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3年 佐藤至桜
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① 『100万回生きたきみ』
著者:七月隆文
100万回生きたという少女と幼なじみの少年の恋愛小説のような入りとは裏腹に、本当に100万回生きた英雄である少年の人生が物語の大半を占める恋愛ファンタジー小説です。初めての人生で出会った、愛する人を探し続ける100万回の人生と、同じ人物として転生を繰り返し続ける今の人生を今回の人生で初めて出会ったもう1人の幼なじみに語ることで物語が進んでいきます。英雄に取り憑き、一緒に100万回の人生を旅した呪いのほのかな英雄に対する親愛や友愛、恋愛という感情によって、感情や魂全てを失ったヒロインが救われる結末は、再生と消滅を繰り返す物語の結末にふさわしいものであるといえます。
② 『世界でいちばん透きとおった物語』
著者:杉井光
亡くなった一度も会ったことのない事実上の父親である人気作家が亡くなり、その遺作探しに協力した主人公が遺作の真実に迫る物語です。キャッチコピーに「衝撃のラストにあなたの世界は透きとおる」と記されており、読者は、どれだけ感動的で、美しい物語の結末が紡がれているのだろうと期待に胸を膨らませます。ところが、描かれる物語自体は大きな事件もなければ、亡くなった両親との心の繋がりもできない、言ってしまえば普通の物語です。しかし、ラストの主人公への提案に「透きとおる」の意味が、物語の内容ではなく、小説そのものであったことに気づかされます。また、作中で探される同題の『世界で一番透きとおった物語』は未完成の作品であり、作中の主人公以外がその後読むのであろうこの形式の作品を読んでいるという、この作品と現実世界が交差したような感覚を与えられます。
③ 『この光と闇』
著者:服部まゆみ
目の見えない「姫」とされる主人公が狭い世界で成長していき、ある日突然自分と、育ってきた世界の真実を目の当たりにする物語です。前半部分は「姫」として育った盲目の主人公が感じる、聴覚、触覚、味覚、嗅覚で構成された光のない世界が、後半部では、「姫だったはずの少年」、「姫として育てられた過去を持つ現代の少年」からその世界の真相がゆっくりと主人公が受け入れる過程を通して語られます。完全な一人称視点の作品であり、初めは主人公が幼いため、違和感を持ったとして子どものたわごと程度に流れてしまいますが、主人公の成長と共に情報が増え、現代社会を生きる読者には違和感がどんどんと増えていく構成となっています。後半部から視覚の情報が増え、目隠しを取ったかのように情景描写が増えるのもこの作品の魅力でしょう。
④ 『きよしこ』
著者:重松清
作者に送られて来た手紙の送り主の息子に宛てて書いたとても「個人的な小説」であり、吃音に悩む少年が多くの人々と触れ合い、成長していく物語です。いくつかの短篇で構成されており、それぞれが転校先の学校や夏期の矯正セミナーなどで場所、年齢、周囲の人物が異なる一方でなくならない吃音とどう接しているのかが変化し、その吃音との異なる関わり方を見ることができます。周囲が変わることにより、吃音との関わり、考え方も変わりますが、家族という変わらない存在が描かれていることによって、変化と不変の対比が物語を動かしています。
⑤ 『アリシアの日記』
著者:トマス・ハーディ 訳:村上春樹
アリシアという少女が書いた日記によって話が進んでいく物語であり、妹の婚約をめぐって起きた事件が描かれていきます。この、日記で話が進むという特徴により、他の登場人物達の心情がアリシアの主観で語られるため、物語の中心人物であり、終盤に大きな事件を起こす妹の婚約者の考えを読者が考察する余地が多いにあります。また、日記という特性上、アリシア本人の誰にも話せない事情や感情がありありと表現されている所に魅力を感じました。
⑥ 『愛し合う二人に代わって』
著者:マイリー・メロイ 訳:村上春樹
戦争真っ只中のアメリカで代理結婚を依頼された2人の成長と恋愛模様を描いた作品です。かなり内向的であまり上昇志向のない主人公と、都会で夢が挫折し、田舎に戻ってきた思い人であるブライディーとの再会ではその言動から、ブライディーの精神的成長が示唆されていました。また、2人とも別の恋人が途中できることにより、ものの見方が増え、自分の気持ちが見えるようになるという共通点がラストに影響しているようにみえます。
⑦ 『恋するザムザ』
著者:村上春樹
自分は「ザムザ」という人物であると自称する主人公が恋愛感情を知るまでの作品であるが、恋愛要素よりもザムザという主人公は何者であるのかという疑問が読者の心を占めます。主人公は服やマナーといった一般常識が欠如しており、しかも寝ていた自宅だと思われる場所の記憶が曖昧で、目覚める前は人間ではなく、ザムザという人物の身体と一部の記憶を引き継いだという印象を受けました。そのため、初めて女性と接したときの主人公の言動が性に対してかなり直接的で、女性視点で鑑賞するには嫌悪感を抱きやすい作品です。
⑧ 『犬王』
原作:古川日出男(『平家物語 犬王の巻』) 監督:湯浅政明 脚本:野木亜紀子
舞の天才である犬王と盲目の琵琶法師である友魚が新たなエンターテイメントで平家の亡霊達を導き、ついには天皇の御前で披露するほどの人気を博すバディものの物語です。後半部は基本的に音楽が占めており、室町時代とは思えないロック調の音楽とバレエやヒップホップなど多種類のダンスの融合が魅力の一つとなっています。また、平家の呪いや呪いの仮面、亡霊達といったようにホラー的要素や処刑や呪い殺されたときの描写のグロ要素なども多く、比較的高い年齢層に向けた作品と言えるでしょう。
