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2年 高垣かりん
RES
1 『インサイド・ヘッド2』監督:ケルシー・マン脚本:メグ・レフォーヴ 2024
{概要/あらすじ}
ディズニー/ピクサーの人気作『インサイド・ヘッド』の続編。
前作で感情たちがライリーの心を救い、平穏な日常を送っていた。今作は、成長し思春期を迎えたライリーの心に新たな<大人の感情>が登場する。ライリーの将来のために、選択を間違えないように必死になる感情たち、巻き起こる「感情の嵐」の中でライリーは自分らしさを見失ってしまう。大人になる途中、どんな感情も受け入れ自分を愛せるようになる感動作。
前作は、初めての不安感から心が不安定になる様子が描かれていたが、今作はまさに「思春期の複雑な感情」がそのまま描かれていた。心配事が増えたり、隠したいことがあったり、成長した人なら必ず共感できる。感情が自我をもって動くため、細かい心理描写というよりは、直接的な心理表現であるためわかりやすい。最後は、何かの感情を追いやるのではなくすべての感情を大事にし、いろんな側面を持つ自分を抱きしめるという暖かいメッセージが込められていた。思春期に入る瞬間、心の司令部で警報が鳴り響いてわかりやすく変化が起きておいたが、ライリーに今までなかった顎ニキビができていて、「思春期描写」がとても細かかった。
2 『CURE』監督・脚本:黒沢清 1997
{概要/あらすじ}
猟奇的殺人事件を追及する刑事と謎の男を描いたサイコ・サスペンス。この映画で、主演の役所広司は東京国際映画祭において最優秀主演男優賞を受賞した。
一人の娼婦が殺害された。胸元がX字型に切り裂かれている死体を目にした刑事の高部は、この特徴的な殺しが密かに連続していることに気づく。全く関係のない複数の犯人がなぜ特異な手口を共通して使い、犯人たちはそれを認識していないのか。この猟奇的殺人事件を追っていくうちに1人の男が捜査線上に上がるが、男との会話に翻弄され、精神を病んだ妻の介護による疲れも重なり、高部は次第に苛立ちを募らせていく・・・。
1カットが基本的に長回しで撮られているが、長回しの画の中に突然入り込む違和感や静かな要素の提示、たまに入る一瞬のカットの強烈な印象を増強していると思う。
また、殺害シーンは直接的に描かれているが、高部に関することは直接的に描かれることが少なく、一瞬包丁のクローズアップを写したり、突然死体が映ったりすることで、高部がどのような選択を取り、どのような人物となっていったのか暗示するような演出がされていた。私は、高部は最終的に、間宮よりもより強力な伝道師となったのだと思う。間宮を殺害したのち、病院にいる妻のX字型の傷口死体のカットが一瞬入ったこと、レストランで高部と接客をしたウェイトレスが包丁を手に取ったことから、間宮とは違い、無意識下で人の持つ狂気を引き出してしまっていると考えられる。
3 『Chime』監督・脚本:黒沢清 2024
概要/あらすじ
今年の第74回ベルリン国際映画祭ベルリナーレ・スペシャル部門に出品され話題を呼んだ、黒沢清監督の中編作品。「映画の中の三大怖いものを詰め込んだ」という本作は、もともとメディア配信プラットホーム・Roadsteadオリジナル作品第一弾として「自由に作品を制作してほしい」というオーダーから作られた。45分という短い作品ながら、濃厚な内容となっている。
料理教室の講師をしている松岡は、レッスンの生徒である田代から「チャイムのような音が聞こえて、誰かがメッセージを送ってきているようなんです」と言われる。それでも変わりなく接していたが、田代が今度は「ぼくの脳は半分機械に差し替えられているんです。」と言い出し、それを証明するために衝撃の行動にでる。この出来事をきっかけに、松岡の周辺や松岡自身に異様な変化が起きていく。
