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加藤隆介
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2年 加藤隆介
1.人形たちの白昼夢 コットンパール
小説 2017年 著者:千早茜
あらすじ
嘘がつけない男が出会った、嘘ばかりつく女。彼女は、男の持つ人形が見てきたという夢の話を次々に語り始め──。残酷な美しさに彩られた、幻想的な12篇のショートストーリー。
1作目。コットンパール(Cotton pearl)。
考察
今作は十二篇にわたる短編集の一作目である。それにあたってこの作品では、これから先のお話を読む心構えを教えてくれていると考える。
今作には嘘をつけない男と嘘ばかりつく女がいる。女は一晩中作り話をするが、男はそれが嘘であることを気にしない。それが嘘でもその嘘には女の考えや記憶が宿っている。これは小説と同じだと考えた。嘘でできているが、作者の過去やメッセージはある。嘘は女にとっての小説で人形が男にとっての小説だと感じた。それは自分の身を守りながら他者と繋がるための手段である。
2.人形たちの白昼夢 モノクローム
小説 2017年 著者:千早茜
あらすじ
同上。
6作目。モノクローム(Monochrome)。
考察
今作からは言葉を使うことの大切さが感じられる。
囚人であり永遠に決められたことを繰り返していた罪人たちは全員同じ存在だった。主人公のようにそれぞれ考えていることはあったかもしれないが、それを言葉や文字にすることはない。心の中は違っても同じ存在として働いていた。しかし、男が文字を教えるようになってから違いが表面化した。一度変わりだした罪人たちは言葉を通じて更に変わっていく。自分はこう思う、あいつとは違うといった言葉を使い違いを確認する。
言葉や文字を使って表さないと、何を考えていても同じものとして扱われてしまう。その怖さとそれに対抗するための言葉の大切さが伝わる作品である。
3.人形たちの白昼夢 マンダリン
小説 2017年 著者:千早茜
あらすじ
同上。
9作目。マンダリン(Mandarin)。
考察
この作品を読むと世間から変だと思われている人の孤独さが想像できる。
主人公は物を壊すことや死んだ人に対して綺麗だと感じる。人と違う感覚を持った主人公は孤独で、同じく孤独な人の小説を書いている。きっと主人公にとっての芽衣は皇帝にとっての小鳥と同じなのだろう。芽衣はそのうち自分と離れてしまう。しかし、芽衣のことを殺したら一緒にいれるかわりに二度と話せなくなる。主人公の感覚が理解できない読者からするととても恐ろしいことのように感じるが、自分が到底理解できない感覚だからこそ彼の孤独さを想像できる。
4.人形たちの白昼夢 モンデンキント
小説 2017年 著者:千早茜
あらすじ
同上。
11作目。モンデンキント(Moon child)。
考察
今作は自分の好きなものを信じることを肯定してくれる作品である。
二人が塾と部活をサボって一緒に帰る場面がある。ここで翠は「なんでこんなことになるのかな」という台詞で、教室での生活に不満を漏らしている。たしかに、翠とりっちゃんが二人でいることを良しとせずからかってくる教室は居心地の悪い世界であろう。しかし、りっちゃんは自分にとって綺麗な音楽と翠を信じて生きている。翠は本とりっちゃんを信じきれずに教室での喧騒をまともに受け止めてしまう。
どんなに情報や雑念が多いときでも一番に信じられる軸を作ること、それ以外のことに惑わされないこと。後悔しないように生きていくには大事なことだと感じた。
5.放課後
小説 1985年 著者:東野圭吾
あらすじ
校内の更衣室で生徒指導の教師が青酸中毒で死んでいた。先生を2人だけの旅行に誘う問題児、頭脳明晰の美少女・剣道部の主将、先生をナンパするアーチェリー部の主将――犯人候補は続々登場する。そして、運動会の仮装行列で第2の殺人が……。乱歩賞受賞の青春推理。
考察
本作は著者のデビュー作ということもあり、いかにもミステリーらしい展開になっている。当然、立て続けに起こる事件パートとそれらが繋がる推理パートは本作の面白さを担っている。
しかし、この作品独特の魅力は女子高という舞台設定にあると考える。本文では、大人の事件の動機を「色と欲と金」、女子高生の事件の動機を「美しいもの、純粋なもの、嘘のないもの」と表現している。その具体例として友情、恋愛、肉体、顔、思い出、夢を挙げている。彼女たちとは歳も性別も違う警察には「なぜこんなことで」と感じるような憎しみ、共鳴が女子高生たちの間に渦巻いている。このことが事件を複雑化させてミステリー的な魅力を高めるのと同時に、女子高生の繋がり意識や脆さ、透明感を与えて個性的な作品になっていると考える。