⑨ 『秒速5センチメートル』
監督、原作、脚本:新海誠
転校によって離ればなれになってしまった主人公と少女が再会し、再び離れて大人になっていく過程を描いたアニメーション映画です。この作品は少女の時間を手紙で、主人公の時間を画面で流れさせている「桜花抄」、主人公が鹿児島に行ってからの生活を主人公に思いを寄せている少女の視点から描いた「コスモナウト」、東京に戻ってからの主人公の生活と最初の女性との人生の交わりを描いた「秒速5センチメートル」の3話で構成されています。ロケットや電車といった無機物が二人の関係の境界線となっており、視覚的にも二人の人生が交差し続けることがないことが分かります。
⑩ 『言の葉の庭』
監督、原作、脚本:新海誠
男子高校生と訳ありである社会人女性の逃避のような雨の日だけの交流によって歩き出す力を手に入れた二人が自分の未来に向かって進んでいくような物語です。全体的に独白と雨が多いため、二人だけの静かで個人的な物語のような印象を与えられます。また、風景や足元、一般大衆といった特定の人物以外の描写とピアノの音楽で時間の流れが表現されており、世間にとっては何もない、普通の日常の中で二人が関わり、二人の関係や心情だけが変化していくような表現がなされています。
⑪ 『雲のむこう、約束の場所』
監督、原作、脚本:新海誠
津軽海峡を挟んで分断された日本で飛行機を作り、謎の塔まで飛ぼうとしていた少年達が成長し、仲の良かった世界の謎を背負う少女を助け出す物語のアニメーション映画です。政治的な分断や敵対、戦争が話の中心となっていますが、アニメーションの冒頭は完全な今の日本と変わらないような日常を描いており、戦争などが身近にある暗い世界の中での日常を描いているように思えました。また、少女の夢の世界で鳴る雷や晴れるタイミングなど、天気の子に通じるものが感じられました。
⑫ 『ホリミヤ』
原作:HERO 作画:萩原ダイスケ
人気のwebコミック「堀さんと宮村くん」が作画を変えてコミック化された作品で、堀さんと宮村くんとの出会いから高校卒業までの高校生活を描いた日常物語です。物語が進むにつれて二人がメインだった物語に登場人物が増えていき、高校生の世界の広がり方を見られることが魅力の一つとなっています。また、元々は友達といえる人が一人しかいなく、学校では一人で過ごしていた宮村くんが猪突猛進的で意志の強い堀さんと出会ったことにより友人が増え、自分が嫌いだった過去を受け入れ、いじめっ子とも心の内を伝えられるようになるというような成長も見所です。
⑬ 『天久鷹央の推理カルテ』
著者:知念実希人
普通の医者がさじを投げるような奇妙な病状を天才診断士である鷹央が診断していく様を、助手として奔走する主人公の視点で見ていく小説で、シャーロックホームズが現代日本で医師として存在したらどうなるかという着想から描かれる天久鷹央シリーズのひとつです。鷹央の驚異的な記憶力と洞察力によって一目で診断を下す、爽快感が見所の一つです。また、診断を下された患者が窃盗事件の犯人かつ、別の患者の事件と繋がっていたり、小話として挟まれた親子が後の物語のメインになったりと、各ストーリーが繋がっている部分も見所となっています。
⑭ 『お前みたいなヒロインがいてたまるか!』
著者:白猫
少し前に流行った「乙女ゲームの悪役令嬢転生モノ」ですが、ファンタジー世界ではなく、現実と似ている世界への転生モノで、闇が深いゲームに転生した主人公が性格の悪い転生者であるヒロインから母やいとこを守るために奮闘するライトノベルです。物語のはじめに前世の記憶を持つヒロインと接触することによって主人公が記憶を取り戻すことで王道の悪役令嬢ものの断罪回避的なストーリーではなく、ヒロインから大切な身内を守るというストーリーとなっている点が魅力です。また、日本のお嬢様・お坊ちゃま学校での生活が描かれ、庶民の記憶がある主人公がツッコミを入れる点も見所の一つとなっています。
⑮ 『ノーゲーム・ノーライフ12 ゲーマー兄弟たちは『魔王』に挑むようです』
著者:榎宮祐
アニメ化、映画化もされた人気ライトノベルの12巻で、世界が二分され、全面衝突を迎えそうな中、主人公の二人の前に「魔王」が現れ、攻略不可能とされる「魔王の塔」で戦っていく物語です。それまでの活躍により人間の国を再興したものの、この世界に来て初めての負けにより世界が分断されてしまったという壮大な世界観と、本人達はイカサマまがいの手を打ち、引きこもりの対人恐怖症という小ささの対比が作品の魅力の一つです。この巻では「魔王の塔」攻略の前半部が描かれており、「魔王」とは何故生まれたのかという原点から、魔王を殺さずに攻略することの不可能さが提示され、時間の伏線を散りばめたかたちになっています。
⑯ 『十三夜』
著者:樋口一葉
一目惚れされて結婚した夫の自分に対する仕打ちに耐えられず、主人公が両親を訪れ離縁の打診をする話から、当時の古いものと新しいものが混沌としていた世相や恋愛感情を描いた作品です。前半部では上流階級であり、新しい西洋の考え方を学び、好きな人と愛し合った結婚を望む夫と、昔から続く女は慎ましく、夫を立て、家のための結婚を良しとする主人公のすれ違いを読むことができますが、後半では古い考えを持つ主人公と、結婚前に「この人と結婚するだろう」と思っていた人、つまり好きだった人との再会が描かれます。前半部と後半部の主人公から男性への感情が対比的であることによって古い価値観の中では意識されないながらも存在した恋愛感情を見ることができる点がこの作品の魅力の一つでしょう。