黒沢監督の過去作『CURE』と似たような恐怖感を覚えた。狂気が伝播する要素は、完全に『CURE』と同じテーマであると感じた。本作では、田代の自害がトリガーとなって、主人公の松岡の中にある狂気が出てくる。しかし、悪が存在するわけではなく殺人などは淡々と行われていく。誰かが怖いのではなく、すべてが異様で恐ろしく描かれていた。この映画で重要なのは起きる事件ではなく、登場人物たちが他人に無関心に描かれている部分で、日常の様子であるはずなのにずっと違和感を覚え、殺しや自害、明らかにおかしい人の様子が見えても気にも留めないところが1番の「怖さ」であると考えた。タイトルにもなっている「チャイム」の要素は深堀されることはなく、結局何なのかわからず、最後、松岡のPOVショットで包丁を写し、家を飛び出し、冷静な表情で家に戻っていき終わる。松岡は最後どうなったのか、様子のおかしい家族と包丁のショットから殺してしまうのではないかという想像が掻き立てられるが、答え合わせはなく終わるため、映画が終わっても恐怖を引きずることになる。
また、光と影の使い方・長回し・映像的な空白・説明のない状況が怖さを倍増させている。線路沿いの教室の中で、電車から反射する光を受けてチカチカとしている影や、後ろのモザイク窓の奥でゆらゆら揺れる黒い影など、細かいディテールが不気味さを醸し出していた。黒沢監督と言えば長回しだが、今作も長回しが多用されていた。その中では、重要なものや恐怖の対象をあえて見切れさせていた。とあるシーンで松岡が絶叫するが、絶叫する顔だけをアップで写し、何に対して叫んでいるのかは見せない。このホラー表現はとても実験的であるが、「人物が何に恐怖しているのかわからないけど怖い」という新たな体験を観客に与えていると思った。
4 『アナと雪の女王2』監督:クリス・バック、ジェニファー・リー 脚本:アリソン・シュローダー 、2019
{概要/あらすじ}
『アナと雪の女王』の続編。
平和を取り戻したアレンデールにまた異変が起きる。エルサにだけ聞こえる謎の呼び声の主と自らのルーツを探るべく、もう一度姉妹の大冒険が始まる。
前作は、真実の愛=恋愛的な愛という公式を破る「家族愛」の話であり、今作もその流れを汲んでいた。しかし、自らのルーツを探るという内容は、前作の子供向けの内容からかなりシフトチェンジした大人向けの内容に仕上げていると思った。ディズニー作品が、登場人物の出自・ルーツによりスポットを当てたストーリーに力を入れ始めた転換期の作品であると思う。
5 『missing』 監督・脚本:吉田恵輔
{概要/あらすじ}
娘が失踪し、出口のない暗闇に突き落とされた家族。どうにもできない現実との間でもがき苦しみながらも、その中で光を見つけていく。
前作の空白よりも、視点が多角的であった。とくに、報道の視点が多く取り上げられていた。行方不明事件が解決するわけではないが、その事件が周囲に与える影響や、報道の影響など現代が陥りやすい問題点を特にわかりやすく描いていたと思う。エンタメ的というより、ドキュメンタリーチックで淡々と人々の様子が描かれることで、この国のどこかでこういったことが起きているという感覚が観客に与えられると思う。
6 『ベイビーわるきゅーれ』
概要/あらすじ
女子高生殺し屋2人組のちさととまひろは、高校卒業を前に途方に暮れていた…。 明日から“オモテの顔”としての“社会人”をしなければならない。組織に委託された人殺し以外、何もしてこなかった彼女たち。 突然社会に適合しなければならなくなり、公共料金の支払い、年金、税金、バイトなど社会の公的業務や人間関係や理不尽に日々を揉まれていく。 さらに2人は組織からルームシェアを命じられ、コミュ障のまひろは、バイトもそつなくこなすちさとに嫉妬し、2人の仲も徐々に険悪に。 そんな中でも殺し屋の仕事は忙しく、さらにはヤクザから恨みを買って面倒なことに巻き込まれ・・・。