6.きみの色
映画 2024年 監督:山田尚子
脚本:吉田玲子
あらすじ
人のことが色で見えるトツ子は、学校で見かけた美しい色を放つ少女と、古書店で出会った少年とひょんなことからバンドを組むことになる。それぞれ人に言えない悩みを抱える3人は、音楽を通して心を通わせていく。
考察
話としての面白さよりも、主人公たちの心情を自分に当てはめて前向きになれることがこの作品の魅力だと考える。
本作は物語の展開がシンプルなだけに、テーマが複数回にわたって強調されている。「ニーバーの祈り」は作中何度も唱えられ、主人公たち三人がそれぞれテーマに沿った行動をする。三人の悩みは極端にされているが、学生が抱えやすい悩みであり共感しやすい。
自分から動き出す、秘密をうちあけるという点は若い年代に響きそうなテーマだが、「ニーバーの祈り」は過去を沢山積んで年を取った大人たちにこそ響くものじゃないかと感じた。
7.きみの色
小説 2024年 著者:佐野晶
あらすじ
同上
原作である映画を元にノベライズされたもの。
考察
映画のような映像表現ができない分、小説特有の一人称視点による心情描写が多く、映画で理解できなかったことが深まる。
映画だとルイときみに比べてトツ子の悩みがあまり深刻に感じられなかった。対して、小説では「色」が他人に伝わらないことの辛さ、バレエへの苦い思い出がトツ子の心情として語られている。これによってトツ子にとっての聖書の言葉の重さや、ルイときみに「色」を話して二人の前でバレエをすることの意味が強く感じられた。
また、同じ場面を別の人物の視点で再度語ることによって各人物ごとの考えの違いなども分かる。
8.島はぼくらと
小説 2013年 著者:辻村深月
あらすじ
瀬戸内海に浮かぶ島、冴島。朱里、衣花、源樹、新の四人は島の唯一の同級生。フェリーで本土の高校に通う彼らは卒業と同時に島を出る。ある日、四人は冴島に「幻の脚本」を探しにきたという見知らぬ青年に声をかけられる。淡い恋と友情、大人たちの覚悟。旅立ちの日はもうすぐ。別れるときは笑顔でいよう。
考察
この作品の魅力は青年たちが自分の力で悩みを解決することだと考える。
源樹が島の外から来た人間であることは変えようがなく、周りの大人に特殊な家の子供と扱われるのも変えられない。そんな源樹を受け入れるために、幼かった朱里は源樹に「兄弟」になろうと言った。「兄弟」は男同士がなるものなのにも関わらず。衣花が綱元の家の子供で、島から出られないことも変えられない。衣花はそれでも朱里と繋がっていたくて、朱里に「兄弟」になりたいと言った。実際に衣花は村長として島に残りながら、島のルールを変えて朱里と「兄弟」になる。島を守るために制限が多い環境だからこそ、自分たちの力で助け合う四人に勇気をもらえる作品である。
9.天空の蜂
小説 1995年 著者:東野圭吾
あらすじ
奪取された超大型特殊ヘリコプターには爆薬が満載されていた。無人操縦でホバリングしているのは、稼働中の原子力発電所の真上。日本国民すべてを人質にしたテロリストの脅迫に対し、政府が下した非情の決断とは。そしてヘリの燃料が尽きるとき……。驚愕のクライシス、圧倒的な緊追感で魅了する傑作サスペンス。
考察
作品として魅力を上げるなら一番にメッセージ性をあげたい。しかし、人に読ませるという点で緊張感こそがこの小説の魅力だと感じた。
今作は文庫にして622ページという厚さながら、作品世界での時間経過は一日に満たない。序盤は事件に関係する各所で話し合いが行われるので、むしろ重大事件の割にゆったりしているといった印象を受けるかもしれない。だが、時間が迫っていくにつれて全ての視点で緊張が高まっていく。警察、航空会社、消防、ヘリコプター技師、犯人の恋人。そんな中で犯人だけは驚くほど冷静である。これから原爆を攻撃するなんて嘘のように犯行を進める。それが正しい行為だと信じている。だからこそ彼のメッセージ性が強調される。
きっと犯人は他の人物のように慌てふためく時期をとうに超えている。全て他人事だと思っている群衆にどうにか忘れさせないために事件を起こした。最後のセリフを読んてしまうとどうしても「犯行が成功していれば」と思ってしまう。
10.時ひらく
小説 2024年 著者:辻村深月
著者:伊坂幸太郎
著者:阿川佐和子
著者:恩田陸
著者:柚木麻子
著者:東野圭吾
あらすじ
350年の時を刻む老舗デパート『三越』
楽しいときも、悲しいときも
いつでも、むかえてくれる場所
物語の名手たちが奏でる6つのデパートアンソロジー
文庫オリジナル!
