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三年 鈴石
RES
11~20
11.『コウノドリ』(ドラマ)
原作:鈴ノ木ユウ
<あらすじ>
聖ペルソナ総合医療センターに勤務する産婦人科医・鴻鳥サクラを主人公に据えた物語。妊婦も赤ちゃんもどちらも助けたいという想いのもと、様々な事情を持つ妊婦とその家族に寄り添っていく。
未受診妊婦や出生前診断など耳慣れない、しかし将来赤ちゃんを産むようなことになれば他人事では済まされない問題が多く登場した。中には、生きていることが無条件に良いことではないとさえ思わせられる内容のものもあった。そうした問題の中で、頭では理解できていても感情が追い付かなかったりする人もおり、治療を提案することすら難しいシーンも登場する。そうした場面では、どうしても一視聴者としては「赤ちゃんのためだから早く決断しろ」などと思ってしまったが、後に登場する「赤ちゃんと同じくらいその両親のことも大切にしなければならない」という姿勢のもと行動するサクラを見ていると、自分の思いやりのなさを痛感した。ただ、サクラの優しさは決して彼一人では成立しないものであり、気配り上手な小松さんや、冷静に現実的な見方を提示してくれる四宮など、ペルソナ内で強い信頼関係のもと連携をとれていることが支えとなっていると感じた。一人では何もできないということは命を扱う物語であるため嫌でも思い知らされるが、それと同時に繋がり方はそれぞれだが、命に必死に向き合う優しい人たちが集ったチームの強さも感じられた。
初回と最終回を比べると、同じセリフやギャグが出てきたりと、初めと終わりが重なっているような印象を受ける描写が多く、それによりドラマはここで終わってもサクラたちの日常は続いていくことを連想させるきれいな終わり方になっていたように思った。
12.『ヒトごろし(下)』(小説)
著者:京極夏彦
<あらすじ>
人をとがめられず殺すことができる組織・新選組を手に入れた土方は、冷静に、しかし着実に人を殺していく。そしてその対象は芹沢や山南など隊内へと向けられていく。しかし新選組を取り巻く環境は刻々と変化してゆき、ついには戊辰戦争が勃発するのであった。
戦争という、人が人を殺している自覚がないまま大量殺戮が行われる、狂った状況のなかで、一番冷静に戦争を非難しているのが「人を殺したい」と思い実行してきた土方であることが滑稽に感じた。特に「社会で人殺しが禁じられているから、自分は苦労して人を殺してきたのに」と、戦争の惨状を見て土方が思う場面でそれが感じられる。平穏な社会においては、この言葉は決して許されるものではなく、それは彼自身も自覚している。だからこそ彼は自分を人外であるとし、行動していた。そんな人外に誰もがなる戦争はやはり凄惨なものであると思うし、その凄惨なことを何度もやってのけるのが人間であると改めて強く感じた。
また、周囲が熱に浮かされ、敵と認識した相手を殺すことを善と考え実行しようとする様子は集団の恐ろしさを感じる。ただ、一読者として外野から見ているから恐ろしく感じ、土方と比べ集団が馬鹿のように思えるが、実際にその状況下にいたら、自分もまた敵を殺すことに何の疑問も抱かない集団側の人間なのだろうとも考えさせられた。
13.『ノッキンオン・ロックドドア』(小説)
著者:青崎有吾
<あらすじ>
不可能犯罪を専門とする御殿場倒理と、不可解犯罪を専門とする片無氷雨は、探偵事務所「ノッキンオン・ロックドドア」を共同経営している。そこに持ち込まれる依頼は果たして「不可能」か「不可解」か。独特なダブル探偵が事件をあざやかに解決していく。
「トリック?動機?キャラクター?全てがこの1冊で楽しめます!!」と帯に書いてある通り、様々な視点での楽しみ方ができる作品だった。今までミステリはあまり読んでこなかった人でもキャラクター小説として楽しむことができ、ミステリの入り口にもなるように思う。短編集であるため、主要キャラクターも映え、容疑者の人数も少ないものが多く、ミステリにありがちな「誰が誰だっけ」といったこともなく楽しめた。
また、主人公二人にもまだまだ謎が多く、互いへの親しみを感じさせつつどこか不穏な雰囲気を醸し出している点も、今後の展開への期待につながる。