日本に殺し屋社会があるという設定から、殺し屋が恨みをかって狙われ、返り討ちにするというストーリー展開まで、『ジョンウィック』のオマージュを感じる。日常系アニメのような、二人のゆるい会話と本格アクションとのギャップがこの作品独特の空気感を出していると思う。
7 『最強殺し屋伝説 国岡』
{概要/あらすじ}
『ベイビーわるきゅーれ』を監督が作るために、実在する最強の殺し屋を密着取材するというモキュメンタリー。
ベイビーわるきゅーれの世界観がより現実に落とし込まれ、より具体的なジョンウィックパロディがあった。モキュメンタリーでありながら、所々映画的カメラ演出があり、より挑戦的な映画であった。
8 『マッドマックス 怒りのデスロード』監督・脚本:ジョージ・ミラー、2015
{概要/あらすじ}
石油も、そして水も尽きかけた世界。主人公は、愛する家族を奪われ、本能だけで生きながらえている元・警官マックス。資源を独占し、恐怖と暴力で民衆を支配するジョーの軍団に捕われたマックスは、反逆を企てるジョーの右腕フュリオサ、配下の全身白塗りの男ニュークスと共に、ジョーに捕われた美女たちを引き連れ、自由への逃走を開始する。
世紀末の独特な世界観を深く説明しなくてもわかるほどの美術・衣装の作りこみがあると思った。また、男性主人公で男性が力を持つ社会であるが、フュリオサを筆頭とした女性の登場人物がそれぞれどんな信念を持ち行動しているのかはっきりと描かれているので、女性が力強く生きること、支配されないことをメッセージとしているのだと思った。
9 『ミンナのウタ』監督:清水崇 脚本:清水崇・角田ルミ 2023
概要/あらすじ
『呪怨』シリーズや『犬鳴村』など都市伝説シリーズの清水崇監督作のホラー映画。
ラジオ番組のパーソナリティーを務めるGENERATIONSの小森隼は、収録前に30年前に届いた「ミンナのウタ」と書かれた奇妙なカセットテープを見つける。その後、収録中に「カセットテープ届きましたか?」という声をノイズの中で聞いた小森は、ライブを控えた中失踪してしまう。事態を迅速に解決するべく探偵を雇い調査を始めるが、ほかのGENERATIONSのメンバーにも次々と恐ろしいことが起きはじめる。
近年の怨霊に暗い過去を背負わせ同情するジャパニーズホラーの風潮の真逆を行く作品であると思った。しかし、GENERATIONSの楽曲や楽曲名が話の流れと関係ないところで登場する点はとても気になった。GENERATIONSの宣伝的な意味合いも含めた映画なのではないかと思った。
10 『メタモルフォーゼの縁側』監督:狩山和澄 脚本:岡田恵和 2022
概要/あらすじ
国内最大映画レビューサイトFilmarksで初日満足度ランキング1位を獲得した作品。
17歳の佐山うららは、きらきらしているとは言えない女子高生。本屋でバイトをしながら、BLマンガをこっそり読むことが唯一の楽しみ。ある日、本屋でBLを買っていくおばあさん、75歳の市野井雪と出会い、好きなものを語り合える「友達」となる。
BLという表では取り扱われないジャンルにフォーカスを当て、こういうジャンルだからこそ生まれる友情を大きな年の差という設定を込めてより奇妙で強固な関係性として演出していると思った。
「BL」「マンガ」「同人誌」「コミケ」という現代日本のサブカルチャーの側面を垣間見ることができて、雪さんが75歳という年齢であることから、昔の漫画文化の話も出てくるため、サブカルをラフな視点で見ることができる。
11『デッドプール&ウルヴァリン』監督:ショーン・レヴィ、2024
概要/あらすじ
『デッドプール』『デッドプール2』の続編。前作までは21世紀フォックスのもとで制作されていたが、2019年にディズニーに買収されたため、今作からMCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)に合流した。