制服の採寸に訪れて感じたある予感。ライオンに跨る必勝祈願の言い伝えを試して見えたもの。老いた継母の買い物に付き合ってはぐれてしまった娘。命を宿した物たちが始めた会話。友達とプレゼントを買いに訪れて繋がった時間。亡くなった男が最後に買った土産。歴史あるデパートを舞台に、人気作家6人が紡ぐ心揺さぶる物語。
考察
実際に存在するデパート三越日本橋店をテーマに著名作家六人が短編を寄せている。どれも個性的な作品だが、三越日本橋店というテーマの特殊性を一番活かしているのは柚木麻子の『七階から愛をこめて』だと考える。
三越のシンボルであるライオン像にまつわる逸話を採用した作品は他にもある。しかし、その逸話と三越の長い歴史を掛け合わせ過去と現在を繋いだ発想は独創的だった。国内でも国際的にも問題の多い世界だが、これでも少しずつ変わってきている。これからも変えていこうと前向きになれる作品である。
11.氷菓
小説 2001年 著者:米澤穂信
あらすじ
省エネを信条とする高校一年生、折木奉太郎は、ひょんなことから廃部寸前のクラブ「古典部」に入部することに。 「古典部」で出会った好奇心旺盛なヒロイン、千反田える、中学からの腐れ縁、伊原摩耶花と福部里志。 彼ら4人が神山高校を舞台に、数々の事件を推理していく青春学園ミステリ。
考察
一般的に考えて、この作品で面白いところは登場人物の小気味よい会話と日常ミステリーだろう。しかし、個人的には角川文庫版p180からの独白が印象的だった。
この独白で奉太郎は自分のスタイルと合わない熱狂的な生き方に価値を見出す。十年後に過去を思い返して後悔しないように。だが、その後の推理で熱狂的なスタイルのせいで過去に事件があったことを知る。
奉太郎は省エネな人間から熱を持った人間に変化する機会があった。物語としてはそうなった方が綺麗である。しかし、事件の真相を知った結果奉太郎は今のスタイルも悪くないと感じる。主人公が変化しかけたのに、それを止めたまま終わらせる。これによってとても続きが気になる終わりになっていると感じた。
12.儚い羊たちの祝宴
小説 2011年 著者:米澤穂信
あらすじ
夢想家のお嬢様たちが集う読書サークル「バベルの会」。夏合宿の二日前、会員の丹山吹子の屋敷で惨劇が起こる。翌年も翌々年も同日に吹子の近親者が殺害され、四年目にはさらに凄惨な事件が。優雅な「バベルの会」をめぐる邪悪な五つの事件。甘美なまでの語り口が、ともすれば暗い微笑を誘い、最後に明かされる残酷なまでの真実が、脳髄を冷たく痺れさせる。米澤流暗黒ミステリの真骨頂。
考察
本作品一番の面白さは、やはりミステリーらしいどんでん返しだろう。だが、そこには他の作品にはない不気味さがある。
普通であれば、展開が進むごとにゆっくり証拠が集められ、最後に驚きのトリックと犯人が明かされる。対してこの作品では、物語中盤から登場人物の怪しい動きや犯行過程が暗示されていく。読者は誰が何をしようとしているのか次第に察しながら、それを見守ることしかできない。夜中に一人で怖い話を読むようにただ不気味なページを捲っていく。結末も明確に描かれないまま終わってしまう。
それでいて全部が全部バッドエンドというわけでもない。残酷でありながら主人公の願いが叶う作品として『玉野五十鈴の誉れ』はぜひ読んでほしい。
13.ぼくのメジャースプーン
小説 2006年 著者:辻村深月
あらすじ
ぼくらを襲った事件はテレビのニュースよりもっとずっとどうしようもなくひどかった――。ある日、学校で起きた陰惨な事件。ぼくの幼なじみ、ふみちゃんはショックのあまり心を閉ざし、言葉を失った。彼女のため、犯人に対してぼくだけにできることがある。チャンスは本当に1度だけ。これはぼくの闘いだ。