14.『憂国のモリアーティ 4巻』(漫画)
著者:竹内良輔 三好輝
<あらすじ>
武器の密輸ルートを潰しアフガン戦争を終結させる極秘任務がMI6に下る。土地勘もあるということで遂行をモランに命じるウィリアムだが、他の思惑もあり…。
その他シャーロックとジョンが本編に登場する「二人の探偵」の第一幕も収録。
モランの過去に焦点を当てた物語だった。意図的に戦争を長期化させていた黒幕を潰し、またそのことで彼が捕らわれていた過去から脱却できたことには明るさを感じられる。しかし、モランの因縁が片付いたことにより、今後はより一層ウィリアムの計画のもと闇の中で暗躍していくであろうことが示され、ウィリアムもそれを見越してモランを向かわせたことが示されたため、彼らの協力関係が何層もの思惑のもと築かれていることも改めて感じた。
また、「人の死を利用している」という点で今回の黒幕もウィリアムも違いはないということに対して、やはり幸せを願わない人はいないのだなと思った。ウィリアムは身分制度のため傷付いている人たちの幸福を願い、黒幕は英国人の幸福を願っていた。現状ではウィリアムの行動が人々の幸福に着実に近づいているという証拠はないし、戦争の長期化が英国民の幸福を守っているという証拠もない。こうして並べてみると傍から見ればほとんど同じように思える。しかしそれでも違いが生じるのは、考えている幸せと手段が異なるからだと感じた。モランの言うようにウィリアムは「自分の死」を覚悟して計画を立てる。一方黒幕は「自分は死んではならない人物」として計画を立てる。そうした考えで練られた計画ではとられる手段は変わってくるし、対立するのも当然のことである。「自分の死」を覚悟しているからといって人の死を利用して良いわけはないが、やはりそうした姿の方が読者には格好良く見えてしまうものなので、主人公サイドのモランが黒幕を始末した場面では爽快感を感じた。
15.『憂国のモリアーティ 5巻』(漫画)
著者:竹内良輔 三好輝
<あらすじ>
列車内で起きた殺人事件の容疑者はなんとジョンだった。彼の容疑を晴らすため、シャーロックとウィリアムは推理対決という形で事件を解決しようとする。次の駅に着くまでの48分間で犯人を見つけることはできるのか。
また、それからほどなくして王室で受け継がれてきた極秘文書が盗まれる事件が発生。犯人として浮かんだのは、一人の女性だった。
家族や仲間内ではあまり見せない、楽しそうな表情をするウィリアムが印象的だった。シャーロックと同じように、ウィリアムも自分と似た思考を持つシャーロックには、手駒以外のなにかしらの思いがあるのではないかと感じられる。
「大英帝国の醜聞」からはアイリーン・アドラーが登場する。原案でもモリアーティと並び、シャーロックを翻弄した人物であった彼女がどのような描かれ方をするかは興味があったので、とても強かな人物に描かれていて個人的には嬉しかった。彼女がどのような思惑で今回文書を盗んだかは明らかになっていないが、身分について思うところがある描写があったので、ここからアルバートと接触し上手くモリアーティ家へとつながっていくのではないかと思った。
また、シャーロックが科学を犯罪捜査に持ち込んだことには、身分によって犯罪者扱いされないようにとの思いがあったことが判明した。ここから、シャーロックにしろアイリーンにしろウィリアムたちにしろ、身分制度に問題意識を持ち、それぞれのやり方で立ち向かっていることがうかがえた。合法的と言えるのは今のところシャーロックのみだが、だからといって他の二人を間違っていると断言することはできないと思うので、善悪の判断の難しさが感じられる。
16.『憂国のモリアーティ 6巻』(漫画)
著者:竹内良輔 三好輝
<あらすじ>
アルバートが用意した場は仮面舞踏会だった。そこで彼の正体が犯罪卿であることを明かされたアイリーンは、彼と取引をすることになる。
一方シャーロックたちも真相に近づき始めるが…。