破天荒で何でもありの無責任ヒーロー、デッドプールに今度は世界の命運が託された。神聖時間軸を管理し、時間の流れを守る「時間変異取締局、通称TVA」から自身の時間軸が消滅しかけていること、理由はこの時間軸の「ウルヴァリン」が死を遂げたからだということ、この時間軸を倍速で消そうとしていることを聞かされたデッドプールは、自分の世界を守るために、別時間軸のウルヴァリンと手を組むことを企てるが・・・。
まず、この映画は「第4の壁」を簡単に破っていくのでかなり特異であると言える。しかし、それが物語のノイズになることはなく、逆に観客にメタ的な語り掛けがあることで「マルチバース」という複雑な設定への入り込みやすさがあると思う。
また、冒頭の戦闘→クレジットシーンの演出は、前作・前々作の流れを汲んで、音楽中心の演出がなされていたため、より冒頭でのボルテージが上がっていたと思う。
しかし、MCUに合流したことで、FOX時代の『X-MEN』シリーズや『ファンタスティック・フォー』のみならず、『アベンジャーズ』シリーズから、『ロキ』ドラマシリーズの知識を要するため、物語内に出てくる要素をすべて理解できる人は少ないように思える。
12『骨』監督・脚本:ホアキン・コシーニャ・クリストーバル・レオン、2021
{概要/あらすじ}
2023、美術館建設に伴う調査で。ある映像が発掘された。それは。少女が人間の死体を使って謎の儀式を行っているものであった。1901年に制作された世界初のストップモーション・アニメーションという設定のアニメーション映画。
人形と実写が混在したタイプのストップモーション・アニメーションで、内容はとても難解であった。ストップモーションもとても見どころであったが、音響がとても特徴的であった。1901年制作という設定に忠実に無声映画でありながら、音楽やフィルムの粗さを逆に利用して不気味かつ不思議な世界観を作り出すのはとても現代的な発想であると思う。
13 『犬神家の一族』 監督:市川崑 1976
概要/あらすじ
金田一耕助シリーズの傑作。
製薬会社で財を成した犬神佐兵衛が、遺言書を遺して死去。遺言書には佐兵衛の恩人の孫娘・珠子に全財産を相続するとあり、佐兵衛の親族は騒然とする。助力を求められた金田一耕介が犬神家に向かうと、第一の殺人が起こり、奇怪な連続殺人事件に発展していく。
様々な映画やドラマ、バラエティーでパロディ、オマージュされている、遺産相続をめぐるミステリーサスペンス。金田一耕助が活躍するシーンが最後のスケキヨの正体と真犯人を指摘するシーンまでない構成は、序盤から核心をついたことを観客に提示せず、予想を何度も裏切る展開と最後の衝撃を強調していると思った。
14 『回路』 監督・脚本:黒沢清、2000
概要/あらすじ
会社に来ない同僚を心配して家を訪れたミチ。憔悴しきった様子の同僚は、目を
離した隙に首をつってしまい、ミチの周りでは恐ろしい異変が次々と起こっている。一方、インターネットを始めた亮介は、深夜、突如とある不気味なサイトにアクセスしてしまい…。
2000年はインターネットが徐々に一般普及してきた時代で、まだまだネットが未知のものであった時期でもある。そんな時期に制作されたということで、インターネットが幽霊の世界とリンクしてしまうという設定はタイムリーでとても恐ろしかったのではないかと思う。
黒沢清の作家性で、黒いシミや奥に揺れる影が観客に不安感を与えていた。
15 『消えない』 制作:kouichitv、埼玉県 、2021
概要/あらすじ
本編時間10分くらいの短編ホラー映画。埼玉県との企画で制作されている。
心霊スポットと言われている廃墟に訪れた二人の男。そのうちの1人が廃墟の中に入り写真を撮っていくが、とある部屋で髪の長い赤い服を着た女を目撃する。その女はカメラには映らず、なぜか行く先々に姿を現すようになり・・・。
Youtubeでのみ見ることのできる映画で、短い時間ながら面白さと怖さを両方味わえる作品。赤い服の女が何か攻撃してくるわけでもむやみに驚かせてくるわけでもないが、ただそこに居るだけなのが不気味。タイトルが呪いなどではなく『消えない』という、理由がわからずただそこに居る様子をうまく表現していると思った。
