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宇都穂南
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3年 宇都
夏休み課題 1〜15
1.ルックバック/監督:押山清高(映画版)
学年新聞で4コマ漫画を連載している小学4年生の藤野。クラスメートから絶賛され、自分の画力に絶対の自信を持つ藤野だったが、ある日の学年新聞に初めて掲載された不登校の同級生・京本の4コマ漫画を目にし、その画力の高さに驚愕する。以来、脇目も振らず、ひたすら漫画を描き続けた藤野だったが、一向に縮まらない京本との画力差に打ちひしがれ、漫画を描くことを諦めてしまう。
しかし、小学校卒業の日、教師に頼まれて京本に卒業証書を届けに行った藤野は、そこで初めて対面した京本から「ずっとファンだった」と告げられる。
漫画を描くことを諦めるきっかけとなった京本と、今度は一緒に漫画を描き始めた藤野。二人の少女をつないだのは、漫画へのひたむきな思いだった。
しかしある日、すべてを打ち砕く事件が起きる…。
原作は藤本タツキの読切漫画。線を何度も重ねる特徴的な絵柄を映画では雰囲気そのままに表現しており、綺麗な線に整えて放送した同作者の『チェンソーマン』アニメ版とは全く違っていた。
京アニ事件を明確に匂わせる内容である。藤野は作中で京本が事件に巻き込まれなかった世界を妄想するが、結局はそれは幻想であり、事件が起こってしまった世界で漫画を描き続ける藤野の背中を写したところで映画は終わる。藤野と京本が名前からして作者の分身であろうことから、京アニ事件で作者が抱くことになった喪失感と、現在の作品づくりへの姿勢が表現されているのではないかと思った。
2.仄暗い水の底から/監督:中田秀夫
5歳の娘・郁子の親権をめぐって別れた夫と争っている松原淑美は、新しい就職先である出版社の近くにあるマンションへ引っ越す。はじめは快適そうに見えたマンション暮らしだが、大きくなる天井のシミや、上階の子どもの足音など、淑美の気にさわることが次第に増えていく。そんな中、淑美は真夜中にマンションの屋上にあがる郁子を目撃する。
古いホラー映画の画面は暗く画質が粗いので、現在の鮮明で明るい画面よりも雰囲気が作りやすい利点があったと思う。その暗いグレーがかったような画面の中で、赤いバッグが目を引き不気味な存在感があった。
この作品はホラー作品ではあるが、おそらく主題は母娘の絆である。母親を求める霊と、それを気の毒に思うのと娘を守りたい気持ちで霊についていくことを決心する母親が描かれる。
また終盤、エレベーターから大量の泥水が出てくるシーンは『シャイニング』のオマージュかもしれない。『シャイニング』に出てくるのは息子と母親の組み合わせだが、子どもを守ろうとする母親の強さが表現された作品という点で共通点がある。
3.クレヨンしんちゃん オラたちの恐竜日記/監督:佐々木忍
現代に恐竜をよみがえらせた一大テーマパーク“ディノズアイランド”が東京にオープン。世はまさに恐篭フィーバー!しんのすけたちはその頃、シロが出会った小さな恐省“ナナ”と、特別な夏を過ごしていた。そんなナナを巡って、争奪戦がスタート!ディノズアイランドをオープンさせたバブル・オドロキーは、あの手この手でナナの居場所を探す。「ある秘密」がバレる前に……。
映画で登場させたキャラクターとは映画が終わるときに別れなければならないが、その手段として“死”が用いられていた。クレヨンしんちゃんの映画で人が死んだことは過去にもあったはずだが、一度は野原家に家族として迎え入れられた小さい生命体を最後に死なせることにかなり驚いた。
「承認欲求の暴走」や「支配してくる親からの自立」といった現代らしいテーマが取り上げられていたが、作品自体は様式美に則っており、あまり新しい展開はなかった。
4.レキシントンの幽霊/村上春樹
氷男は南極に戻り、獣はドアの隙間から忍び込む。幽霊たちはパーティに興じ、チョコレートは音もなく溶けてゆく。短篇七篇を収録。