考察
私がこの作品を読んで受けたメッセージは「分かり合えない人と無理に関わる必要はない」ということである。
一見ひどく消極的で閉鎖的な考えに見える。しかし今作を読んだあとにはとても前向きな選択だと思える。たしかに「分かり合う」というのは時間がかかるものだが、話すたびに離れていくような相手と関わり続けるのは前向きに見えて何も変化しない。分かり合えない人と正面から戦うのではなく、距離をとってそれぞれのやり方で行きていくしかない。
状況を好転させるには目の前ことを諦めるのも方法の一つだと感じた。
動物虐待にあたる描写があるので注意。
14.スロウハイツの神様 上 下
小説 2007年 著者:辻村深月
あらすじ
人気作家チヨダ・コーキの小説で人が死んだーー
あの事件から10年。
アパート「スロウハイツ」ではオーナーである脚本家の赤羽環とコーキ、そして友人たちが共同生活を送っていた。
夢を語り、物語を作る。
好きなことに没頭し、刺激し合っていた6人。
空室だった201号室に、新たな住人がやってくるまでは。
考察
沢山の魅力がある作品だが、最終章が面白すぎて全部飛んでしまった。
私は絵や小説など一つのことをずっと続けて何かを完成させたことがない。そういう努力をしたことがある人間なら共感できることが多くて更に楽しめるかもしれない。幼い頃に持った憧れを信じ続けることの大切さを教えてくれ、努力を後押ししてくれる作品だと考える。
仮にそのような努力をしたことがなくても、つまり作品を享受している側でも出来ることがある。最終章ではそう感じさせる納得感がある。
15.嘘をもうひとつだけ
小説 2000年 著者:東野圭吾
あらすじ
「嘘をもうひとつだけ」「冷たい灼熱」「第2の希望」「狂った計算」「友の助言」の5編からなる短編集。
考察
あらすじにある通り、この作品の面白さは人間の悲哀である。大切なものを守るためにそれが犯罪と分かっていながら嘘をつく。ミステリーはそれを描く手段だと考えられる。
本作はミステリーの短編集でありながら、全て犯人の視点で語られる。とはいえ最初から視点主が犯人だとは分からず、段階的に察せられる。最後に探偵役の加賀によって全てが明らかにされることで、視点主は犯行を認める。このような作りによって犯人が守ろうとするものの大切さ、守るための稚拙ながら懸命な犯行が犯人の心情とともに伝わってくる。これは普通のミステリーのように探偵役が淡々と真相を述べるだけでは生まれない面白さだろう。
人間の悲哀というテーマを自分の得意なミステリーという形式で表現するために、視点を犯人に設定するという工夫が面白さを生んでいると考えられる。
16.春季限定いちごタルト事件
小説 2004年 著者:米澤穂信
あらすじ
小鳩君と小佐内さんは、恋愛関係にも依存関係にもないが互恵関係にある高校1年生。きょうも2人は手に手を取って清く慎ましい小市民を目指す。それなのに、2人の前には頻繁に謎が現れる。名探偵面などして目立ちたくないのに、なぜか謎を解く必要に駆られてしまう小鳩君は、果たしてあの小市民の星をつかみとることができるのか? 新鋭が放つライトな探偵物語、文庫書き下ろし。
考察
この作品の魅力は主人公たちの過去・本性を探ることだろう。コメディタッチな学園ものと日常ミステリーは当然人気だが、それは作品の特徴よりも作者の特徴と言える。
物語で大切なのは心理的な変化・成長だと言われる。小市民シリーズとしても主人公たちの変化は大きな魅力である。しかし、シリーズ初作品である今作は主要人物の深掘りが中心となる。「小市民」とはなにか、なぜそれを目指すのか、二人の約束とはなにか。日常ミステリーを展開しながらこれらの謎を明らかにしていくことで、ただのミステリーに物語が生まれる。今シリーズの基礎となる作品だと考えられる。
