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4年 宇都穂南
RES
4年 宇都
春休み課題6〜13
6.二癈人/江戸川乱歩
湯治場で出会った井原と斎藤は世捨て人的な廃人同士として意気投合する。斎藤が顔の崩れた原因である戦場の話をしたあと、今度は井原が自己の隠棲した理由を語る。井原は小さい時から夢遊病であった。しばらくはおさまっていたが、学生となって東京に出てくると、それが再発したらしく、本人はまったく覚えがないのだが、同じ下宿内の者の物を盗んだり、夜中に墓場をうろつくようになってしまったのだという。そしてついに下宿の主人の老人を夢遊病の発作を起こしたときに殺してしまったのだった。盗まれた老人の財産が井原の部屋にあり、井原のハンカチが現場に落ちていた。素封家である親や、学友木村の尽力で、病気のため無罪となったが、それ以来、井原は社会復帰する気をなくし、こうして隠棲の人生を歩むようになったのだという。それを聞いて斎藤が、それは木村があなたの夢遊病であることを最初から利用し、目当ての老人殺しをあなたのせいにしたのではないかという。井原がありうることだとして愕然となると斎藤は辞す。井原は顔こそ崩れてしまったが斎藤こそ木村なのではないかと思う。
この話の最後、井原は木村の機知をにくむというより讃美しないでいられなかったとある。奇想天外なアイデアを素晴らしいと思うことはあるだろうが、この場面で井原の立場で考えると讃美の感情は普通出てこないと思う。奇想天外なアイデアを使って小説を執筆してきた作者江戸川乱歩の趣向が出ているような気がする。
7.D坂の殺人事件/江戸川乱歩
9月初旬の夜、「私」がD坂の大通りにある喫茶店で、向かいの古本屋の美人妻を眺めることを目当てに長居をしていると、その美人妻の存在を教えてくれた「人間の研究をしている」という青年明智小五郎が通りかかり、彼も店内に入ってくる。しかし、件の美人妻も主人も店頭に姿を見せず、万引きの跋扈するのに任せたままにしているので、おかしいと思った二人が古本屋へと入って電灯をつけてみると、奥の部屋に古本屋の妻の絞殺死体があった。警察の捜査の結果、古本屋の主人のアリバイは証明されるが、死体が発見された部屋の出入り口はすべて見張られた状態にあり、犯人がどこから入り、どこから逃げたかはわからない。長屋内部の者の犯行か。しかも奥の座敷に誰か男がいるのを無双障子越しにちらりと見たという二人の学生は、男の着物は黒、もう一方は白だと違う証言をし、事件は謎を深める。
江戸川乱歩の生んだ名探偵・明智小五郎が「容疑者」として扱われ、「私」という一般人の主人公の視点から推理が語られるという変わった構造の推理小説である。「私」視点で捜査が進むため明智が本当に怪しく見えてくるが、終盤で明智の語る推理を聞くとこれまで信じていた手がかりや証拠、証言の信頼度がどんどんと落ちていく感覚を味わえる。読書体験として特殊ではないだろうか。
8.心理試験/江戸川乱歩
貧しい大学生・蕗屋清一郎は、同級生の斎藤勇から、斎藤の下宿先の家主である老婆が室内に置いている植木鉢の底に大金を隠していることを知る。老い先短い老婆より、まだ若くて未来のある自分がその大金を使うべきなのだ、と考えた蕗屋は、老婆を殺して金を奪う計画を立てる。基本方針は、小細工を弄しないで、大胆率直にことを進めた方が足がつかないというものだった。彼はそれを実行し、老婆を殺したあと、金の半分を奪い、残りは元の場所に、そして奪った金を財布に入れて拾得物として警察に届け、1年たつのを待つことにする。その後、老婆殺害のかどで斎藤が勾引される。斎藤は老婆殺人の第一発見者であったが、そのときに例の残りの金を盗んで自分の腹巻に入れ、そのまま警察に殺人を知らせにいき、そこで身体検査されたため、分不相応の金を持っていたということで容疑をかけられてしまったのだ。蕗屋はほくそ笑むが、自分が拾った大金を警察に届けたことが担当予審判事の笠森の耳に入ったことを知る。笠森が心理試験を行う判事であることを知っていた蕗屋は、その対策として、どんな質問にも策を弄せず素直に答えてみせるという訓練を自分に課す。斎藤と蕗屋を心理試験にかけてみた結果、混乱を呈しているのは斎藤のほうで、蕗屋のほうは平然としていることが分かり判事は頭を悩ますが、そこへ名素人探偵として名の轟きだしている明智小五郎がやってきて、私見を述べ、ひとつの罠をかけるため、蕗屋を呼びだすこととなる。