今回アイリーンは、自分の手に負えない秘密を盗んでしまったために、その秘密を有効に活用することもできず命を狙われる身となった。しかし、伯爵としての地位のあるアルバートの手に渡ると、その秘密は持っていては危険なものから使える手段となる。このことから、いくら明晰な頭脳があって使い道を考えられても、立場が実行の障害となることで何もできなかったアイリーンの歯がゆさが感じられたように思う。また、その立場が障害とならない貴族の地位を持つアルバートの力の強さも見て取れ、改めてこの計画が貴族という立場があってこそのものだということを感じた。幼少期とはいえあのウィリアムでさえ、計画を実行する最も簡単な手法は貴族となり替わることと考えた。これは裏を返せば、貴族でなければ何もできないことの表れだと思うので、この時代の平民の無力感はどれほどのもので、さらに自分が無力と気付かされていない人はどれほどいたのかと思った。
17.『憂国のモリアーティ 7巻』(漫画)
著者:竹内良輔 三好輝
<あらすじ>
ホワイトチャペルで娼婦を狙った連続猟奇殺人事件が起きた。犯人は「切り裂きジャック」と名乗り犯行声明文を新聞に投書する。かつての師であるジャック・レンフィールドからの依頼により捜査を始めたウィリアム達は、そこで市警と自警団の衝突を目にする。
劇場型殺人という、一見ウィリアム達と大差ないことを行っているようだが、犯人の目的が明らかになるにつれ大きな隔たりがあることを印象付ける展開だったように感じる。ただし前巻の感想にも書いたように、ウィリアム達には貴族という地位が作用している。そのため、「弱者は傷つけない」という綺麗ごととも取れるような信念を貫き通せているが、そうでない労働者階級の人間が事を起こそうとした時に、「弱者を傷つける」という手段を取ってしまったことは全面的に否定できるのかと少し考えてしまった。だからといって「良い案を出す頭もないなら行動するな」というのは暴論かと思うので、黒幕らしき人物がどのような考えのもと彼らに助言したのか気になった。
また、ジャックのキャラクター像がウィリアム陣営でバランスを取ったように感じた。どちらかと言えば、ウィリアム陣営はシャーロック陣営と比べ優雅な印象が強く、これまで彼らの陣営での俗っぽさや粗削りな部分はモラン一人が請け負うことになっていた。しかし、ここで豪快な口調や女性好きといった人物像のジャックが加わることで、モランのそうした粗い面だけが強調され過度に脳筋扱いされることもなく、しっかりと聡明な面も描かれやすくなると感じた。
18.『憂国のモリアーティ 8巻』(漫画)
著者:竹内良輔 三好輝
<あらすじ>
「切り裂きジャック」に制裁を下したウィリアム。しかし事件は終わることなく、なんと市警が「切り裂きジャック」の逮捕を公表する。冤罪を証明するためボンドは市警へ潜入するが、時を同じくしてシャーロックもまた市警へと乗り込むのだった。
前巻のジャックの大立ち回りのような派手な場面は少なく、それぞれの思惑が絡み合った頭脳戦がメインの内容だった。中心となって動いていたのはボンドやシャーロック達で、ウィリアム自体の出番はあまりなかったが、ウィリアムの考えを汲んだうえで行動する彼らの姿を見ると、ウィリアムの影響力の大きさを感じられる。
またウィリアムとシャーロックがメインの『一人の学生』では、二人の関係性の変化を感じられた。『二人の探偵』の時点では、自分に匹敵する頭脳を持つ相手への興味が強調されていたように思ったが、今回は相手の性格や考え方への理解を深める一歩内に踏み込んだ様子に見えた。ウィリアムの「義賊であろうと裁かれるべき」という考え方も示され、自分のやっていることとその考えのギャップに苦しんでいるようにも感じられたので、周囲の仲間のウィリアムへの支え方にも注目していきたいと思った。
19.『憂国のモリアーティ 9巻』(漫画)
著者:竹内良輔 三好輝
<あらすじ>
「切り裂きジャック」事件の黒幕・ミルヴァートンはウィリアムの周辺を探るうち、一件の裁判記録を手にする。そこには幼少期のウィリアムが起こした裁判の詳細が記されていた。
ミルヴァ―トンとウィリアム達の対立を印象付けた巻だった。それと同時にウィリアムとルイスの、悪事を働く人間を許さない性格が幼少期からのものであることがわかり、主人公であるが謎の多い二人のキャラクター像が鮮明になったように思う。ただし、それでもルイスはともかくウィリアムの本名は不明なままなので、まだまだ謎の方が多い人物であることには変わりなかった。