なんとなく怖さを感じるような話を集めた短編集である。表題作「レキシントンの幽霊」には、「これは数年前に実際に起こったことである。」とあるが、村上は主人公と同じマサチューセッツ州ケンブリッジに住んでいたことがあるため、もしかすると本当に起こったことなのかもしれない。知人の家で泊まり込みの留守番をしていたら夜中に大勢の幽霊が現れパーティーをする音が聞こえたという話である。家の持ち主の台詞「つまりある種のものごとは、別のかたちをとるんだ。それは別のかたちをとらずにはいられないんだ」から、幽霊が出てきたときに姿を消していた、この家の寂しがりやの犬がその幽霊たちの正体だったのではと想像したが、想像の域を出ない。このような絶妙に考察しにくい話ばかりの短編集である。
5. 半神/萩尾望都
双子の姉妹ユージーとユーシー。神のいたずらで結びついた2人の身体。知性は姉のユージーに、美貌は妹のユーシーに。13歳のある日、ユージーは生きるためにユーシーを切り離す手術を決意した……。
わずか16ページの漫画だが、自分が切り離すことを決めた妹に自分の影を見るシーンには寒気がした。昔の少女漫画の繊細な絵がこの話にマッチしている。
姉妹間格差というものは二人姉妹の姉である私も意識して生きてきており、創作物では妹や末っ子の方が善人として描かれがちなことに疑問を持ってもいた。
ユージーは人生をユーシーの存在に制限され、負担に思っている。この問題は障害児・きょうだい児問題にそのまま繋がっているだろう。ユーシーを切り離したユージーが心安らかにすごせるようになるわけでもないというところが示唆的である。
6.おたんこナース/佐々木倫子
病院に勤務しはじめて5週間の新米看護婦・似鳥ユキエは、まだまだわからないことだらけ。にぎやかな性格の彼女だが、失敗と緊張の連続に涙することも。患者の前では笑顔をと心がけているユキエだが、どうしても相性の悪い患者が1人いる。それは、腸の病気で入院している高校3年生の男の子・三浦君。何かにつけて突っかかってくる彼と、なんとか心を通わそうとするユキエだが…
ジャンルはお仕事コメディ作品である。佐々木倫子の作品には破天荒な女性キャラクター(とそれに振り回される男性キャラクター)がつきもので、今作は主人公の似鳥ユキエがそのタイプである。ギャグシーンも多いが、専門的な内容を面白く紹介したり、患者から看護師への暴言、終末ケアの問題、尊厳の問題などを取り扱っている回もある。
7.ブルーホール/吉呑太雄
とあるマンションの部屋の一室に足を踏み入れた人間は、皆行方不明になっていった。
マンションの大家は、いま話題の「オカルト調査団」にその部屋の調査を依頼するのであった。
今作はYouTubeで見ることができる、自主制作ホラー映画である。
「先の見えないような暗闇」「大量の水」に対する根源的な恐怖感を煽るようなホラーだと思う。なぜマンションの一室が異世界への入り口になったのか、あの世界は何なのか、元の世界へ戻ってこられるのか、などは説明されず終わってしまう。多くの場合、規則性を見つけると物事の怖さは薄れるので、この部屋の理不尽さやわからなさが怖さに繋がっていると思う。
8.蠱毒(poison)/山河図
一人暮らしの山下の家に来た村井と、その友達の石森。次第に打ち解けていくようで、3人の会話にはずっとどこか違和感がある。石森は山下の秘密と村井の魂胆に気がついて__。
この作品もYouTubeで見ることができる自主制作ホラー映画である(現在は公開停止中)。会って少ししか経っていない女子同士の雰囲気ってこんなかんじだよね、と頷きながら観ていたら気持ち悪い空気感がそのまま延々と続く。おそらく内容としては、山下は頭部を欲する怪異、それを利用して石森を殺そうとする村井と、その魂胆に気がついて先に村井を殺してしまう石森、というよくあるホラー映画の流れであるが、この作品の気持ち悪さは映像から出ていると思う。話している人物の顔が影になっていたり、灰皿の上にいる虫を写し続けたりと画面が気持ち悪い。虫の映像はタイトル「蠱毒」にかかっていると思われ、さらに「蠱毒」と山下の言う「孤独」もかかっているはずである。
9.辺境・近境/村上春樹