17.夏季限定トロピカルパフェ事件
小説 2006年 著者:米澤穂信
あらすじ
小市民たるもの、日々を平穏に過ごす生活態度を獲得せんと希求し、それを妨げる事々に対しては断固として回避の立場を取るべし。賢しらに名探偵を気取るなどもってのほか。諦念と儀礼的無関心を心の中で育んで、そしていつか掴むんだ、あの小市民の星を! そんな高校2年生・小鳩君の、この夏の運命を左右するのは〈小佐内スイーツセレクション・夏〉!? 待望のシリーズ第2弾。
考察
この作品の魅力はやはり衝撃的なラストである。衝撃的とはいっても犯罪が起きるわけではなく、二人はつとめて冷静である。
小鳩君にとって最大の謎は小山内さんのいつもと違う言動だった。わけもなくスイーツめぐりに連れていき、ルール違反である謎解きを扇動する。その謎を暴き小山内さんのルール違反を指摘するが、謎を暴くこと自体が小鳩君のルールに反しており矛盾をかかえてしまう。
今作では主人公たちに大きな転機が訪れる。それは誘拐という一大事ではなく二人の関係解消である。このことからもシリーズ通しての魅力がミステリーより主人公たちの変化・成長であることがうかがえる。それは青春小説らしさとも言えるだろう。
18.秋季限定栗きんとん事件 上
小説 2009年 著者:米澤穂信
あらすじ
あの日の放課後、手紙で呼び出されて以降、ぼくの幸せな高校生活は始まった。学校中を二人で巡った文化祭。夜風がちょっと寒かったクリスマス。お正月には揃って初詣。ぼくに「小さな誤解でやきもち焼いて口げんか」みたいな日が来るとは、実際、まるで思っていなかったのだ。――それなのに、小鳩君は機会があれば彼女そっちのけで謎解きを繰り広げてしまい……シリーズ第3弾。
考察
今作の魅力は小鳩君と小山内さんの変化である。
前作で関係解消していた二人はそれぞれに小市民の道を歩きだしている。その第一歩として、当然告白を断ることはない。小鳩君は恋人と過ごすことで小市民的な生活を送っていた。しかし、解きたがりな性格が変わることはなく彼女とのすれちがいが生まれる。あれだけ小市民を目指していたが、いざ現実になるとやっぱり謎を解いてしまう。今作では事なきを得たが、コンボの件で小鳩君が現状に限界を感じていることが分かる。
19.秋季限定栗きんとん事件 下
小説 2009年 著者:米澤穂信
あらすじ
ぼくは思わず苦笑する。去年の夏休みに別れたというのに、何だかまた、小佐内さんと向き合っているような気がする。ぼくと小佐内さんの間にあるのが、極上の甘いものをのせた皿か、連続放火事件かという違いはあるけれど……ほんの少しずつ、しかし確実にエスカレートしてゆく連続放火事件に対し、ついに小鳩君は本格的に推理を巡らし始める。小鳩君と小佐内さんの再会はいつ?
考察
上巻に続いて今作の魅力も小鳩君と小山内さんの変化と言える。
上巻で感じていた通り小鳩君は彼女と別れることになる。その時の心象は「賽の河原で石を積む夢」として表現されている。民間信仰と異なるのは、石を崩すのが鬼ではなく自分という点である。これは、小市民になるべく嘘を重ねておきながら結局推理してしまうことへの自省だと考えられる。
自分の性質を無理に変えようとせずに、受け入れてくれる人と共にいるべきというメッセージが感じ取れる。
20.巴里マカロンの謎
小説 2020年 著者:米澤穂信
あらすじ
11年ぶり、シリーズ最新刊!創元推理文庫オリジナル
そしていつか掴むんだ、あの小市民の星を。
謎に遭遇しがちな小佐内さんと、結局は謎解きに乗り出す小鳩君。
手に手を取って小市民を目指すふたりの高校生が帰ってきました!