また、後半の『ロンドンの騎士』からは新しく議員・ホワイトリーが登場する。ウィリアムも言うように、彼次第では犯罪卿がいらなくなるほどその主張はウィリアムらと同じであり、目的のため困難ながらも正規ルートをいくホワイトリーはウィリアム達の合わせ鏡のような存在だと感じた。この先ミルヴァ―トンがどのような悪事で絡んで、それによってホワイトリーやウィリアム達にどんな影響があるのか。また、活躍しそうなシャーロックがどのような役割を果たすのか。この二点を特に楽しみにしていきたい。
20.『開かせていただき光栄です―DILATED TO MEET YOU―』(小説)
著者:皆川博子
<あらすじ>
解剖学の重要性がまだ認知されていなかった18世紀のロンドン。そこで外科医・ダニエルは数人の弟子とともに解剖教室を開いていた。しかしある日、教室から二体の死体が発見される。身に覚えのない彼らに治安判事・フィールディングらは捜査協力を要請するが…。
過去の場面と判事らの捜査場面が交互に描かれるので、中弛みもせず読み切りやすい作品だと思う。すべて読み切ってから改めて細かな部分に身を通すと、気にも留めていなかった点がとても重要であることに気付かされ、伏線のめぐらせ方の上手さに驚いた。
また、エドの司法への敵意も言葉や行為の端からひしひしと感じられる。結果的にエドは持ち前の頭脳により、自身の望みを押し通しつつ、ネイサンを救うことも両立できたが、はたして彼やナイジェルがどの程度ネイサンを大切に思っていたかはわからないままである。ダニエルも言及していたが、エドやナイジェルにとって、ネイサンよりも望みの方が比重は重かった可能性もあるので、人助けのために動く聖人君主のような人間としては描かれていないことが、作品全体にいいように作用していると感じる。エドとナイジェルの関係性も示唆するような描写はありつつも、はっきりとしたことは何もわからないため、彼らのキャラクター性に仄暗さを残す終わり方は、次作への期待につながるように思う。
11.『コウノドリ』(ドラマ)
原作:鈴ノ木ユウ
<あらすじ>
聖ペルソナ総合医療センターに勤務する産婦人科医・鴻鳥サクラを主人公に据えた物語。妊婦も赤ちゃんもどちらも助けたいという想いのもと、様々な事情を持つ妊婦とその家族に寄り添っていく。
未受診妊婦や出生前診断など耳慣れない、しかし将来赤ちゃんを産むようなことになれば他人事では済まされない問題が多く登場した。中には、生きていることが無条件に良いことではないとさえ思わせられる内容のものもあった。そうした問題の中で、頭では理解できていても感情が追い付かなかったりする人もおり、治療を提案することすら難しいシーンも登場する。そうした場面では、どうしても一視聴者としては「赤ちゃんのためだから早く決断しろ」などと思ってしまったが、後に登場する「赤ちゃんと同じくらいその両親のことも大切にしなければならない」という姿勢のもと行動するサクラを見ていると、自分の思いやりのなさを痛感した。ただ、サクラの優しさは決して彼一人では成立しないものであり、気配り上手な小松さんや、冷静に現実的な見方を提示してくれる四宮など、ペルソナ内で強い信頼関係のもと連携をとれていることが支えとなっていると感じた。一人では何もできないということは命を扱う物語であるため嫌でも思い知らされるが、それと同時に繋がり方はそれぞれだが、命に必死に向き合う優しい人たちが集ったチームの強さも感じられた。
初回と最終回を比べると、同じセリフやギャグが出てきたりと、初めと終わりが重なっているような印象を受ける描写が多く、それによりドラマはここで終わってもサクラたちの日常は続いていくことを連想させるきれいな終わり方になっていたように思った。
12.『ヒトごろし(下)』(小説)
著者:京極夏彦
<あらすじ>
人をとがめられず殺すことができる組織・新選組を手に入れた土方は、冷静に、しかし着実に人を殺していく。そしてその対象は芹沢や山南など隊内へと向けられていく。しかし新選組を取り巻く環境は刻々と変化してゆき、ついには戊辰戦争が勃発するのであった。