久しぶりにリュックを肩にかけた。「うん、これだよ、この感じなんだ」めざすはモンゴル草原、北米横断、砂埃舞うメキシコの町……。NY郊外の超豪華コッテージに圧倒され、無人の島・からす島では虫の大群の大襲撃! 旅の最後は震災に見舞われた故郷・神戸。ジャンルは紀行文。
村上春樹の特徴的な文体は小説だから自然に馴染んでいるのかと思っていたが、紀行文でも不思議と馴染んでいる。紀行文なので初対面の人物を描写する場面が多々あり、それが多様で面白かった。松村映三氏の写真や、安西水丸氏の絵なども楽しめるし、うどんの食リポも読むことができる貴重な作品である。(ちなみに私はこの夏休みに、この本に出てくる神戸のピザ屋に行った)
10.富豪刑事/筒井康隆
キャデラックを乗り廻し、最高のハバナの葉巻をくゆらせた“富豪刑事"こと神戸大助が、迷宮入り寸前の五億円強奪事件を、密室殺人事件を、誘拐事件を……次々と解決してゆく。金を湯水のように使って。靴底をすり減らして聞き込みに歩く“刑事もの"の常識を逆転し、この世で万能の金の魔力を巧みに使ったさまざまなトリックを構成。SFの鬼才がまったく新しいミステリーに挑戦した傑作。
全4話が収録されている。第2話では登場人物が突如「こちら」を向いて読者に話しかける。そして話し終わるとまた向こうに向き直って話が進むというメタ的な展開がある。次の第3話では、途中から文章にA、A'、B、B'、…と記号がふられ、「この順番で読むと謎解きを楽しめる」「この順番で読むと時系列順に読める」と指定される。
終盤になるにつれ、登場人物や地の文(作者)のメタ発言が増えコメディ要素が強くなっていくなど、構成において随分と実験的な作品である。
11.狂つた一頁/衣笠貞之助 (サイレント映画)
妻子を顧みず、長い旅に出ていた船員の男。置いていかれた妻は精神に異常をきたし、閉鎖病棟に入っていた。彼は病院で小間使いとして働きながら、妻を見守る。そんなある日、結婚を控えた2人の娘が病院に訪ねてくる。男は隙をついて妻を逃がそうとするが、妻に抵抗されてしまう。ささやかな夢と悲しみにはさまれ、男は幻想を見るようになる。
サイレント映画を観慣れていないので、ストーリーを全く頭に入れずに観たところ解釈した内容と実際の内容が全く違った。
精神科の閉鎖病棟が舞台で、さまざまな患者が登場する。妻の隣の房で踊り続けている女の患者や、3人組の男の患者など、台詞がなくても鬼気迫る狂った演技が観ていて怖さを感じるほどである。男の幻想で、病棟の患者たちに笑いの能面をつけていくシーンがあったが、原作を書いた川端康成が撮影の際に急遽言い出したことであったらしい。原作小説も読んでみたい。
12. グスコーブドリの伝記/宮沢賢治
グスコーブドリはイーハトーブの森に暮らすきこりの息子として生まれた。冷害による飢饉で両親を失い、妹と生き別れ、工場に労働者として拾われるも火山噴火の影響で工場が閉鎖するなどといった苦難を経験するが、農業に携わったのち、クーボー大博士に出会い学問の道に入る。課程の修了後、彼はペンネン老技師のもとでイーハトーブ火山局の技師となり、噴火被害の軽減や人工降雨を利用した施肥などを実現させる。ところがイーハトーブはまたしても深刻な冷害に見舞われる。ブドリは火山を人工的に爆発させることで飢饉を回避する方法を提案する。しかし、クーボー博士の見積もりでは、その実行に際して誰か一人は噴火から逃げることができなかった。犠牲を覚悟したブドリは、止めようとするクーボー博士やペンネン老技師を冷静に説得し、最後の一人として火山に残った。ブドリが火山を爆発させると、冷害は食い止められ、イーハトーブは救われたのだった。
作品内ではたくさんの男性キャラクターが主人公ブドリを育てる。父親のグスコーナドリ、てぐす飼いの男、「赤ひげ」と呼ばれる農家の男、クーボー大博士、ペンネン技師など、実に多くの男性がブドリに知識と経験を授けている。それに対して女性キャラクターはそもそもあまり登場せず、妹のネリ以外名前も明かされない。母親の名前すら出てこないのである。農業に携わって苦労を重ねる男たちが1人の青年を育て上げ、飢饉を回避しました、というどこかスポ根魂を感じさせる作品だと感じた。
13.伊豆の踊子/川端康成