{概要/あらすじ}
ディズニー/ピクサーの人気作『インサイド・ヘッド』の続編。
前作で感情たちがライリーの心を救い、平穏な日常を送っていた。今作は、成長し思春期を迎えたライリーの心に新たな<大人の感情>が登場する。ライリーの将来のために、選択を間違えないように必死になる感情たち、巻き起こる「感情の嵐」の中でライリーは自分らしさを見失ってしまう。大人になる途中、どんな感情も受け入れ自分を愛せるようになる感動作。
前作は、初めての不安感から心が不安定になる様子が描かれていたが、今作はまさに「思春期の複雑な感情」がそのまま描かれていた。心配事が増えたり、隠したいことがあったり、成長した人なら必ず共感できる。感情が自我をもって動くため、細かい心理描写というよりは、直接的な心理表現であるためわかりやすい。最後は、何かの感情を追いやるのではなくすべての感情を大事にし、いろんな側面を持つ自分を抱きしめるという暖かいメッセージが込められていた。思春期に入る瞬間、心の司令部で警報が鳴り響いてわかりやすく変化が起きておいたが、ライリーに今までなかった顎ニキビができていて、「思春期描写」がとても細かかった。
2 『CURE』監督・脚本:黒沢清 1997
{概要/あらすじ}
猟奇的殺人事件を追及する刑事と謎の男を描いたサイコ・サスペンス。この映画で、主演の役所広司は東京国際映画祭において最優秀主演男優賞を受賞した。
一人の娼婦が殺害された。胸元がX字型に切り裂かれている死体を目にした刑事の高部は、この特徴的な殺しが密かに連続していることに気づく。全く関係のない複数の犯人がなぜ特異な手口を共通して使い、犯人たちはそれを認識していないのか。この猟奇的殺人事件を追っていくうちに1人の男が捜査線上に上がるが、男との会話に翻弄され、精神を病んだ妻の介護による疲れも重なり、高部は次第に苛立ちを募らせていく・・・。
1カットが基本的に長回しで撮られているが、長回しの画の中に突然入り込む違和感や静かな要素の提示、たまに入る一瞬のカットの強烈な印象を増強していると思う。
また、殺害シーンは直接的に描かれているが、高部に関することは直接的に描かれることが少なく、一瞬包丁のクローズアップを写したり、突然死体が映ったりすることで、高部がどのような選択を取り、どのような人物となっていったのか暗示するような演出がされていた。私は、高部は最終的に、間宮よりもより強力な伝道師となったのだと思う。間宮を殺害したのち、病院にいる妻のX字型の傷口死体のカットが一瞬入ったこと、レストランで高部と接客をしたウェイトレスが包丁を手に取ったことから、間宮とは違い、無意識下で人の持つ狂気を引き出してしまっていると考えられる。
3 『Chime』監督・脚本:黒沢清 2024
概要/あらすじ
今年の第74回ベルリン国際映画祭ベルリナーレ・スペシャル部門に出品され話題を呼んだ、黒沢清監督の中編作品。「映画の中の三大怖いものを詰め込んだ」という本作は、もともとメディア配信プラットホーム・Roadsteadオリジナル作品第一弾として「自由に作品を制作してほしい」というオーダーから作られた。45分という短い作品ながら、濃厚な内容となっている。
料理教室の講師をしている松岡は、レッスンの生徒である田代から「チャイムのような音が聞こえて、誰かがメッセージを送ってきているようなんです」と言われる。それでも変わりなく接していたが、田代が今度は「ぼくの脳は半分機械に差し替えられているんです。」と言い出し、それを証明するために衝撃の行動にでる。この出来事をきっかけに、松岡の周辺や松岡自身に異様な変化が起きていく。