戦争という、人が人を殺している自覚がないまま大量殺戮が行われる、狂った状況のなかで、一番冷静に戦争を非難しているのが「人を殺したい」と思い実行してきた土方であることが滑稽に感じた。特に「社会で人殺しが禁じられているから、自分は苦労して人を殺してきたのに」と、戦争の惨状を見て土方が思う場面でそれが感じられる。平穏な社会においては、この言葉は決して許されるものではなく、それは彼自身も自覚している。だからこそ彼は自分を人外であるとし、行動していた。そんな人外に誰もがなる戦争はやはり凄惨なものであると思うし、その凄惨なことを何度もやってのけるのが人間であると改めて強く感じた。
また、周囲が熱に浮かされ、敵と認識した相手を殺すことを善と考え実行しようとする様子は集団の恐ろしさを感じる。ただ、一読者として外野から見ているから恐ろしく感じ、土方と比べ集団が馬鹿のように思えるが、実際にその状況下にいたら、自分もまた敵を殺すことに何の疑問も抱かない集団側の人間なのだろうとも考えさせられた。
13.『ノッキンオン・ロックドドア』(小説)
著者:青崎有吾
<あらすじ>
不可能犯罪を専門とする御殿場倒理と、不可解犯罪を専門とする片無氷雨は、探偵事務所「ノッキンオン・ロックドドア」を共同経営している。そこに持ち込まれる依頼は果たして「不可能」か「不可解」か。独特なダブル探偵が事件をあざやかに解決していく。
「トリック?動機?キャラクター?全てがこの1冊で楽しめます!!」と帯に書いてある通り、様々な視点での楽しみ方ができる作品だった。今までミステリはあまり読んでこなかった人でもキャラクター小説として楽しむことができ、ミステリの入り口にもなるように思う。短編集であるため、主要キャラクターも映え、容疑者の人数も少ないものが多く、ミステリにありがちな「誰が誰だっけ」といったこともなく楽しめた。
また、主人公二人にもまだまだ謎が多く、互いへの親しみを感じさせつつどこか不穏な雰囲気を醸し出している点も、今後の展開への期待につながる。
14.『憂国のモリアーティ 4巻』(漫画)
著者:竹内良輔 三好輝
<あらすじ>
武器の密輸ルートを潰しアフガン戦争を終結させる極秘任務がMI6に下る。土地勘もあるということで遂行をモランに命じるウィリアムだが、他の思惑もあり…。
その他シャーロックとジョンが本編に登場する「二人の探偵」の第一幕も収録。
モランの過去に焦点を当てた物語だった。意図的に戦争を長期化させていた黒幕を潰し、またそのことで彼が捕らわれていた過去から脱却できたことには明るさを感じられる。しかし、モランの因縁が片付いたことにより、今後はより一層ウィリアムの計画のもと闇の中で暗躍していくであろうことが示され、ウィリアムもそれを見越してモランを向かわせたことが示されたため、彼らの協力関係が何層もの思惑のもと築かれていることも改めて感じた。
また、「人の死を利用している」という点で今回の黒幕もウィリアムも違いはないということに対して、やはり幸せを願わない人はいないのだなと思った。ウィリアムは身分制度のため傷付いている人たちの幸福を願い、黒幕は英国人の幸福を願っていた。現状ではウィリアムの行動が人々の幸福に着実に近づいているという証拠はないし、戦争の長期化が英国民の幸福を守っているという証拠もない。こうして並べてみると傍から見ればほとんど同じように思える。しかしそれでも違いが生じるのは、考えている幸せと手段が異なるからだと感じた。モランの言うようにウィリアムは「自分の死」を覚悟して計画を立てる。一方黒幕は「自分は死んではならない人物」として計画を立てる。そうした考えで練られた計画ではとられる手段は変わってくるし、対立するのも当然のことである。「自分の死」を覚悟しているからといって人の死を利用して良いわけはないが、やはりそうした姿の方が読者には格好良く見えてしまうものなので、主人公サイドのモランが黒幕を始末した場面では爽快感を感じた。
15.『憂国のモリアーティ 5巻』(漫画)
著者:竹内良輔 三好輝
<あらすじ>
列車内で起きた殺人事件の容疑者はなんとジョンだった。彼の容疑を晴らすため、シャーロックとウィリアムは推理対決という形で事件を解決しようとする。次の駅に着くまでの48分間で犯人を見つけることはできるのか。