孤独や憂鬱な気分から逃れるため伊豆へ一人旅に出た青年が、修善寺、湯ヶ島、天城峠を越え湯ヶ野、下田に向かう旅芸人一座と道連れとなり、踊子の少女に淡い恋心を抱く旅情と哀歓の物語。
これは恋心を描いた作品なのだろうか。個人的には、悩みを抱えた一高生の主人公「私」が、茶屋の病気の爺さんや乞食のように言われる旅芸人一行、孫3人を連れて水戸へ帰る婆さんなどの、なんというか「リアルな」社会的弱者と接するというところが重要なのではないかと思った。
14.銀河鉄道の夜/宮沢賢治
気弱で孤独な少年ジョバンニと親友のカムパネルラは、銀河鉄道で天の川に沿って南十字へと向かう。この鉄道の不思議な乗客たちは、天上に向かう死者たちであった。死者たちの口からは「本当の幸い」について繰り返し語られ、ジョバンニもまた、何がみんなの本当の幸いなのかと考え始める。
ジョバンニが銀河鉄道に乗る前に、今日の分の牛乳をもらいに行ってくると言って家を出る。学校では天の川の授業をやっていたり、銀河鉄道の中ではカムパネルラと天の川を見る場面があったり、天の川(milky way、乳の川)と牛乳を掛けていると思われる。
15.星の王子さま/サン・テグジュペリ
操縦士の「ぼく」は、サハラ砂漠に不時着する。1週間分の水しかなく、周囲1000マイル以内に誰もいないであろう孤独で不安な夜を過ごした「ぼく」は、翌日1人の少年と出会う。話すうちに、少年がある小惑星からやってきた王子であることを「ぼく」は知る。
青空文庫(大久保ゆう訳)と集英社文庫(池澤夏樹訳)を読んだ。青空文庫はほとんどがひらがなで書かれたおそらく子供向けのもので、集英社文庫は大人が読みやすい訳になっている。
王子さまは、自分の小さな星に自分の大事な花を置いて旅をしていた。王子さまは砂漠の星空を見て「星がきれいなのは、見えないけれどどこかに花が1本あるからなんだ……」と言う。同様に、砂漠がきれいなのはどこかに井戸があるからだとも言う。この部分について、『天空の城ラピュタ』のエンディング曲「君をのせて」の一節、「あの地平線輝くのは どこかに君をかくしているから たくさんの灯がなつかしいのは あのどれかひとつに君がいるから」と同じ意味なのではないかと思った。
夏休み課題 1〜15
1.ルックバック/監督:押山清高(映画版)
学年新聞で4コマ漫画を連載している小学4年生の藤野。クラスメートから絶賛され、自分の画力に絶対の自信を持つ藤野だったが、ある日の学年新聞に初めて掲載された不登校の同級生・京本の4コマ漫画を目にし、その画力の高さに驚愕する。以来、脇目も振らず、ひたすら漫画を描き続けた藤野だったが、一向に縮まらない京本との画力差に打ちひしがれ、漫画を描くことを諦めてしまう。
しかし、小学校卒業の日、教師に頼まれて京本に卒業証書を届けに行った藤野は、そこで初めて対面した京本から「ずっとファンだった」と告げられる。
漫画を描くことを諦めるきっかけとなった京本と、今度は一緒に漫画を描き始めた藤野。二人の少女をつないだのは、漫画へのひたむきな思いだった。
しかしある日、すべてを打ち砕く事件が起きる…。
原作は藤本タツキの読切漫画。線を何度も重ねる特徴的な絵柄を映画では雰囲気そのままに表現しており、綺麗な線に整えて放送した同作者の『チェンソーマン』アニメ版とは全く違っていた。
京アニ事件を明確に匂わせる内容である。藤野は作中で京本が事件に巻き込まれなかった世界を妄想するが、結局はそれは幻想であり、事件が起こってしまった世界で漫画を描き続ける藤野の背中を写したところで映画は終わる。藤野と京本が名前からして作者の分身であろうことから、京アニ事件で作者が抱くことになった喪失感と、現在の作品づくりへの姿勢が表現されているのではないかと思った。
2.仄暗い水の底から/監督:中田秀夫
5歳の娘・郁子の親権をめぐって別れた夫と争っている松原淑美は、新しい就職先である出版社の近くにあるマンションへ引っ越す。はじめは快適そうに見えたマンション暮らしだが、大きくなる天井のシミや、上階の子どもの足音など、淑美の気にさわることが次第に増えていく。そんな中、淑美は真夜中にマンションの屋上にあがる郁子を目撃する。