黒沢監督の過去作『CURE』と似たような恐怖感を覚えた。狂気が伝播する要素は、完全に『CURE』と同じテーマであると感じた。本作では、田代の自害がトリガーとなって、主人公の松岡の中にある狂気が出てくる。しかし、悪が存在するわけではなく殺人などは淡々と行われていく。誰かが怖いのではなく、すべてが異様で恐ろしく描かれていた。この映画で重要なのは起きる事件ではなく、登場人物たちが他人に無関心に描かれている部分で、日常の様子であるはずなのにずっと違和感を覚え、殺しや自害、明らかにおかしい人の様子が見えても気にも留めないところが1番の「怖さ」であると考えた。タイトルにもなっている「チャイム」の要素は深堀されることはなく、結局何なのかわからず、最後、松岡のPOVショットで包丁を写し、家を飛び出し、冷静な表情で家に戻っていき終わる。松岡は最後どうなったのか、様子のおかしい家族と包丁のショットから殺してしまうのではないかという想像が掻き立てられるが、答え合わせはなく終わるため、映画が終わっても恐怖を引きずることになる。
また、光と影の使い方・長回し・映像的な空白・説明のない状況が怖さを倍増させている。線路沿いの教室の中で、電車から反射する光を受けてチカチカとしている影や、後ろのモザイク窓の奥でゆらゆら揺れる黒い影など、細かいディテールが不気味さを醸し出していた。黒沢監督と言えば長回しだが、今作も長回しが多用されていた。その中では、重要なものや恐怖の対象をあえて見切れさせていた。とあるシーンで松岡が絶叫するが、絶叫する顔だけをアップで写し、何に対して叫んでいるのかは見せない。このホラー表現はとても実験的であるが、「人物が何に恐怖しているのかわからないけど怖い」という新たな体験を観客に与えていると思った。
4 『アナと雪の女王2』監督:クリス・バック、ジェニファー・リー 脚本:アリソン・シュローダー 、2019
{概要/あらすじ}
『アナと雪の女王』の続編。
平和を取り戻したアレンデールにまた異変が起きる。エルサにだけ聞こえる謎の呼び声の主と自らのルーツを探るべく、もう一度姉妹の大冒険が始まる。
前作は、真実の愛=恋愛的な愛という公式を破る「家族愛」の話であり、今作もその流れを汲んでいた。しかし、自らのルーツを探るという内容は、前作の子供向けの内容からかなりシフトチェンジした大人向けの内容に仕上げていると思った。ディズニー作品が、登場人物の出自・ルーツによりスポットを当てたストーリーに力を入れ始めた転換期の作品であると思う。
5 『missing』 監督・脚本:吉田恵輔
{概要/あらすじ}
娘が失踪し、出口のない暗闇に突き落とされた家族。どうにもできない現実との間でもがき苦しみながらも、その中で光を見つけていく。
前作の空白よりも、視点が多角的であった。とくに、報道の視点が多く取り上げられていた。行方不明事件が解決するわけではないが、その事件が周囲に与える影響や、報道の影響など現代が陥りやすい問題点を特にわかりやすく描いていたと思う。エンタメ的というより、ドキュメンタリーチックで淡々と人々の様子が描かれることで、この国のどこかでこういったことが起きているという感覚が観客に与えられると思う。
6 『ベイビーわるきゅーれ』
概要/あらすじ
女子高生殺し屋2人組のちさととまひろは、高校卒業を前に途方に暮れていた…。 明日から“オモテの顔”としての“社会人”をしなければならない。組織に委託された人殺し以外、何もしてこなかった彼女たち。 突然社会に適合しなければならなくなり、公共料金の支払い、年金、税金、バイトなど社会の公的業務や人間関係や理不尽に日々を揉まれていく。 さらに2人は組織からルームシェアを命じられ、コミュ障のまひろは、バイトもそつなくこなすちさとに嫉妬し、2人の仲も徐々に険悪に。 そんな中でも殺し屋の仕事は忙しく、さらにはヤクザから恨みを買って面倒なことに巻き込まれ・・・。
日本に殺し屋社会があるという設定から、殺し屋が恨みをかって狙われ、返り討ちにするというストーリー展開まで、『ジョンウィック』のオマージュを感じる。日常系アニメのような、二人のゆるい会話と本格アクションとのギャップがこの作品独特の空気感を出していると思う。
7 『最強殺し屋伝説 国岡』