考察
今作の魅力は純粋な日常ミステリーだと言える。
主人公の変化・成長が無い理由は、今作が四つの短編からなる番外編だからである。これが番外編であることは時系列が『春季限定いちごタルト事件』と『夏季限定トロピカルパフェ事件』の間に遡っていることから分かる。しかし、本文でそのような注釈が一切なく、作中での時間も九月半ばとなっているため最初は『秋季限定栗きんとん事件』の続きだと思ってしまう。これを単なる説明不足としては面白くない。本文から時系列を推測できる要素を読み取り、納得していくのが本シリーズの読み方だろう。
21.冬季限定ボンボンショコラ事件
小説 2024年 著者:米澤穂信
あらすじ
小市民を志す小鳩君はある日轢き逃げに遭い、病院に搬送された。目を覚ました彼は、朦朧としながら自分が右足の骨を折っていることを聞かされる。翌日、手術後に警察の聴取を受け、昏々と眠る小鳩君の枕元には、同じく小市民を志す小佐内さんからの「犯人をゆるさない」というメッセージが残されていた。小佐内さんは、どうやら犯人捜しをしているらしい……。冬の巻ついに刊行。
考察
今作の魅力はやはり主人公たちの変化である。
これまで暈されていた、二人が小市民を目指すきっかけとなった事件がついに明らかになる。小鳩君は三年ぶりに過去に向き合うことになった。考えてみれば、主人公の変化・成長を書くためには過去の話も重要となる。それを単なる回想ではなく現在の事件と繋げるところはミステリーを活かした面白さがある。
これまで小鳩君は過去の失敗に囚われ、ネガティブな意味で小市民を目指していた。しかし、過去に区切りをつけて小山内さんとの関係も変わってきた今、前向きな目標に変わるだろう。
22.推し、燃ゆ
小説 2020年 著者:宇佐見りん
あらすじ
逃避でも依存でもない、推しは私の背骨だ。アイドル上野真幸を”解釈”することに心血を注ぐあかり。ある日突然、推しが炎上し――。デビュー作『かか』が第33回三島賞受賞。21歳、圧巻の第二作。
考察
本文で明言されてはいないが、主人公の描写にはADHDや境界知能へのイメージが浮かんだ。メモしているのに、借りたものを返すことも宿題も忘れる。一、二、三と一画ずつ増えてくのに、四から崩れるのが理解できず覚えられない。バイトでは情報量の多さに圧倒され、床にはものが散らかっている。自分はここまで酷くない、と思いながら共感できるところも多かった。主人公には煩わしいことが多い。切っても切っても伸びてくる爪と毛。自分の思いどおりにしたがる母と姉。偏らない平等な人間関係。そういった煩わしいものに対する不満や反発が、自分が面倒くさいと思ってきたことにも繋がると感じた。多数派の常識をあたかも正解のように押し付けられるのが嫌になりながら、みんなと同じように何かに熱中しないといけないという焦燥が推し活に行き着いたのではないかと考える。
23.月は無慈悲な夜の女王
小説 1966年 著者:ロバート・A・ハインライン
翻訳:矢野徹
あらすじ
2076年7月4日、圧政に苦しむ月世界植民地は、地球政府に対し独立を宣言した! 流刑地として、また資源豊かな植民地として、月は地球から一方的に搾取され続けてきた。革命の先頭に立ったのはコンピュータ技術者マニーと、自意識を持つ巨大コンピュータのマイク。だが、一隻の宇宙船も、一発のミサイルも持たぬ月世界人が、強大な地球に立ち向かうためには……ヒューゴー賞受賞に輝くハインライン渾身の傑作SF巨篇。
考察
私がこの物語から感じたのは、植民地戦争や人種差別などの地球上で起きる諸問題が宇宙規模に拡大されていることであった。わざわざ宇宙規模になっているところには人間の性質の不変さを読み取れる。結局小さな国でも広大な宇宙でも人間がやることは変わらない。
また、月で起きた革命の首謀者はたった三人であり、劇的な速度で進められた。そんな革命での意思統一の難しさや分裂など多くの問題が描かれている。
24.アンドロイドは電気羊の夢を見るか?
