17『写らナイんです』(漫画)作者:コノシマルカ
【概要】
視えてはいけないものを引き寄せてしまう、
“超霊媒体質”の黒桐まこと。
オカルト部に情熱を捧げる
橘みちると出会い、
彼の世界が変わり出すーーー
【考察】
クォリティの高いホラー演出と、間髪入れず挟まれるギャグの落差を楽しむ作品だった。ホラーとギャグのメリハリがしっかりしており、ホラー展開をする時は茶化さずにホラーをやり、ギャグをする時は真面目にギャグをやることで、ホラーの際に読者に緊張感を与え、それをギャグで一気に解放するつくりになっている。
登場人物全員が癖の強い人たちなので、ホラーにただ翻弄される被害者で終わらず、自ら状況を掻き回すシーンが多々ある。それによって読者側がキャラを覚えやすく、また感情移入しやすい構造になっていると考える。
18『孤狼の血』(映画)監督:白石和彌
【概要】
昭和63年。広島の地方都市・呉原では、2つの組が一触即発の状態で睨み合っていた。その一方の関係者が行方不明となる中、新米刑事・日岡秀一が呉原東署に赴任する。ほどなく暴力団絡みの事件が発生したことで、彼は凄腕ながら黒い噂が絶えないベテラン刑事・大上章吾と共に暴力の世界に切り込んでいく。
【考察】
本編が始まってすぐに拷問シーンから入るため、かなり人を選ぶ作品という印象を受けるが、そこから立て続けにショッキングなシーンが差し込まれるので、視聴者を慣らすという役割も持っていたと考える。
舞台が昭和の広島ということもあってか、カメラワークに昭和時代によく見られた手法を用いられていた。また、画質なども作品の質を落とさない範囲で昭和らしさを表現しようとしており、作中で起こる令和では考えられない出来事にもある程度の説得力が生まれている。
題材と画面がショッキングだが、ストーリーの本質は継承をテーマにしたバディものとして大きな魅力を持った作品である。日岡が大上に対して尊敬の念を持ち始める過程がセリフを用いずに描かれており、中盤まで視聴者と日岡の目線が同じになっているため、視聴者が大上に魅かれるタイミングと日岡が大上に魅かれるタイミングがほぼ同時になっている。大上の意思が日岡に受け継がれるまでには、視聴者は二人に感情移入せずにはいられないつくりになっていた。
19『常人仮面』(漫画)原作:一路一
【概要】
生まれつき心臓が悪い男子高校生・大高克人(コクト)は、
双子の姉・克己(カツミ)と養生するため北海道に移住する。
クラスメイトとも打ち解けてきたコクトだが、
ある出来事をきっかけに心身に大きな変化が現れる――――
愛する姉(ツミ)を守るため、
あらゆる禁(ツミ)を踏み越える。
【考察】
世界観の設定が今までに無いほど斬新で、創作物が溢れた現代でここまで独自性を出せるのは作者の実力あってこそだと考える。また、斬新で難解な世界観を読者に分かりやすく伝えるために、常に分かりやすい情報から小出しにしていくことで、少しずつ読者が世界観を理解できるようになっている。
残酷な世界で、周りの人間も残酷になることを強制される中、主人公だけは元来の性質を保ったまま暴れ回るため、敵・味方問わず異常者扱いされるシーンが多々ある。しかし、先述した通り主人公の性質は全く変わっておらず、異常に適応するために変わっているのは周囲の人間の方であるという状況を指して、『常人仮面』というタイトルがつけられたと考える。
20『PERFECT BLUE』(アニメ映画)監督:今敏
【概要】
人気絶頂のさなかにアイドル・グループから脱退し、女優に転身を図った美少女・未麻。ある日、彼女のもとに熱狂的ファンらしい人物から脅迫めいたFAXが届く。やがてその行為はエスカレートし、未麻は次第に身の危険を感じ始める。
【考察】
何が現実で何が夢なのかわからなくなってしまうような演出が恐ろしく、目が離せない。主人公の視点で物語が進むため、完全に真実が明かされることは無く、見ている人間も明確に真実を理解できないようにつくられていた。
主人公が本来望んでいた道とは別の道に進まされてしまい、本当の自分がわからなくなってしまう様が描かれており、これはどの時代に生きる人間にも当てはまることだと感じた。ゆえに90年代の作品ではあるが、現代の人間が見ても気付きが得られる作品だと考える。また、時代背景を考慮すると、まだストーカーという単語が世の中に浸透していない時代でストーカーの恐ろしさをリアルに描いている点に、この作品の持つ影響力を感じた。
スポンサードリンク