古いホラー映画の画面は暗く画質が粗いので、現在の鮮明で明るい画面よりも雰囲気が作りやすい利点があったと思う。その暗いグレーがかったような画面の中で、赤いバッグが目を引き不気味な存在感があった。
この作品はホラー作品ではあるが、おそらく主題は母娘の絆である。母親を求める霊と、それを気の毒に思うのと娘を守りたい気持ちで霊についていくことを決心する母親が描かれる。
また終盤、エレベーターから大量の泥水が出てくるシーンは『シャイニング』のオマージュかもしれない。『シャイニング』に出てくるのは息子と母親の組み合わせだが、子どもを守ろうとする母親の強さが表現された作品という点で共通点がある。
3.クレヨンしんちゃん オラたちの恐竜日記/監督:佐々木忍
現代に恐竜をよみがえらせた一大テーマパーク“ディノズアイランド”が東京にオープン。世はまさに恐篭フィーバー!しんのすけたちはその頃、シロが出会った小さな恐省“ナナ”と、特別な夏を過ごしていた。そんなナナを巡って、争奪戦がスタート!ディノズアイランドをオープンさせたバブル・オドロキーは、あの手この手でナナの居場所を探す。「ある秘密」がバレる前に……。
映画で登場させたキャラクターとは映画が終わるときに別れなければならないが、その手段として“死”が用いられていた。クレヨンしんちゃんの映画で人が死んだことは過去にもあったはずだが、一度は野原家に家族として迎え入れられた小さい生命体を最後に死なせることにかなり驚いた。
「承認欲求の暴走」や「支配してくる親からの自立」といった現代らしいテーマが取り上げられていたが、作品自体は様式美に則っており、あまり新しい展開はなかった。
4.レキシントンの幽霊/村上春樹
氷男は南極に戻り、獣はドアの隙間から忍び込む。幽霊たちはパーティに興じ、チョコレートは音もなく溶けてゆく。短篇七篇を収録。
なんとなく怖さを感じるような話を集めた短編集である。表題作「レキシントンの幽霊」には、「これは数年前に実際に起こったことである。」とあるが、村上は主人公と同じマサチューセッツ州ケンブリッジに住んでいたことがあるため、もしかすると本当に起こったことなのかもしれない。知人の家で泊まり込みの留守番をしていたら夜中に大勢の幽霊が現れパーティーをする音が聞こえたという話である。家の持ち主の台詞「つまりある種のものごとは、別のかたちをとるんだ。それは別のかたちをとらずにはいられないんだ」から、幽霊が出てきたときに姿を消していた、この家の寂しがりやの犬がその幽霊たちの正体だったのではと想像したが、想像の域を出ない。このような絶妙に考察しにくい話ばかりの短編集である。
5. 半神/萩尾望都
双子の姉妹ユージーとユーシー。神のいたずらで結びついた2人の身体。知性は姉のユージーに、美貌は妹のユーシーに。13歳のある日、ユージーは生きるためにユーシーを切り離す手術を決意した……。
わずか16ページの漫画だが、自分が切り離すことを決めた妹に自分の影を見るシーンには寒気がした。昔の少女漫画の繊細な絵がこの話にマッチしている。
姉妹間格差というものは二人姉妹の姉である私も意識して生きてきており、創作物では妹や末っ子の方が善人として描かれがちなことに疑問を持ってもいた。
ユージーは人生をユーシーの存在に制限され、負担に思っている。この問題は障害児・きょうだい児問題にそのまま繋がっているだろう。ユーシーを切り離したユージーが心安らかにすごせるようになるわけでもないというところが示唆的である。
6.おたんこナース/佐々木倫子
病院に勤務しはじめて5週間の新米看護婦・似鳥ユキエは、まだまだわからないことだらけ。にぎやかな性格の彼女だが、失敗と緊張の連続に涙することも。患者の前では笑顔をと心がけているユキエだが、どうしても相性の悪い患者が1人いる。それは、腸の病気で入院している高校3年生の男の子・三浦君。何かにつけて突っかかってくる彼と、なんとか心を通わそうとするユキエだが…
ジャンルはお仕事コメディ作品である。佐々木倫子の作品には破天荒な女性キャラクター(とそれに振り回される男性キャラクター)がつきもので、今作は主人公の似鳥ユキエがそのタイプである。ギャグシーンも多いが、専門的な内容を面白く紹介したり、患者から看護師への暴言、終末ケアの問題、尊厳の問題などを取り扱っている回もある。