蕗屋という殺人犯がいかにして心理試験(呼吸、脈拍、筋肉の動きなど体の反応を感知して嘘を見破る捜査法)を突破するか、蕗屋と明智含む警察側の対決を見所としている。蕗屋の殺人の動機や方法について淡白な文章で書かれた後、心理試験対策を入念にした蕗屋と彼を追い詰める明智の会話に多くのページが割かれる。明智はミュンスターベルヒという心理学者の著作を引用し心理試験の効能について語るが、どうやら学者とその著作は実在しているようである。心理試験のようなものは現代にもあるが、「完璧な対策をする犯罪者がいたらどうなるのだろう?」という純粋な問いに明智が答えるような話である。
9.人間椅子/江戸川乱歩
外交官を夫に持つ閨秀作家(女性作家のこと)の佳子は、毎朝夫の登庁を見送った後、書斎に籠もり、ファンレターに目を通してから創作にとりかかることが日課だった。ある日、「私」から1通の手紙が届く。それは「私」の犯した罪悪の告白だった。
椅子専門の家具職人である「私」は、容貌が醜いため周囲の人間から蔑まれ、貧しいためにその悔しさを紛らわす術も持たなかった。しかし、私は職人としての腕はそれなりに評価されており、度々凝った椅子の注文が舞い込んだ。
ある日、外国人専門のホテルに納品される椅子を製作していた私は出来心から、椅子の中に人間が一人入り込める空洞を作り、水と食料と共にその中に入り込んだ。自分が椅子の中に入り込んだ時に、その椅子はホテルに納品されてしまう。それ以来、私は昼は椅子の中にこもり、夜になると椅子から這い出て、盗みを働くようになった。盗みで一財産出来たころ、私は外国人の少女が自分の上に座る感触を革ごしに感じることに喜びを感じた。それ以来、私は女性の感触を革ごしに感じることに夢中になった。やがて、私は言葉がわからない外国人ではなく日本人の女性の感触を感じたいと願うようになった。
推理小説というよりホラー小説に近い。江戸川乱歩の特異な点はその奇想天外なアイデアだと思うが、『人間椅子』はその代表ではないだろうか。もし椅子に人が入っていたら?というアイデア、手紙という形で語られる不快感の強い文章、オチのつけ方まで「江戸川乱歩らしい」小説だと感じる。ひと昔前の丁寧な日本語で語られた手紙にはなんとも言えない気味の悪さがあり、現代の日本語にはない独特な雰囲気がある。
10.ヒックとドラゴン(実写)/監督: ディーン・デュボア
何世代にも渡り人間とドラゴンが戦いを続けているバーク島で暮らすヒックはある日伝説のドラゴン、ナイト・フューリーと運命的な出会いを果たす。トゥースと名付け、友情を育む中で、ドラゴンと共生する方法がないか模索していくがある古代の脅威が世界を危機に陥れ…
ドラゴンに乗って飛ぶシーンでは主人公視点での映像が多用され爽快感があった。映画館で観たが少し酔った。前期の教科書では主人公ヒックがバイキングのリーダーの息子としては「障害」を持つ存在であるとされていたことが印象的だったが、実写版を観て最初に「障害者」として目に映ったのはヒックの師匠的存在のゲップというキャラクターである。彼は腕と脚が欠損しているが、義手や義肢を使って戦うことができる。バイキングの集まりを見ると彼以外にも四肢の欠損を抱える者がいることがわかる。このように身体障害者(ただし皆強い)が珍しくない集団の中で、身体的には健常者であるにも関わらず戦いに向かないヒックはかなり異質な浮いた存在であると感じた。
11.チェンソーマン レゼ篇/監督: 𠮷原達矢
悪魔の心臓を持つ「チェンソーマン」となり、公安対魔特異4課に所属するデビルハンターの少年・デンジ。憧れのマキマ とのデートで浮かれている中、急な雨に見舞われ、雨宿りしていると偶然“レゼ”という少女と出会った。
近所のカフェで働いているという彼女はデンジに優しく微笑み、二人は急速に親密に。この出会いを境に、デンジの日常は変わり始めていく……
大量に血が流れる作品なのだが、血液の色を紫や緑で表現している場面があり、悲壮感があまりないというかポップですらある気がした。レゼが起こす爆発による煙や閃光も途中からグレーやオレンジではなく様々な色になり、リアリティよりも画面の楽しさをとっているのかなと思った。またはデンジとレゼが一緒に見た花火をイメージして色を変えているのかもしれない。
12.街と、その不確かな壁/村上春樹