{概要/あらすじ}
『ベイビーわるきゅーれ』を監督が作るために、実在する最強の殺し屋を密着取材するというモキュメンタリー。
ベイビーわるきゅーれの世界観がより現実に落とし込まれ、より具体的なジョンウィックパロディがあった。モキュメンタリーでありながら、所々映画的カメラ演出があり、より挑戦的な映画であった。
8 『マッドマックス 怒りのデスロード』監督・脚本:ジョージ・ミラー、2015
{概要/あらすじ}
石油も、そして水も尽きかけた世界。主人公は、愛する家族を奪われ、本能だけで生きながらえている元・警官マックス。資源を独占し、恐怖と暴力で民衆を支配するジョーの軍団に捕われたマックスは、反逆を企てるジョーの右腕フュリオサ、配下の全身白塗りの男ニュークスと共に、ジョーに捕われた美女たちを引き連れ、自由への逃走を開始する。
世紀末の独特な世界観を深く説明しなくてもわかるほどの美術・衣装の作りこみがあると思った。また、男性主人公で男性が力を持つ社会であるが、フュリオサを筆頭とした女性の登場人物がそれぞれどんな信念を持ち行動しているのかはっきりと描かれているので、女性が力強く生きること、支配されないことをメッセージとしているのだと思った。
9 『ミンナのウタ』監督:清水崇 脚本:清水崇・角田ルミ 2023
概要/あらすじ
『呪怨』シリーズや『犬鳴村』など都市伝説シリーズの清水崇監督作のホラー映画。
ラジオ番組のパーソナリティーを務めるGENERATIONSの小森隼は、収録前に30年前に届いた「ミンナのウタ」と書かれた奇妙なカセットテープを見つける。その後、収録中に「カセットテープ届きましたか?」という声をノイズの中で聞いた小森は、ライブを控えた中失踪してしまう。事態を迅速に解決するべく探偵を雇い調査を始めるが、ほかのGENERATIONSのメンバーにも次々と恐ろしいことが起きはじめる。
近年の怨霊に暗い過去を背負わせ同情するジャパニーズホラーの風潮の真逆を行く作品であると思った。しかし、GENERATIONSの楽曲や楽曲名が話の流れと関係ないところで登場する点はとても気になった。GENERATIONSの宣伝的な意味合いも含めた映画なのではないかと思った。
10 『メタモルフォーゼの縁側』監督:狩山和澄 脚本:岡田恵和 2022
概要/あらすじ
国内最大映画レビューサイトFilmarksで初日満足度ランキング1位を獲得した作品。
17歳の佐山うららは、きらきらしているとは言えない女子高生。本屋でバイトをしながら、BLマンガをこっそり読むことが唯一の楽しみ。ある日、本屋でBLを買っていくおばあさん、75歳の市野井雪と出会い、好きなものを語り合える「友達」となる。
BLという表では取り扱われないジャンルにフォーカスを当て、こういうジャンルだからこそ生まれる友情を大きな年の差という設定を込めてより奇妙で強固な関係性として演出していると思った。
「BL」「マンガ」「同人誌」「コミケ」という現代日本のサブカルチャーの側面を垣間見ることができて、雪さんが75歳という年齢であることから、昔の漫画文化の話も出てくるため、サブカルをラフな視点で見ることができる。
11『デッドプール&ウルヴァリン』監督:ショーン・レヴィ、2024
概要/あらすじ
『デッドプール』『デッドプール2』の続編。前作までは21世紀フォックスのもとで制作されていたが、2019年にディズニーに買収されたため、今作からMCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)に合流した。
破天荒で何でもありの無責任ヒーロー、デッドプールに今度は世界の命運が託された。神聖時間軸を管理し、時間の流れを守る「時間変異取締局、通称TVA」から自身の時間軸が消滅しかけていること、理由はこの時間軸の「ウルヴァリン」が死を遂げたからだということ、この時間軸を倍速で消そうとしていることを聞かされたデッドプールは、自分の世界を守るために、別時間軸のウルヴァリンと手を組むことを企てるが・・・。