7.ブルーホール/吉呑太雄
とあるマンションの部屋の一室に足を踏み入れた人間は、皆行方不明になっていった。
マンションの大家は、いま話題の「オカルト調査団」にその部屋の調査を依頼するのであった。
今作はYouTubeで見ることができる、自主制作ホラー映画である。
「先の見えないような暗闇」「大量の水」に対する根源的な恐怖感を煽るようなホラーだと思う。なぜマンションの一室が異世界への入り口になったのか、あの世界は何なのか、元の世界へ戻ってこられるのか、などは説明されず終わってしまう。多くの場合、規則性を見つけると物事の怖さは薄れるので、この部屋の理不尽さやわからなさが怖さに繋がっていると思う。
8.蠱毒(poison)/山河図
一人暮らしの山下の家に来た村井と、その友達の石森。次第に打ち解けていくようで、3人の会話にはずっとどこか違和感がある。石森は山下の秘密と村井の魂胆に気がついて__。
この作品もYouTubeで見ることができる自主制作ホラー映画である(現在は公開停止中)。会って少ししか経っていない女子同士の雰囲気ってこんなかんじだよね、と頷きながら観ていたら気持ち悪い空気感がそのまま延々と続く。おそらく内容としては、山下は頭部を欲する怪異、それを利用して石森を殺そうとする村井と、その魂胆に気がついて先に村井を殺してしまう石森、というよくあるホラー映画の流れであるが、この作品の気持ち悪さは映像から出ていると思う。話している人物の顔が影になっていたり、灰皿の上にいる虫を写し続けたりと画面が気持ち悪い。虫の映像はタイトル「蠱毒」にかかっていると思われ、さらに「蠱毒」と山下の言う「孤独」もかかっているはずである。
9.辺境・近境/村上春樹
久しぶりにリュックを肩にかけた。「うん、これだよ、この感じなんだ」めざすはモンゴル草原、北米横断、砂埃舞うメキシコの町……。NY郊外の超豪華コッテージに圧倒され、無人の島・からす島では虫の大群の大襲撃! 旅の最後は震災に見舞われた故郷・神戸。ジャンルは紀行文。
村上春樹の特徴的な文体は小説だから自然に馴染んでいるのかと思っていたが、紀行文でも不思議と馴染んでいる。紀行文なので初対面の人物を描写する場面が多々あり、それが多様で面白かった。松村映三氏の写真や、安西水丸氏の絵なども楽しめるし、うどんの食リポも読むことができる貴重な作品である。(ちなみに私はこの夏休みに、この本に出てくる神戸のピザ屋に行った)
10.富豪刑事/筒井康隆
キャデラックを乗り廻し、最高のハバナの葉巻をくゆらせた“富豪刑事"こと神戸大助が、迷宮入り寸前の五億円強奪事件を、密室殺人事件を、誘拐事件を……次々と解決してゆく。金を湯水のように使って。靴底をすり減らして聞き込みに歩く“刑事もの"の常識を逆転し、この世で万能の金の魔力を巧みに使ったさまざまなトリックを構成。SFの鬼才がまったく新しいミステリーに挑戦した傑作。
全4話が収録されている。第2話では登場人物が突如「こちら」を向いて読者に話しかける。そして話し終わるとまた向こうに向き直って話が進むというメタ的な展開がある。次の第3話では、途中から文章にA、A'、B、B'、…と記号がふられ、「この順番で読むと謎解きを楽しめる」「この順番で読むと時系列順に読める」と指定される。
終盤になるにつれ、登場人物や地の文(作者)のメタ発言が増えコメディ要素が強くなっていくなど、構成において随分と実験的な作品である。
11.狂つた一頁/衣笠貞之助 (サイレント映画)
妻子を顧みず、長い旅に出ていた船員の男。置いていかれた妻は精神に異常をきたし、閉鎖病棟に入っていた。彼は病院で小間使いとして働きながら、妻を見守る。そんなある日、結婚を控えた2人の娘が病院に訪ねてくる。男は隙をついて妻を逃がそうとするが、妻に抵抗されてしまう。ささやかな夢と悲しみにはさまれ、男は幻想を見るようになる。
サイレント映画を観慣れていないので、ストーリーを全く頭に入れずに観たところ解釈した内容と実際の内容が全く違った。