また、それからほどなくして王室で受け継がれてきた極秘文書が盗まれる事件が発生。犯人として浮かんだのは、一人の女性だった。
家族や仲間内ではあまり見せない、楽しそうな表情をするウィリアムが印象的だった。シャーロックと同じように、ウィリアムも自分と似た思考を持つシャーロックには、手駒以外のなにかしらの思いがあるのではないかと感じられる。
「大英帝国の醜聞」からはアイリーン・アドラーが登場する。原案でもモリアーティと並び、シャーロックを翻弄した人物であった彼女がどのような描かれ方をするかは興味があったので、とても強かな人物に描かれていて個人的には嬉しかった。彼女がどのような思惑で今回文書を盗んだかは明らかになっていないが、身分について思うところがある描写があったので、ここからアルバートと接触し上手くモリアーティ家へとつながっていくのではないかと思った。
また、シャーロックが科学を犯罪捜査に持ち込んだことには、身分によって犯罪者扱いされないようにとの思いがあったことが判明した。ここから、シャーロックにしろアイリーンにしろウィリアムたちにしろ、身分制度に問題意識を持ち、それぞれのやり方で立ち向かっていることがうかがえた。合法的と言えるのは今のところシャーロックのみだが、だからといって他の二人を間違っていると断言することはできないと思うので、善悪の判断の難しさが感じられる。
16.『憂国のモリアーティ 6巻』(漫画)
著者:竹内良輔 三好輝
<あらすじ>
アルバートが用意した場は仮面舞踏会だった。そこで彼の正体が犯罪卿であることを明かされたアイリーンは、彼と取引をすることになる。
一方シャーロックたちも真相に近づき始めるが…。
今回アイリーンは、自分の手に負えない秘密を盗んでしまったために、その秘密を有効に活用することもできず命を狙われる身となった。しかし、伯爵としての地位のあるアルバートの手に渡ると、その秘密は持っていては危険なものから使える手段となる。このことから、いくら明晰な頭脳があって使い道を考えられても、立場が実行の障害となることで何もできなかったアイリーンの歯がゆさが感じられたように思う。また、その立場が障害とならない貴族の地位を持つアルバートの力の強さも見て取れ、改めてこの計画が貴族という立場があってこそのものだということを感じた。幼少期とはいえあのウィリアムでさえ、計画を実行する最も簡単な手法は貴族となり替わることと考えた。これは裏を返せば、貴族でなければ何もできないことの表れだと思うので、この時代の平民の無力感はどれほどのもので、さらに自分が無力と気付かされていない人はどれほどいたのかと思った。
17.『憂国のモリアーティ 7巻』(漫画)
著者:竹内良輔 三好輝
<あらすじ>
ホワイトチャペルで娼婦を狙った連続猟奇殺人事件が起きた。犯人は「切り裂きジャック」と名乗り犯行声明文を新聞に投書する。かつての師であるジャック・レンフィールドからの依頼により捜査を始めたウィリアム達は、そこで市警と自警団の衝突を目にする。
劇場型殺人という、一見ウィリアム達と大差ないことを行っているようだが、犯人の目的が明らかになるにつれ大きな隔たりがあることを印象付ける展開だったように感じる。ただし前巻の感想にも書いたように、ウィリアム達には貴族という地位が作用している。そのため、「弱者は傷つけない」という綺麗ごととも取れるような信念を貫き通せているが、そうでない労働者階級の人間が事を起こそうとした時に、「弱者を傷つける」という手段を取ってしまったことは全面的に否定できるのかと少し考えてしまった。だからといって「良い案を出す頭もないなら行動するな」というのは暴論かと思うので、黒幕らしき人物がどのような考えのもと彼らに助言したのか気になった。
また、ジャックのキャラクター像がウィリアム陣営でバランスを取ったように感じた。どちらかと言えば、ウィリアム陣営はシャーロック陣営と比べ優雅な印象が強く、これまで彼らの陣営での俗っぽさや粗削りな部分はモラン一人が請け負うことになっていた。しかし、ここで豪快な口調や女性好きといった人物像のジャックが加わることで、モランのそうした粗い面だけが強調され過度に脳筋扱いされることもなく、しっかりと聡明な面も描かれやすくなると感じた。