⑰ 『たけくらべ』
著者:樋口一葉
花魁になる予定のお転婆な少女と寺の息子であり、僧侶らしい清貧を尊ぶ幼なじみの恋愛模様を描いた作品です。2人の恋愛模様を描いた作品としては珍しく、2人が直接対話する場面は一つしかなく、基本的にすれ違い続け、そのまま結末までいきますよって、この作品では2人の恋愛模様を主軸としつつ、別の、少女の成長という副題が存在します。お転婆であり、男子ともよく遊んでいた男勝りの少女は、ある日を境に男性に対して恥じらいをみせるお淑やかな女性らしい女性へと成長する様はこの作品の見所といえます。
⑱ 『超短篇!大どんでん返し』
著者:青崎有吾、青柳碧人、乾 くるみ、井上真偽、上田早夕里、大山誠一郎、乙一、恩田 陸、伽古屋圭市、門井慶喜、北村 薫、呉 勝浩、下村敦史、翔田 寛、白井智之、曽根圭介、蘇部健一、日明 恩、田丸雅智、辻 真先、長岡弘樹、夏川草介、西澤保彦、似鳥 鶏、法月綸太郎、葉真中 顕、東川篤哉、深緑野分、柳 広司、米澤穂信
2000字という超短篇小説集で、数ページでどんでん返しが行われるスピード感のある作品です。2000字という限られた範囲でどんでん返しをしようとなると、大きく三つの方法に別けられます。まず、わざと重要な描写を省く方法。この方法の場合、最期の一文で自分の中の常識から思い込んでいた事実を否定されます。次に、登場人物たちでさえその事実しらず、後日談や過去のどこかの話としてひっくり返す方法。この二つの場合、読者のみが衝撃を受けます。最期に、登場人物と一緒に事実に気づいたり、目撃したりする方法。基本的にこのような構成を取っていることが多く、特に一つ目の方法を使った作品は、連続して読んでいる内に内容を予測できてしまうが短篇として作りやすいという一長一短な方法と言えます。
⑲ 『天冥の標Ⅱ』
著者:小川一水
世界中に死亡率の高いウイルスが蔓延したらという設定のSF作品でありながら、愛や人との繋がりを描いた作品です。人とのふれあいを愛であり、精神の穢れを浄化する温かいものとしつつ、冥王斑感染者への物理的隔離や地域からの拒絶を通して、その難しさを強調していますが、その中でも人と繋がる方法を模索し、実現できるという希望も示しており、非常事態が起こったときの人間模様や人の動きが中心に語られています。
⑳ 『黒執事』、
著者:枢やな
アニメ化、映画化、舞台化もされた人気漫画で、両親と使用人、愛犬、双子の兄を殺された主人公が悪魔と契約し、復讐を誓った物語ですが、現在は生きた死体となった兄と自分の居場所を賭けた勝負をしています。伏線回収の鮮やかさと美しい絵柄、ダークな世界観が魅力の作品です。特に最新刊では死への恐怖といった普通の人間ならば持っているはずの感情を持った軍人と、そのような感情を失ってしまった、または生まれつき持っていない者との対比や生きている人間と亡くなった人間の対比など、生死が話の中心となっており、その薄ら寒さが見所の一つとなっています。
21 『化石少女』
著者:麻耶雄嵩
この作品の主人公達は、よくある推理小説のように天才的な推理を披露する探偵役と、現場を駆け回り情報を集め、探偵役をサポートする助手役に一見見えますが、私怨から始め、こじつけで完成する推理をする探偵役であるヒロインと、ヒロインのために情報を集めてサポートするも、その推理の矛盾点、納得できない点を並べて披露された推理をことごとく論破する主人公という全く新しい推理ものの小説です。しかし、事件を追うごとに主人公の論破のキレが悪くなり、最後には主人公が起こした殺人の真相の一歩手前まで差し迫った推理が披露され、それによって主人公はヒロインの側に今後い続ける言い訳を獲得します。つまり、六つの事件は謎解きを楽しませるためのものでありつつも、2人の関係性を維持するための装置の役割も果たしているのです。
22 『あの日、君は何をした』
著者:まさきとしか
完璧な家族であるはずの家の息子が連続殺人事件の犯人に間違えられ死亡した事件とその一五年後女性の殺害事件の重要参考人である百井が行方不明となった事件という二つの事件の繋がりを見つけ出すミステリー小説で、事件によって亡くなったり行方不明になったりした人の母親の必死さや愛が中心に描かれた作品です。主人公らしい主人公を置かず、各登場人物の視点から物語を読者に語ることにより、それぞれ違った母と子の関係が描かれます。全体を通して母の子への愛は自己中心的で恐ろしいもののように、母は、子の心の中の絶対的な存在として表されており、狂信的な母子の愛を思わせます。また、どの母子関係にも誰かの死が関わっていて、残された者は必ずと言って良いほど死人の「死ななければならなかった理由」を探し続けますが、その理由を知ることが残された人にとっての最善であるか、死人の望んでいたことであるかは誰にも分からないという副題がありました。
23 『キャラクター』
監督:永井聡 原案:長崎尚志 脚本:長崎尚志、川原杏奈、永井聡
人物が描けずオリジナル作家になることのできない漫画家が猟奇殺人鬼と出会い、漫画家として成功するが、自分の漫画と同じ殺人を犯す殺人鬼との対決を描いたダークエンターテインメント映画です。最後のシーンの「僕は誰なのか」という質問は狂気の殺人犯自体の、幼少期に植え付けられた思想を否定された自分や、戸籍のない自分に対する問いと思われますが、殺人犯の狂気に当てられなかったら売れっ子の漫画家になんてなれなかった主人公への自分からの問いも含まれているように思われました。また、作中作品の宣伝にあった、「僕を止められるのは誰だ」というキャッチフレーズは、本当の事件を描き、その後の展開で凄惨な事件を起こしてしまったのにその作品を描き続けてしまう自分を誰かに止めて欲しいという意味に感じ取れましたが、エンディング直前でイラストを描いていたため、その「殺人犯と繋がっている自分」を止めて欲しいという意味であったと考えられます。