18歳の夏の夕暮れ、「僕」は「君」から高い壁に囲まれた「街」の話を聞く。君が言うには、ここに存在するのは自分の「影」に過ぎず、本当の彼女はその壁に囲まれた街の中にいるという。
君(の影)はその後まもなく死に、僕は君から聞いたことばをたよりに街に入り、予言者として「古い夢」を調べることになる。僕は本当の君に出会い、しだいに親しくなっていくが、影を失った彼女とはどんなに言葉を交わし、身体を重ねても、心を通わせることはできないことに気付く。
やがて古い夢を解放することに成功し、その底知れぬ悲しみを知った僕は、影を取り戻して街を出ることを決心し、留まらせようとする壁を振り切って現実世界へと回帰する。
弱くて暗い自分の影を背負い、その腐臭と共に生きることを選択した僕は、1秒ごとに死んでいく「ことば」を紡ぎながら君の記憶を語り続けていく。
雑誌に掲載されたものの本としては出版されることがなかった、村上春樹の幻の作品(国会図書館から取り寄せて読んだ)。『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』や『街とその不確かな壁』の「街」とだいたいの設定は同じだが語句はところどころ違っている。この作品だけで読むと、自分の影=自分の弱さや暗い部分を抱えながら人は生きていくべきだ、というテーマに見える。『世界の終り〜』『街とその不確かな壁』になるとそのようなシンプルなテーマではなくなっていると感じる。
13.はじめに・回転木馬のデッド・ヒート/村上春樹
『回転木馬のデッド・ヒート』という短編集の始めの1章。この短編集には事実に基づいた話しか載っていない。小説というよりそれはいわば〈スケッチ〉である。「僕」は他人の話を聞くのが好きだが、それらの話は「僕」の中に「おり」として溜まっていく。「おり」とはつまり「我々はどこにも行けない」という無力感であり、我々は我々の人生というメリー・ゴーラウンドのようなシステムの上で仮想の敵に向けて熾烈なデッド・ヒートを繰り広げているように見える。
この「僕」が村上自身であるのか、「僕」という人格を持った主人公なのか、小説という形で〈スケッチ〉が語られる以上わからないところが面白い。この章では文章表現により精神が解放されるという命題に対し明確に否定されている。
春休み課題6〜13
6.二癈人/江戸川乱歩
湯治場で出会った井原と斎藤は世捨て人的な廃人同士として意気投合する。斎藤が顔の崩れた原因である戦場の話をしたあと、今度は井原が自己の隠棲した理由を語る。井原は小さい時から夢遊病であった。しばらくはおさまっていたが、学生となって東京に出てくると、それが再発したらしく、本人はまったく覚えがないのだが、同じ下宿内の者の物を盗んだり、夜中に墓場をうろつくようになってしまったのだという。そしてついに下宿の主人の老人を夢遊病の発作を起こしたときに殺してしまったのだった。盗まれた老人の財産が井原の部屋にあり、井原のハンカチが現場に落ちていた。素封家である親や、学友木村の尽力で、病気のため無罪となったが、それ以来、井原は社会復帰する気をなくし、こうして隠棲の人生を歩むようになったのだという。それを聞いて斎藤が、それは木村があなたの夢遊病であることを最初から利用し、目当ての老人殺しをあなたのせいにしたのではないかという。井原がありうることだとして愕然となると斎藤は辞す。井原は顔こそ崩れてしまったが斎藤こそ木村なのではないかと思う。
この話の最後、井原は木村の機知をにくむというより讃美しないでいられなかったとある。奇想天外なアイデアを素晴らしいと思うことはあるだろうが、この場面で井原の立場で考えると讃美の感情は普通出てこないと思う。奇想天外なアイデアを使って小説を執筆してきた作者江戸川乱歩の趣向が出ているような気がする。
7.D坂の殺人事件/江戸川乱歩
9月初旬の夜、「私」がD坂の大通りにある喫茶店で、向かいの古本屋の美人妻を眺めることを目当てに長居をしていると、その美人妻の存在を教えてくれた「人間の研究をしている」という青年明智小五郎が通りかかり、彼も店内に入ってくる。しかし、件の美人妻も主人も店頭に姿を見せず、万引きの跋扈するのに任せたままにしているので、おかしいと思った二人が古本屋へと入って電灯をつけてみると、奥の部屋に古本屋の妻の絞殺死体があった。警察の捜査の結果、古本屋の主人のアリバイは証明されるが、死体が発見された部屋の出入り口はすべて見張られた状態にあり、犯人がどこから入り、どこから逃げたかはわからない。長屋内部の者の犯行か。しかも奥の座敷に誰か男がいるのを無双障子越しにちらりと見たという二人の学生は、男の着物は黒、もう一方は白だと違う証言をし、事件は謎を深める。