まず、この映画は「第4の壁」を簡単に破っていくのでかなり特異であると言える。しかし、それが物語のノイズになることはなく、逆に観客にメタ的な語り掛けがあることで「マルチバース」という複雑な設定への入り込みやすさがあると思う。
また、冒頭の戦闘→クレジットシーンの演出は、前作・前々作の流れを汲んで、音楽中心の演出がなされていたため、より冒頭でのボルテージが上がっていたと思う。
しかし、MCUに合流したことで、FOX時代の『X-MEN』シリーズや『ファンタスティック・フォー』のみならず、『アベンジャーズ』シリーズから、『ロキ』ドラマシリーズの知識を要するため、物語内に出てくる要素をすべて理解できる人は少ないように思える。
12『骨』監督・脚本:ホアキン・コシーニャ・クリストーバル・レオン、2021
{概要/あらすじ}
2023、美術館建設に伴う調査で。ある映像が発掘された。それは。少女が人間の死体を使って謎の儀式を行っているものであった。1901年に制作された世界初のストップモーション・アニメーションという設定のアニメーション映画。
人形と実写が混在したタイプのストップモーション・アニメーションで、内容はとても難解であった。ストップモーションもとても見どころであったが、音響がとても特徴的であった。1901年制作という設定に忠実に無声映画でありながら、音楽やフィルムの粗さを逆に利用して不気味かつ不思議な世界観を作り出すのはとても現代的な発想であると思う。
13 『犬神家の一族』 監督:市川崑 1976
概要/あらすじ
金田一耕助シリーズの傑作。
製薬会社で財を成した犬神佐兵衛が、遺言書を遺して死去。遺言書には佐兵衛の恩人の孫娘・珠子に全財産を相続するとあり、佐兵衛の親族は騒然とする。助力を求められた金田一耕介が犬神家に向かうと、第一の殺人が起こり、奇怪な連続殺人事件に発展していく。
様々な映画やドラマ、バラエティーでパロディ、オマージュされている、遺産相続をめぐるミステリーサスペンス。金田一耕助が活躍するシーンが最後のスケキヨの正体と真犯人を指摘するシーンまでない構成は、序盤から核心をついたことを観客に提示せず、予想を何度も裏切る展開と最後の衝撃を強調していると思った。
14 『回路』 監督・脚本:黒沢清、2000
概要/あらすじ
会社に来ない同僚を心配して家を訪れたミチ。憔悴しきった様子の同僚は、目を
離した隙に首をつってしまい、ミチの周りでは恐ろしい異変が次々と起こっている。一方、インターネットを始めた亮介は、深夜、突如とある不気味なサイトにアクセスしてしまい…。
2000年はインターネットが徐々に一般普及してきた時代で、まだまだネットが未知のものであった時期でもある。そんな時期に制作されたということで、インターネットが幽霊の世界とリンクしてしまうという設定はタイムリーでとても恐ろしかったのではないかと思う。
黒沢清の作家性で、黒いシミや奥に揺れる影が観客に不安感を与えていた。
15 『消えない』 制作:kouichitv、埼玉県 、2021
概要/あらすじ
本編時間10分くらいの短編ホラー映画。埼玉県との企画で制作されている。
心霊スポットと言われている廃墟に訪れた二人の男。そのうちの1人が廃墟の中に入り写真を撮っていくが、とある部屋で髪の長い赤い服を着た女を目撃する。その女はカメラには映らず、なぜか行く先々に姿を現すようになり・・・。
Youtubeでのみ見ることのできる映画で、短い時間ながら面白さと怖さを両方味わえる作品。赤い服の女が何か攻撃してくるわけでもむやみに驚かせてくるわけでもないが、ただそこに居るだけなのが不気味。タイトルが呪いなどではなく『消えない』という、理由がわからずただそこに居る様子をうまく表現していると思った。
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