精神科の閉鎖病棟が舞台で、さまざまな患者が登場する。妻の隣の房で踊り続けている女の患者や、3人組の男の患者など、台詞がなくても鬼気迫る狂った演技が観ていて怖さを感じるほどである。男の幻想で、病棟の患者たちに笑いの能面をつけていくシーンがあったが、原作を書いた川端康成が撮影の際に急遽言い出したことであったらしい。原作小説も読んでみたい。
12. グスコーブドリの伝記/宮沢賢治
グスコーブドリはイーハトーブの森に暮らすきこりの息子として生まれた。冷害による飢饉で両親を失い、妹と生き別れ、工場に労働者として拾われるも火山噴火の影響で工場が閉鎖するなどといった苦難を経験するが、農業に携わったのち、クーボー大博士に出会い学問の道に入る。課程の修了後、彼はペンネン老技師のもとでイーハトーブ火山局の技師となり、噴火被害の軽減や人工降雨を利用した施肥などを実現させる。ところがイーハトーブはまたしても深刻な冷害に見舞われる。ブドリは火山を人工的に爆発させることで飢饉を回避する方法を提案する。しかし、クーボー博士の見積もりでは、その実行に際して誰か一人は噴火から逃げることができなかった。犠牲を覚悟したブドリは、止めようとするクーボー博士やペンネン老技師を冷静に説得し、最後の一人として火山に残った。ブドリが火山を爆発させると、冷害は食い止められ、イーハトーブは救われたのだった。
作品内ではたくさんの男性キャラクターが主人公ブドリを育てる。父親のグスコーナドリ、てぐす飼いの男、「赤ひげ」と呼ばれる農家の男、クーボー大博士、ペンネン技師など、実に多くの男性がブドリに知識と経験を授けている。それに対して女性キャラクターはそもそもあまり登場せず、妹のネリ以外名前も明かされない。母親の名前すら出てこないのである。農業に携わって苦労を重ねる男たちが1人の青年を育て上げ、飢饉を回避しました、というどこかスポ根魂を感じさせる作品だと感じた。
13.伊豆の踊子/川端康成
孤独や憂鬱な気分から逃れるため伊豆へ一人旅に出た青年が、修善寺、湯ヶ島、天城峠を越え湯ヶ野、下田に向かう旅芸人一座と道連れとなり、踊子の少女に淡い恋心を抱く旅情と哀歓の物語。
これは恋心を描いた作品なのだろうか。個人的には、悩みを抱えた一高生の主人公「私」が、茶屋の病気の爺さんや乞食のように言われる旅芸人一行、孫3人を連れて水戸へ帰る婆さんなどの、なんというか「リアルな」社会的弱者と接するというところが重要なのではないかと思った。
14.銀河鉄道の夜/宮沢賢治
気弱で孤独な少年ジョバンニと親友のカムパネルラは、銀河鉄道で天の川に沿って南十字へと向かう。この鉄道の不思議な乗客たちは、天上に向かう死者たちであった。死者たちの口からは「本当の幸い」について繰り返し語られ、ジョバンニもまた、何がみんなの本当の幸いなのかと考え始める。
ジョバンニが銀河鉄道に乗る前に、今日の分の牛乳をもらいに行ってくると言って家を出る。学校では天の川の授業をやっていたり、銀河鉄道の中ではカムパネルラと天の川を見る場面があったり、天の川(milky way、乳の川)と牛乳を掛けていると思われる。
15.星の王子さま/サン・テグジュペリ
操縦士の「ぼく」は、サハラ砂漠に不時着する。1週間分の水しかなく、周囲1000マイル以内に誰もいないであろう孤独で不安な夜を過ごした「ぼく」は、翌日1人の少年と出会う。話すうちに、少年がある小惑星からやってきた王子であることを「ぼく」は知る。
青空文庫(大久保ゆう訳)と集英社文庫(池澤夏樹訳)を読んだ。青空文庫はほとんどがひらがなで書かれたおそらく子供向けのもので、集英社文庫は大人が読みやすい訳になっている。
王子さまは、自分の小さな星に自分の大事な花を置いて旅をしていた。王子さまは砂漠の星空を見て「星がきれいなのは、見えないけれどどこかに花が1本あるからなんだ……」と言う。同様に、砂漠がきれいなのはどこかに井戸があるからだとも言う。この部分について、『天空の城ラピュタ』のエンディング曲「君をのせて」の一節、「あの地平線輝くのは どこかに君をかくしているから たくさんの灯がなつかしいのは あのどれかひとつに君がいるから」と同じ意味なのではないかと思った。
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