江戸川乱歩の生んだ名探偵・明智小五郎が「容疑者」として扱われ、「私」という一般人の主人公の視点から推理が語られるという変わった構造の推理小説である。「私」視点で捜査が進むため明智が本当に怪しく見えてくるが、終盤で明智の語る推理を聞くとこれまで信じていた手がかりや証拠、証言の信頼度がどんどんと落ちていく感覚を味わえる。読書体験として特殊ではないだろうか。
8.心理試験/江戸川乱歩
貧しい大学生・蕗屋清一郎は、同級生の斎藤勇から、斎藤の下宿先の家主である老婆が室内に置いている植木鉢の底に大金を隠していることを知る。老い先短い老婆より、まだ若くて未来のある自分がその大金を使うべきなのだ、と考えた蕗屋は、老婆を殺して金を奪う計画を立てる。基本方針は、小細工を弄しないで、大胆率直にことを進めた方が足がつかないというものだった。彼はそれを実行し、老婆を殺したあと、金の半分を奪い、残りは元の場所に、そして奪った金を財布に入れて拾得物として警察に届け、1年たつのを待つことにする。その後、老婆殺害のかどで斎藤が勾引される。斎藤は老婆殺人の第一発見者であったが、そのときに例の残りの金を盗んで自分の腹巻に入れ、そのまま警察に殺人を知らせにいき、そこで身体検査されたため、分不相応の金を持っていたということで容疑をかけられてしまったのだ。蕗屋はほくそ笑むが、自分が拾った大金を警察に届けたことが担当予審判事の笠森の耳に入ったことを知る。笠森が心理試験を行う判事であることを知っていた蕗屋は、その対策として、どんな質問にも策を弄せず素直に答えてみせるという訓練を自分に課す。斎藤と蕗屋を心理試験にかけてみた結果、混乱を呈しているのは斎藤のほうで、蕗屋のほうは平然としていることが分かり判事は頭を悩ますが、そこへ名素人探偵として名の轟きだしている明智小五郎がやってきて、私見を述べ、ひとつの罠をかけるため、蕗屋を呼びだすこととなる。
蕗屋という殺人犯がいかにして心理試験(呼吸、脈拍、筋肉の動きなど体の反応を感知して嘘を見破る捜査法)を突破するか、蕗屋と明智含む警察側の対決を見所としている。蕗屋の殺人の動機や方法について淡白な文章で書かれた後、心理試験対策を入念にした蕗屋と彼を追い詰める明智の会話に多くのページが割かれる。明智はミュンスターベルヒという心理学者の著作を引用し心理試験の効能について語るが、どうやら学者とその著作は実在しているようである。心理試験のようなものは現代にもあるが、「完璧な対策をする犯罪者がいたらどうなるのだろう?」という純粋な問いに明智が答えるような話である。
9.人間椅子/江戸川乱歩
外交官を夫に持つ閨秀作家(女性作家のこと)の佳子は、毎朝夫の登庁を見送った後、書斎に籠もり、ファンレターに目を通してから創作にとりかかることが日課だった。ある日、「私」から1通の手紙が届く。それは「私」の犯した罪悪の告白だった。
椅子専門の家具職人である「私」は、容貌が醜いため周囲の人間から蔑まれ、貧しいためにその悔しさを紛らわす術も持たなかった。しかし、私は職人としての腕はそれなりに評価されており、度々凝った椅子の注文が舞い込んだ。
ある日、外国人専門のホテルに納品される椅子を製作していた私は出来心から、椅子の中に人間が一人入り込める空洞を作り、水と食料と共にその中に入り込んだ。自分が椅子の中に入り込んだ時に、その椅子はホテルに納品されてしまう。それ以来、私は昼は椅子の中にこもり、夜になると椅子から這い出て、盗みを働くようになった。盗みで一財産出来たころ、私は外国人の少女が自分の上に座る感触を革ごしに感じることに喜びを感じた。それ以来、私は女性の感触を革ごしに感じることに夢中になった。やがて、私は言葉がわからない外国人ではなく日本人の女性の感触を感じたいと願うようになった。
推理小説というよりホラー小説に近い。江戸川乱歩の特異な点はその奇想天外なアイデアだと思うが、『人間椅子』はその代表ではないだろうか。もし椅子に人が入っていたら?というアイデア、手紙という形で語られる不快感の強い文章、オチのつけ方まで「江戸川乱歩らしい」小説だと感じる。ひと昔前の丁寧な日本語で語られた手紙にはなんとも言えない気味の悪さがあり、現代の日本語にはない独特な雰囲気がある。