18.『憂国のモリアーティ 8巻』(漫画)
著者:竹内良輔 三好輝
<あらすじ>
「切り裂きジャック」に制裁を下したウィリアム。しかし事件は終わることなく、なんと市警が「切り裂きジャック」の逮捕を公表する。冤罪を証明するためボンドは市警へ潜入するが、時を同じくしてシャーロックもまた市警へと乗り込むのだった。
前巻のジャックの大立ち回りのような派手な場面は少なく、それぞれの思惑が絡み合った頭脳戦がメインの内容だった。中心となって動いていたのはボンドやシャーロック達で、ウィリアム自体の出番はあまりなかったが、ウィリアムの考えを汲んだうえで行動する彼らの姿を見ると、ウィリアムの影響力の大きさを感じられる。
またウィリアムとシャーロックがメインの『一人の学生』では、二人の関係性の変化を感じられた。『二人の探偵』の時点では、自分に匹敵する頭脳を持つ相手への興味が強調されていたように思ったが、今回は相手の性格や考え方への理解を深める一歩内に踏み込んだ様子に見えた。ウィリアムの「義賊であろうと裁かれるべき」という考え方も示され、自分のやっていることとその考えのギャップに苦しんでいるようにも感じられたので、周囲の仲間のウィリアムへの支え方にも注目していきたいと思った。
19.『憂国のモリアーティ 9巻』(漫画)
著者:竹内良輔 三好輝
<あらすじ>
「切り裂きジャック」事件の黒幕・ミルヴァートンはウィリアムの周辺を探るうち、一件の裁判記録を手にする。そこには幼少期のウィリアムが起こした裁判の詳細が記されていた。
ミルヴァ―トンとウィリアム達の対立を印象付けた巻だった。それと同時にウィリアムとルイスの、悪事を働く人間を許さない性格が幼少期からのものであることがわかり、主人公であるが謎の多い二人のキャラクター像が鮮明になったように思う。ただし、それでもルイスはともかくウィリアムの本名は不明なままなので、まだまだ謎の方が多い人物であることには変わりなかった。
また、後半の『ロンドンの騎士』からは新しく議員・ホワイトリーが登場する。ウィリアムも言うように、彼次第では犯罪卿がいらなくなるほどその主張はウィリアムらと同じであり、目的のため困難ながらも正規ルートをいくホワイトリーはウィリアム達の合わせ鏡のような存在だと感じた。この先ミルヴァ―トンがどのような悪事で絡んで、それによってホワイトリーやウィリアム達にどんな影響があるのか。また、活躍しそうなシャーロックがどのような役割を果たすのか。この二点を特に楽しみにしていきたい。
20.『開かせていただき光栄です―DILATED TO MEET YOU―』(小説)
著者:皆川博子
<あらすじ>
解剖学の重要性がまだ認知されていなかった18世紀のロンドン。そこで外科医・ダニエルは数人の弟子とともに解剖教室を開いていた。しかしある日、教室から二体の死体が発見される。身に覚えのない彼らに治安判事・フィールディングらは捜査協力を要請するが…。
過去の場面と判事らの捜査場面が交互に描かれるので、中弛みもせず読み切りやすい作品だと思う。すべて読み切ってから改めて細かな部分に身を通すと、気にも留めていなかった点がとても重要であることに気付かされ、伏線のめぐらせ方の上手さに驚いた。
また、エドの司法への敵意も言葉や行為の端からひしひしと感じられる。結果的にエドは持ち前の頭脳により、自身の望みを押し通しつつ、ネイサンを救うことも両立できたが、はたして彼やナイジェルがどの程度ネイサンを大切に思っていたかはわからないままである。ダニエルも言及していたが、エドやナイジェルにとって、ネイサンよりも望みの方が比重は重かった可能性もあるので、人助けのために動く聖人君主のような人間としては描かれていないことが、作品全体にいいように作用していると感じる。エドとナイジェルの関係性も示唆するような描写はありつつも、はっきりとしたことは何もわからないため、彼らのキャラクター性に仄暗さを残す終わり方は、次作への期待につながるように思う。
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