24 『イニシエーション・ラブ』
著者:乾くるみ
side-Aでは奥手で恋愛経験のない大学生である鈴木が初めて恋をした女性であるマユとの交際を通した変化を描き、side-Bでは就職の影響で東京に行くことになった鈴木が同僚の女性とマユの間で揺れ動く様を描いたミステリー小説も言われる作品です。前半、後半で出てくる「たっちゃん」という人物が同じ「鈴木」という名字の別人であるという設定のため、視点の人物を基本的に鈴木やたっちゃんと呼ばれさせて同一人物のように見せかける都合上、最期に名前が出てきた際に前半の視点の人物の名前を忘れてしまい、「最期から2行目であなたは騙される」というキャッチフレーズがなければ違和感のみで終わってしまう可能性があり、読み慣れていないと腑に落ちない作品となってしまうと思われました。
25 『カゲロウデイズ』
原作:じん 漫画:佐藤まひろ
太古から生きるメデューサの蛇の力により一定の期間を延々と繰り返し続ける世界で繰り返しに気づき、世界の繰り返しを止めるために奔走する作品です。ループものであるため数々のループ世界ではキャラクター通しの関係性や出会う時期、死因や死期までもが少しずつ異なり、それが魅力の一つとなっています。アニメ版が完結のハッピーエンドであるのに対し、漫画版ではアニメ版のループが始まるきっかけや世界の初めが描かれており、漫画版、アニメ版、小説版で同じキャラクター達、設定でありながらも別の世界を見ることができます。
26 『水曜日が消えた』
監督:吉野耕平 脚本:吉野耕平 制作:沢桂一、新井重人
七重人格であり、曜日によって人格を分けている火曜日の人格が主人公の作品で、ある朝から水曜日までも自分の人格が続くこととなり、その後に起こる多くの違和感から暗躍している誰かを探すミステリー映画です。初めと最後に説明、まとめのために7人格が出てきますが、基本的に火曜日の人格の視点で物語が進んでいきます。自分の日常が一般の日常に近づくことに喜びを覚えつつ、最終的には元の自分の日常を取り戻し、他の6人の自分を大切にする選択をするラストは自己利益と他者の利益を天秤に掛ける難しさと一人の存在の定義を再確認することができます。
27 『チャーリーとチョコレート工場』
監督:ティム・バートン 音楽:ダニー・エルフマン 原作:ロアルド・ダール
極貧生活を送る主人公が幸運の末世界的なチョコレート工場の見学に行き、人の幸せを確かめていく物語です。作中で主人公と共に見学する子ども達は食欲に溺れるものや拝金主義者、何を犠牲にしても名誉を求めるもの、過剰な自信で他を見下すものなど、人間の醜い部分が強調されたキャラクターとなっており、部屋を移動するたびにそれらによって脱落していく様により、清貧であり、他者を労る心を持った主人公の優しさが際立っています。また、同じ人間が大勢働いていたり、摘まめるほど小さくなったり、全身が真紫になったりなど、視覚的な衝撃が多いのもこの作品の特徴です。
28 『マーチ博士の四人の息子』
著者:ブリジット・オベール 訳:堀茂樹、藤本優子
とある屋敷でメイドとして働く主人公の日記と、屋敷の息子達のうちの誰かである狂気的殺人犯の日記が交互に物語を進める形式で、ある日殺人鬼の日記を見つけてしまった主人公が殺人犯を特定しようと日記などを用いて奔走する作品です。殺人犯の日記に書かれた出来事と子息達の行動を当てはめて探しますが、4兄弟でなく、もう1人の兄弟がいると知らない使用人である主人公と読者は4人全員が怪しく見える展開となります。兄弟一人一人が次々に怪しく見えてくる場面展開が魅力の一つと言えるでしょう。
29 『ecriture 新人作家・杉浦李奈の推論』
著者:松岡圭祐
ライトノベル作家である主人公が一度対談した新進気鋭の作家である岩崎の盗作事件を追った作品を書くこととなり、事件を調べていく文学ミステリー小説です。各人物の描写が細かく、人柄を描くような文章が魅力で、事件を追うに連れて主人公が記者として、小説家として成長していく様子がはっきりと伝わってきます。また、元々はただ岩崎の身の回りの人物像や人柄、思想を書くはずだった主人公が最終的には殺人事件の犯人にたどり着き、岩崎の盗作に関する真実に迫っていくという物語の広がりも見所の一つだと思いました。
30 『神のロジック 次は誰の番ですか?』
著者:西澤保彦
主人公を含めた国籍もバラバラな子ども達に特殊な授業を受けさせる<学校>で次々と殺人事件が起き、事件の真相を追っていた主人公が<学校>という場の衝撃の事実を自覚するミステリー小説です。主人公達が10代ではなく、心理学の実験で10代だと思い込まされている記憶障害の老人であったとする伏線は食事への職員の苦言や鏡や自分の手を見た時の反応で示されており、年齢、容姿、認識への解釈が随所に描かれていることが結末を示唆していました。ほぼ全ての殺人を犯した女性が持っていた実験への執着の動機ははっきり示されていませんでしたが、もう1人の女性には過去の娘や孫達との温かな記憶がある一方で、その女性は「両親とパリの凱旋門の近くのアパルトメントに住んでいる」というものしかなかったため、幸せで素晴らしかった子ども時代からやり直したいという意思が強かったためと考えられます。特に、主人公との将来の約束に執着したことから、結婚生活が上手くいかなかったことが記憶に障害がある原因と思われました。