小説 1968年 著者:フィリップ・K・ディック
翻訳:浅倉久志
あらすじ
第三次大戦後、放射能灰に汚された地球では生きた動物を持っているかどうかが地位の象徴になっていた。人工の電気羊しかもっていないリックは、本物の動物を手に入れるため、火星から逃亡してきた〈奴隷〉アンドロイド8人の首にかけられた莫大な懸賞金を狙って、決死の狩りをはじめた! 現代SFの旗手ディックが、斬新な着想と華麗な筆致をもちいて描きあげためくるめく白昼夢の世界!
リドリー・スコット監督の名作映画『ブレードランナー』原作。
考察
この本は他人の心を考えすぎることを止めてくれると感じた。
今作は海外のSFを読み慣れていない私にとってとても複雑で難解だった。
登場人物が非常に多く、人間もアンドロイドも出てくる上にアンドロイドは自分のことを人間だと思っている。結果的に誰が人間で誰がアンドロイドだったのか全く思い出せなくなっている。しかし、そんな状況こそ今作の世界に入り込めていると言っていいのかもしれない。
誰が人間で誰がアンドロイドか全く分からないような世界なら、むしろ何も疑う必要がないと考えられる。本音や建前に疲れがちな現代に刺さる作品かもしれない。
25.華氏451度
小説 1953年 著者:レイ・ブラッドベリ
翻訳:伊藤典夫
あらすじ
華氏451度──この温度で書物の紙は引火し、そして燃える。451と刻印されたヘルメットをかぶり、昇火器の炎で隠匿されていた書物を焼き尽くす男たち。モンターグも自らの仕事に誇りを持つ、そうした昇火士(ファイアマン)のひとりだった。だがある晩、風変わりな少女とであってから、彼の人生は劇的に変わってゆく……
考察
今作は平民が上層に対抗するための本だと考える。
一つの国があったときに、国のトップは知っているのに平民は知らないことというのは沢山ある。トップはその地位を維持するために構造を複雑化させる。平民が理解できないように。同時に平民の理解力を衰退させれば都合が良い。平民の記憶、好奇心がなくなってしまえばトップはずっとトップでいられる。平民にそのことを忘れさせないため、知識と好奇心を忘れないための本が今作だと考えた。現実にファイアマンがいたら真っ先に燃やされそうな本であるが、すでに暗記している人が沢山いるだろう。
26.夜の床屋
小説 2014年 著者:沢村浩輔
あらすじ
慣れない山道に迷い、無人駅での一泊を余儀なくされた大学生の佐倉と高瀬。だが深夜、高瀬は一軒の理髪店に明かりがともっていることに気がつく。好奇心に駆られた高瀬が、佐倉の制止も聞かず店の扉を開けると……。第4回ミステリーズ!新人賞受賞作「夜の床屋」をはじめ、奇妙な事件に思いがけない結末が待ち受ける、全7編を収録。新鋭による不可思議でチャーミングな連作ミステリ。
考察
この作品の魅力はとことんまでミステリーというところである。
一般にミステリー小説というとまず一見解決不可能な事件がある。それを名探偵が論理的に解明するというものである。しかし、実際ミステリーというのは謎である。謎というのは解決しないから謎といえる。今作でも、主人公は謎に近づいて解き明かそうとする。謎は少しずつ解決してきたと思いきや新たな謎を残していく。不思議な法則や関連を残して近づくたびに離れていく。
謎本来の好奇心を掻き立てる神秘性が存分に出ているのが今作の魅力だろう。
27.変身
小説 1991年 著者:東野圭吾
あらすじ
平凡な青年・成瀬純一をある日突然、不慮の事故が襲った。そして彼の頭に世界初の脳移植手術が行われた。それまで画家を夢見て、優しい恋人を愛していた純一は、手術後徐々に性格が変わっていくのを、自分ではどうしょうもない。自己崩壊の恐怖に駆られた純一は自分に移植された悩の持主(ドナー)の正体を突き止める。
考察
人間の死生観や意識について考えざるを得ない作品である。
今作のように実際に誰かの脳が自分の中で生きることはなくとも、人に大きな影響を受けることは多々ある。東野圭吾が今ここにいないとしても、私がこの本を読み死生観について考えるときに東野圭吾がいないというのは直感的に否定したくなる。