10.ヒックとドラゴン(実写)/監督: ディーン・デュボア
何世代にも渡り人間とドラゴンが戦いを続けているバーク島で暮らすヒックはある日伝説のドラゴン、ナイト・フューリーと運命的な出会いを果たす。トゥースと名付け、友情を育む中で、ドラゴンと共生する方法がないか模索していくがある古代の脅威が世界を危機に陥れ…
ドラゴンに乗って飛ぶシーンでは主人公視点での映像が多用され爽快感があった。映画館で観たが少し酔った。前期の教科書では主人公ヒックがバイキングのリーダーの息子としては「障害」を持つ存在であるとされていたことが印象的だったが、実写版を観て最初に「障害者」として目に映ったのはヒックの師匠的存在のゲップというキャラクターである。彼は腕と脚が欠損しているが、義手や義肢を使って戦うことができる。バイキングの集まりを見ると彼以外にも四肢の欠損を抱える者がいることがわかる。このように身体障害者(ただし皆強い)が珍しくない集団の中で、身体的には健常者であるにも関わらず戦いに向かないヒックはかなり異質な浮いた存在であると感じた。
11.チェンソーマン レゼ篇/監督: 𠮷原達矢
悪魔の心臓を持つ「チェンソーマン」となり、公安対魔特異4課に所属するデビルハンターの少年・デンジ。憧れのマキマ とのデートで浮かれている中、急な雨に見舞われ、雨宿りしていると偶然“レゼ”という少女と出会った。
近所のカフェで働いているという彼女はデンジに優しく微笑み、二人は急速に親密に。この出会いを境に、デンジの日常は変わり始めていく……
大量に血が流れる作品なのだが、血液の色を紫や緑で表現している場面があり、悲壮感があまりないというかポップですらある気がした。レゼが起こす爆発による煙や閃光も途中からグレーやオレンジではなく様々な色になり、リアリティよりも画面の楽しさをとっているのかなと思った。またはデンジとレゼが一緒に見た花火をイメージして色を変えているのかもしれない。
12.街と、その不確かな壁/村上春樹
18歳の夏の夕暮れ、「僕」は「君」から高い壁に囲まれた「街」の話を聞く。君が言うには、ここに存在するのは自分の「影」に過ぎず、本当の彼女はその壁に囲まれた街の中にいるという。
君(の影)はその後まもなく死に、僕は君から聞いたことばをたよりに街に入り、予言者として「古い夢」を調べることになる。僕は本当の君に出会い、しだいに親しくなっていくが、影を失った彼女とはどんなに言葉を交わし、身体を重ねても、心を通わせることはできないことに気付く。
やがて古い夢を解放することに成功し、その底知れぬ悲しみを知った僕は、影を取り戻して街を出ることを決心し、留まらせようとする壁を振り切って現実世界へと回帰する。
弱くて暗い自分の影を背負い、その腐臭と共に生きることを選択した僕は、1秒ごとに死んでいく「ことば」を紡ぎながら君の記憶を語り続けていく。
雑誌に掲載されたものの本としては出版されることがなかった、村上春樹の幻の作品(国会図書館から取り寄せて読んだ)。『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』や『街とその不確かな壁』の「街」とだいたいの設定は同じだが語句はところどころ違っている。この作品だけで読むと、自分の影=自分の弱さや暗い部分を抱えながら人は生きていくべきだ、というテーマに見える。『世界の終り〜』『街とその不確かな壁』になるとそのようなシンプルなテーマではなくなっていると感じる。
13.はじめに・回転木馬のデッド・ヒート/村上春樹
『回転木馬のデッド・ヒート』という短編集の始めの1章。この短編集には事実に基づいた話しか載っていない。小説というよりそれはいわば〈スケッチ〉である。「僕」は他人の話を聞くのが好きだが、それらの話は「僕」の中に「おり」として溜まっていく。「おり」とはつまり「我々はどこにも行けない」という無力感であり、我々は我々の人生というメリー・ゴーラウンドのようなシステムの上で仮想の敵に向けて熾烈なデッド・ヒートを繰り広げているように見える。
この「僕」が村上自身であるのか、「僕」という人格を持った主人公なのか、小説という形で〈スケッチ〉が語られる以上わからないところが面白い。この章では文章表現により精神が解放されるという命題に対し明確に否定されている。
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