著者:七月隆文
100万回生きたという少女と幼なじみの少年の恋愛小説のような入りとは裏腹に、本当に100万回生きた英雄である少年の人生が物語の大半を占める恋愛ファンタジー小説です。初めての人生で出会った、愛する人を探し続ける100万回の人生と、同じ人物として転生を繰り返し続ける今の人生を今回の人生で初めて出会ったもう1人の幼なじみに語ることで物語が進んでいきます。英雄に取り憑き、一緒に100万回の人生を旅した呪いのほのかな英雄に対する親愛や友愛、恋愛という感情によって、感情や魂全てを失ったヒロインが救われる結末は、再生と消滅を繰り返す物語の結末にふさわしいものであるといえます。
② 『世界でいちばん透きとおった物語』
著者:杉井光
亡くなった一度も会ったことのない事実上の父親である人気作家が亡くなり、その遺作探しに協力した主人公が遺作の真実に迫る物語です。キャッチコピーに「衝撃のラストにあなたの世界は透きとおる」と記されており、読者は、どれだけ感動的で、美しい物語の結末が紡がれているのだろうと期待に胸を膨らませます。ところが、描かれる物語自体は大きな事件もなければ、亡くなった両親との心の繋がりもできない、言ってしまえば普通の物語です。しかし、ラストの主人公への提案に「透きとおる」の意味が、物語の内容ではなく、小説そのものであったことに気づかされます。また、作中で探される同題の『世界で一番透きとおった物語』は未完成の作品であり、作中の主人公以外がその後読むのであろうこの形式の作品を読んでいるという、この作品と現実世界が交差したような感覚を与えられます。
③ 『この光と闇』
著者:服部まゆみ
目の見えない「姫」とされる主人公が狭い世界で成長していき、ある日突然自分と、育ってきた世界の真実を目の当たりにする物語です。前半部分は「姫」として育った盲目の主人公が感じる、聴覚、触覚、味覚、嗅覚で構成された光のない世界が、後半部では、「姫だったはずの少年」、「姫として育てられた過去を持つ現代の少年」からその世界の真相がゆっくりと主人公が受け入れる過程を通して語られます。完全な一人称視点の作品であり、初めは主人公が幼いため、違和感を持ったとして子どものたわごと程度に流れてしまいますが、主人公の成長と共に情報が増え、現代社会を生きる読者には違和感がどんどんと増えていく構成となっています。後半部から視覚の情報が増え、目隠しを取ったかのように情景描写が増えるのもこの作品の魅力でしょう。
④ 『きよしこ』
著者:重松清
作者に送られて来た手紙の送り主の息子に宛てて書いたとても「個人的な小説」であり、吃音に悩む少年が多くの人々と触れ合い、成長していく物語です。いくつかの短篇で構成されており、それぞれが転校先の学校や夏期の矯正セミナーなどで場所、年齢、周囲の人物が異なる一方でなくならない吃音とどう接しているのかが変化し、その吃音との異なる関わり方を見ることができます。周囲が変わることにより、吃音との関わり、考え方も変わりますが、家族という変わらない存在が描かれていることによって、変化と不変の対比が物語を動かしています。
⑤ 『アリシアの日記』
著者:トマス・ハーディ 訳:村上春樹
アリシアという少女が書いた日記によって話が進んでいく物語であり、妹の婚約をめぐって起きた事件が描かれていきます。この、日記で話が進むという特徴により、他の登場人物達の心情がアリシアの主観で語られるため、物語の中心人物であり、終盤に大きな事件を起こす妹の婚約者の考えを読者が考察する余地が多いにあります。また、日記という特性上、アリシア本人の誰にも話せない事情や感情がありありと表現されている所に魅力を感じました。
⑥ 『愛し合う二人に代わって』
著者:マイリー・メロイ 訳:村上春樹
戦争真っ只中のアメリカで代理結婚を依頼された2人の成長と恋愛模様を描いた作品です。かなり内向的であまり上昇志向のない主人公と、都会で夢が挫折し、田舎に戻ってきた思い人であるブライディーとの再会ではその言動から、ブライディーの精神的成長が示唆されていました。また、2人とも別の恋人が途中できることにより、ものの見方が増え、自分の気持ちが見えるようになるという共通点がラストに影響しているようにみえます。
⑦ 『恋するザムザ』
著者:村上春樹
自分は「ザムザ」という人物であると自称する主人公が恋愛感情を知るまでの作品であるが、恋愛要素よりもザムザという主人公は何者であるのかという疑問が読者の心を占めます。主人公は服やマナーといった一般常識が欠如しており、しかも寝ていた自宅だと思われる場所の記憶が曖昧で、目覚める前は人間ではなく、ザムザという人物の身体と一部の記憶を引き継いだという印象を受けました。そのため、初めて女性と接したときの主人公の言動が性に対してかなり直接的で、女性視点で鑑賞するには嫌悪感を抱きやすい作品です。
⑧ 『犬王』
原作:古川日出男(『平家物語 犬王の巻』) 監督:湯浅政明 脚本:野木亜紀子
舞の天才である犬王と盲目の琵琶法師である友魚が新たなエンターテイメントで平家の亡霊達を導き、ついには天皇の御前で披露するほどの人気を博すバディものの物語です。後半部は基本的に音楽が占めており、室町時代とは思えないロック調の音楽とバレエやヒップホップなど多種類のダンスの融合が魅力の一つとなっています。また、平家の呪いや呪いの仮面、亡霊達といったようにホラー的要素や処刑や呪い殺されたときの描写のグロ要素なども多く、比較的高い年齢層に向けた作品と言えるでしょう。
⑨ 『秒速5センチメートル』
監督、原作、脚本:新海誠
転校によって離ればなれになってしまった主人公と少女が再会し、再び離れて大人になっていく過程を描いたアニメーション映画です。この作品は少女の時間を手紙で、主人公の時間を画面で流れさせている「桜花抄」、主人公が鹿児島に行ってからの生活を主人公に思いを寄せている少女の視点から描いた「コスモナウト」、東京に戻ってからの主人公の生活と最初の女性との人生の交わりを描いた「秒速5センチメートル」の3話で構成されています。ロケットや電車といった無機物が二人の関係の境界線となっており、視覚的にも二人の人生が交差し続けることがないことが分かります。
⑩ 『言の葉の庭』
監督、原作、脚本:新海誠
男子高校生と訳ありである社会人女性の逃避のような雨の日だけの交流によって歩き出す力を手に入れた二人が自分の未来に向かって進んでいくような物語です。全体的に独白と雨が多いため、二人だけの静かで個人的な物語のような印象を与えられます。また、風景や足元、一般大衆といった特定の人物以外の描写とピアノの音楽で時間の流れが表現されており、世間にとっては何もない、普通の日常の中で二人が関わり、二人の関係や心情だけが変化していくような表現がなされています。
⑪ 『雲のむこう、約束の場所』
監督、原作、脚本:新海誠
津軽海峡を挟んで分断された日本で飛行機を作り、謎の塔まで飛ぼうとしていた少年達が成長し、仲の良かった世界の謎を背負う少女を助け出す物語のアニメーション映画です。政治的な分断や敵対、戦争が話の中心となっていますが、アニメーションの冒頭は完全な今の日本と変わらないような日常を描いており、戦争などが身近にある暗い世界の中での日常を描いているように思えました。また、少女の夢の世界で鳴る雷や晴れるタイミングなど、天気の子に通じるものが感じられました。
⑫ 『ホリミヤ』
原作:HERO 作画:萩原ダイスケ
人気のwebコミック「堀さんと宮村くん」が作画を変えてコミック化された作品で、堀さんと宮村くんとの出会いから高校卒業までの高校生活を描いた日常物語です。物語が進むにつれて二人がメインだった物語に登場人物が増えていき、高校生の世界の広がり方を見られることが魅力の一つとなっています。また、元々は友達といえる人が一人しかいなく、学校では一人で過ごしていた宮村くんが猪突猛進的で意志の強い堀さんと出会ったことにより友人が増え、自分が嫌いだった過去を受け入れ、いじめっ子とも心の内を伝えられるようになるというような成長も見所です。
⑬ 『天久鷹央の推理カルテ』
著者:知念実希人
普通の医者がさじを投げるような奇妙な病状を天才診断士である鷹央が診断していく様を、助手として奔走する主人公の視点で見ていく小説で、シャーロックホームズが現代日本で医師として存在したらどうなるかという着想から描かれる天久鷹央シリーズのひとつです。鷹央の驚異的な記憶力と洞察力によって一目で診断を下す、爽快感が見所の一つです。また、診断を下された患者が窃盗事件の犯人かつ、別の患者の事件と繋がっていたり、小話として挟まれた親子が後の物語のメインになったりと、各ストーリーが繋がっている部分も見所となっています。
⑭ 『お前みたいなヒロインがいてたまるか!』
著者:白猫
少し前に流行った「乙女ゲームの悪役令嬢転生モノ」ですが、ファンタジー世界ではなく、現実と似ている世界への転生モノで、闇が深いゲームに転生した主人公が性格の悪い転生者であるヒロインから母やいとこを守るために奮闘するライトノベルです。物語のはじめに前世の記憶を持つヒロインと接触することによって主人公が記憶を取り戻すことで王道の悪役令嬢ものの断罪回避的なストーリーではなく、ヒロインから大切な身内を守るというストーリーとなっている点が魅力です。また、日本のお嬢様・お坊ちゃま学校での生活が描かれ、庶民の記憶がある主人公がツッコミを入れる点も見所の一つとなっています。
⑮ 『ノーゲーム・ノーライフ12 ゲーマー兄弟たちは『魔王』に挑むようです』
著者:榎宮祐
アニメ化、映画化もされた人気ライトノベルの12巻で、世界が二分され、全面衝突を迎えそうな中、主人公の二人の前に「魔王」が現れ、攻略不可能とされる「魔王の塔」で戦っていく物語です。それまでの活躍により人間の国を再興したものの、この世界に来て初めての負けにより世界が分断されてしまったという壮大な世界観と、本人達はイカサマまがいの手を打ち、引きこもりの対人恐怖症という小ささの対比が作品の魅力の一つです。この巻では「魔王の塔」攻略の前半部が描かれており、「魔王」とは何故生まれたのかという原点から、魔王を殺さずに攻略することの不可能さが提示され、時間の伏線を散りばめたかたちになっています。
⑯ 『十三夜』
著者:樋口一葉
一目惚れされて結婚した夫の自分に対する仕打ちに耐えられず、主人公が両親を訪れ離縁の打診をする話から、当時の古いものと新しいものが混沌としていた世相や恋愛感情を描いた作品です。前半部では上流階級であり、新しい西洋の考え方を学び、好きな人と愛し合った結婚を望む夫と、昔から続く女は慎ましく、夫を立て、家のための結婚を良しとする主人公のすれ違いを読むことができますが、後半では古い考えを持つ主人公と、結婚前に「この人と結婚するだろう」と思っていた人、つまり好きだった人との再会が描かれます。前半部と後半部の主人公から男性への感情が対比的であることによって古い価値観の中では意識されないながらも存在した恋愛感情を見ることができる点がこの作品の魅力の一つでしょう。
⑰ 『たけくらべ』
著者:樋口一葉
花魁になる予定のお転婆な少女と寺の息子であり、僧侶らしい清貧を尊ぶ幼なじみの恋愛模様を描いた作品です。2人の恋愛模様を描いた作品としては珍しく、2人が直接対話する場面は一つしかなく、基本的にすれ違い続け、そのまま結末までいきますよって、この作品では2人の恋愛模様を主軸としつつ、別の、少女の成長という副題が存在します。お転婆であり、男子ともよく遊んでいた男勝りの少女は、ある日を境に男性に対して恥じらいをみせるお淑やかな女性らしい女性へと成長する様はこの作品の見所といえます。
⑱ 『超短篇!大どんでん返し』
著者:青崎有吾、青柳碧人、乾 くるみ、井上真偽、上田早夕里、大山誠一郎、乙一、恩田 陸、伽古屋圭市、門井慶喜、北村 薫、呉 勝浩、下村敦史、翔田 寛、白井智之、曽根圭介、蘇部健一、日明 恩、田丸雅智、辻 真先、長岡弘樹、夏川草介、西澤保彦、似鳥 鶏、法月綸太郎、葉真中 顕、東川篤哉、深緑野分、柳 広司、米澤穂信
2000字という超短篇小説集で、数ページでどんでん返しが行われるスピード感のある作品です。2000字という限られた範囲でどんでん返しをしようとなると、大きく三つの方法に別けられます。まず、わざと重要な描写を省く方法。この方法の場合、最期の一文で自分の中の常識から思い込んでいた事実を否定されます。次に、登場人物たちでさえその事実しらず、後日談や過去のどこかの話としてひっくり返す方法。この二つの場合、読者のみが衝撃を受けます。最期に、登場人物と一緒に事実に気づいたり、目撃したりする方法。基本的にこのような構成を取っていることが多く、特に一つ目の方法を使った作品は、連続して読んでいる内に内容を予測できてしまうが短篇として作りやすいという一長一短な方法と言えます。
⑲ 『天冥の標Ⅱ』
著者:小川一水
世界中に死亡率の高いウイルスが蔓延したらという設定のSF作品でありながら、愛や人との繋がりを描いた作品です。人とのふれあいを愛であり、精神の穢れを浄化する温かいものとしつつ、冥王斑感染者への物理的隔離や地域からの拒絶を通して、その難しさを強調していますが、その中でも人と繋がる方法を模索し、実現できるという希望も示しており、非常事態が起こったときの人間模様や人の動きが中心に語られています。
⑳ 『黒執事』、
著者:枢やな
アニメ化、映画化、舞台化もされた人気漫画で、両親と使用人、愛犬、双子の兄を殺された主人公が悪魔と契約し、復讐を誓った物語ですが、現在は生きた死体となった兄と自分の居場所を賭けた勝負をしています。伏線回収の鮮やかさと美しい絵柄、ダークな世界観が魅力の作品です。特に最新刊では死への恐怖といった普通の人間ならば持っているはずの感情を持った軍人と、そのような感情を失ってしまった、または生まれつき持っていない者との対比や生きている人間と亡くなった人間の対比など、生死が話の中心となっており、その薄ら寒さが見所の一つとなっています。
21 『化石少女』
著者:麻耶雄嵩
この作品の主人公達は、よくある推理小説のように天才的な推理を披露する探偵役と、現場を駆け回り情報を集め、探偵役をサポートする助手役に一見見えますが、私怨から始め、こじつけで完成する推理をする探偵役であるヒロインと、ヒロインのために情報を集めてサポートするも、その推理の矛盾点、納得できない点を並べて披露された推理をことごとく論破する主人公という全く新しい推理ものの小説です。しかし、事件を追うごとに主人公の論破のキレが悪くなり、最後には主人公が起こした殺人の真相の一歩手前まで差し迫った推理が披露され、それによって主人公はヒロインの側に今後い続ける言い訳を獲得します。つまり、六つの事件は謎解きを楽しませるためのものでありつつも、2人の関係性を維持するための装置の役割も果たしているのです。
22 『あの日、君は何をした』
著者:まさきとしか
完璧な家族であるはずの家の息子が連続殺人事件の犯人に間違えられ死亡した事件とその一五年後女性の殺害事件の重要参考人である百井が行方不明となった事件という二つの事件の繋がりを見つけ出すミステリー小説で、事件によって亡くなったり行方不明になったりした人の母親の必死さや愛が中心に描かれた作品です。主人公らしい主人公を置かず、各登場人物の視点から物語を読者に語ることにより、それぞれ違った母と子の関係が描かれます。全体を通して母の子への愛は自己中心的で恐ろしいもののように、母は、子の心の中の絶対的な存在として表されており、狂信的な母子の愛を思わせます。また、どの母子関係にも誰かの死が関わっていて、残された者は必ずと言って良いほど死人の「死ななければならなかった理由」を探し続けますが、その理由を知ることが残された人にとっての最善であるか、死人の望んでいたことであるかは誰にも分からないという副題がありました。
23 『キャラクター』
監督:永井聡 原案:長崎尚志 脚本:長崎尚志、川原杏奈、永井聡
人物が描けずオリジナル作家になることのできない漫画家が猟奇殺人鬼と出会い、漫画家として成功するが、自分の漫画と同じ殺人を犯す殺人鬼との対決を描いたダークエンターテインメント映画です。最後のシーンの「僕は誰なのか」という質問は狂気の殺人犯自体の、幼少期に植え付けられた思想を否定された自分や、戸籍のない自分に対する問いと思われますが、殺人犯の狂気に当てられなかったら売れっ子の漫画家になんてなれなかった主人公への自分からの問いも含まれているように思われました。また、作中作品の宣伝にあった、「僕を止められるのは誰だ」というキャッチフレーズは、本当の事件を描き、その後の展開で凄惨な事件を起こしてしまったのにその作品を描き続けてしまう自分を誰かに止めて欲しいという意味に感じ取れましたが、エンディング直前でイラストを描いていたため、その「殺人犯と繋がっている自分」を止めて欲しいという意味であったと考えられます。
24 『イニシエーション・ラブ』
著者:乾くるみ
side-Aでは奥手で恋愛経験のない大学生である鈴木が初めて恋をした女性であるマユとの交際を通した変化を描き、side-Bでは就職の影響で東京に行くことになった鈴木が同僚の女性とマユの間で揺れ動く様を描いたミステリー小説も言われる作品です。前半、後半で出てくる「たっちゃん」という人物が同じ「鈴木」という名字の別人であるという設定のため、視点の人物を基本的に鈴木やたっちゃんと呼ばれさせて同一人物のように見せかける都合上、最期に名前が出てきた際に前半の視点の人物の名前を忘れてしまい、「最期から2行目であなたは騙される」というキャッチフレーズがなければ違和感のみで終わってしまう可能性があり、読み慣れていないと腑に落ちない作品となってしまうと思われました。
25 『カゲロウデイズ』
原作:じん 漫画:佐藤まひろ
太古から生きるメデューサの蛇の力により一定の期間を延々と繰り返し続ける世界で繰り返しに気づき、世界の繰り返しを止めるために奔走する作品です。ループものであるため数々のループ世界ではキャラクター通しの関係性や出会う時期、死因や死期までもが少しずつ異なり、それが魅力の一つとなっています。アニメ版が完結のハッピーエンドであるのに対し、漫画版ではアニメ版のループが始まるきっかけや世界の初めが描かれており、漫画版、アニメ版、小説版で同じキャラクター達、設定でありながらも別の世界を見ることができます。
26 『水曜日が消えた』
監督:吉野耕平 脚本:吉野耕平 制作:沢桂一、新井重人
七重人格であり、曜日によって人格を分けている火曜日の人格が主人公の作品で、ある朝から水曜日までも自分の人格が続くこととなり、その後に起こる多くの違和感から暗躍している誰かを探すミステリー映画です。初めと最後に説明、まとめのために7人格が出てきますが、基本的に火曜日の人格の視点で物語が進んでいきます。自分の日常が一般の日常に近づくことに喜びを覚えつつ、最終的には元の自分の日常を取り戻し、他の6人の自分を大切にする選択をするラストは自己利益と他者の利益を天秤に掛ける難しさと一人の存在の定義を再確認することができます。
27 『チャーリーとチョコレート工場』
監督:ティム・バートン 音楽:ダニー・エルフマン 原作:ロアルド・ダール
極貧生活を送る主人公が幸運の末世界的なチョコレート工場の見学に行き、人の幸せを確かめていく物語です。作中で主人公と共に見学する子ども達は食欲に溺れるものや拝金主義者、何を犠牲にしても名誉を求めるもの、過剰な自信で他を見下すものなど、人間の醜い部分が強調されたキャラクターとなっており、部屋を移動するたびにそれらによって脱落していく様により、清貧であり、他者を労る心を持った主人公の優しさが際立っています。また、同じ人間が大勢働いていたり、摘まめるほど小さくなったり、全身が真紫になったりなど、視覚的な衝撃が多いのもこの作品の特徴です。
28 『マーチ博士の四人の息子』
著者:ブリジット・オベール 訳:堀茂樹、藤本優子
とある屋敷でメイドとして働く主人公の日記と、屋敷の息子達のうちの誰かである狂気的殺人犯の日記が交互に物語を進める形式で、ある日殺人鬼の日記を見つけてしまった主人公が殺人犯を特定しようと日記などを用いて奔走する作品です。殺人犯の日記に書かれた出来事と子息達の行動を当てはめて探しますが、4兄弟でなく、もう1人の兄弟がいると知らない使用人である主人公と読者は4人全員が怪しく見える展開となります。兄弟一人一人が次々に怪しく見えてくる場面展開が魅力の一つと言えるでしょう。
29 『ecriture 新人作家・杉浦李奈の推論』
著者:松岡圭祐
ライトノベル作家である主人公が一度対談した新進気鋭の作家である岩崎の盗作事件を追った作品を書くこととなり、事件を調べていく文学ミステリー小説です。各人物の描写が細かく、人柄を描くような文章が魅力で、事件を追うに連れて主人公が記者として、小説家として成長していく様子がはっきりと伝わってきます。また、元々はただ岩崎の身の回りの人物像や人柄、思想を書くはずだった主人公が最終的には殺人事件の犯人にたどり着き、岩崎の盗作に関する真実に迫っていくという物語の広がりも見所の一つだと思いました。
30 『神のロジック 次は誰の番ですか?』
著者:西澤保彦
主人公を含めた国籍もバラバラな子ども達に特殊な授業を受けさせる<学校>で次々と殺人事件が起き、事件の真相を追っていた主人公が<学校>という場の衝撃の事実を自覚するミステリー小説です。主人公達が10代ではなく、心理学の実験で10代だと思い込まされている記憶障害の老人であったとする伏線は食事への職員の苦言や鏡や自分の手を見た時の反応で示されており、年齢、容姿、認識への解釈が随所に描かれていることが結末を示唆していました。ほぼ全ての殺人を犯した女性が持っていた実験への執着の動機ははっきり示されていませんでしたが、もう1人の女性には過去の娘や孫達との温かな記憶がある一方で、その女性は「両親とパリの凱旋門の近くのアパルトメントに住んでいる」というものしかなかったため、幸せで素晴らしかった子ども時代からやり直したいという意思が強かったためと考えられます。特に、主人公との将来の約束に執着したことから、結婚生活が上手くいかなかったことが記憶に障害がある原因と思われました。
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