同時に、他人の意識に影響を与えることが重大なことだという感覚も生まれてきた。言葉や文章が人に与える影響を軽視するとひどい目にあう。パワハラやSNSでの中傷を見ていてもそう感じる。
28.ツナグ
小説 2012年 著者:辻村深月
あらすじ
死者は、残された生者のためにいるのだ。
一度だけ、逝った人との再会を叶えてくれるとしたら、何を伝えますか――。死者と生者の邂逅がもたらす奇跡。心に染み入る感動の連作長編小説。
考察
今作の魅力は歩美の変化であるが、その変化をそのまま読者も味わえるのが面白いと感じた。
結局消えてしまう死者の側からしたら亡くなったあとに会うなんて無意味かもしれないが、生者からすればそれでもなんとか行きていくしかない。大事なのは進むことである。
この魅力を生んでいるのは何よりも構成である。最後に歩美の視点を持ってくる発想は自分が何かを作るときにも活かせそうだと感じた。
29.猫町
小説 1935年 著者:萩原朔太郎
あらすじ
東京から北越の温泉に出かけた「私」は,ふとしたことから,「繁華な美しい町」に足を踏みいれる.すると,そこに突如人間の姿をした猫の大集団が…….
考察
普段見ているものを別の視点から見てみることの面白さが感じられる作品である。
主人公は道に迷ううちに、いつも歩いているU町に反対の入口から入ってきた。そのせいで自分がU町にいるのを認識できないばかりか、そこがとても風情のある美しい町だと感じる。だが、だんだんとその町全体が非常に繊細で今にも崩れそうだと感じる。これは最初に錯覚した美しい町と、心の中で無意識に浮かんでくるU町との乖離が進むことによる違和感だと考えた。そして何かのきっかけ──今作の場合は黒いネズミをきっかけにここがU町だと気づく。
気付いたあとにはガッカリするかもしれないが、普段見るものを別の視点から見ることは手軽に新しい発見ができる行為だと知れた。
30.まほろ駅前多田便利軒
小説 2006年 著者:三浦しをん
あらすじ
まほろ市は東京のはずれに位置する都南西部最大の町。駅前で便利屋を営む多田啓介のもとに高校時代の同級生・行天春彦が転がり込み、二人は様々な依頼に精を出す。ペット預かりに塾の送迎、納屋の整理……ありふれた依頼のはずが、このコンビにかかると何故かきな臭い状況に。
考察
この作品で魅力的なのは主人公の悪意だと考えた。
最初は行天が変人で多田がまともという認識で読んでいた。実際多田はまともな人間だろう。だからこそ多田が悪意を自白するとき妙にリアリティがあった。まともな人間が主人公であるということはそれなりの悪意もあるものだと。しかも多田の悪意は結果が惨事だったとしてもやったことは大したことではなかった。それを結果の悲惨さに怯み、一生引きずっているのがいかにもまともな人間らしい。
最後には昔悪意の矛先であった行天に影響されて変わりだすのが綺麗な終わり方だと感じた。
1.人形たちの白昼夢 コットンパール
小説 2017年 著者:千早茜
あらすじ
嘘がつけない男が出会った、嘘ばかりつく女。彼女は、男の持つ人形が見てきたという夢の話を次々に語り始め──。残酷な美しさに彩られた、幻想的な12篇のショートストーリー。
1作目。コットンパール(Cotton pearl)。
考察
今作は十二篇にわたる短編集の一作目である。それにあたってこの作品では、これから先のお話を読む心構えを教えてくれていると考える。
今作には嘘をつけない男と嘘ばかりつく女がいる。女は一晩中作り話をするが、男はそれが嘘であることを気にしない。それが嘘でもその嘘には女の考えや記憶が宿っている。これは小説と同じだと考えた。嘘でできているが、作者の過去やメッセージはある。嘘は女にとっての小説で人形が男にとっての小説だと感じた。それは自分の身を守りながら他者と繋がるための手段である。
2.人形たちの白昼夢 モノクローム
小説 2017年 著者:千早茜
あらすじ
同上。
6作目。モノクローム(Monochrome)。
考察
今作からは言葉を使うことの大切さが感じられる。
囚人であり永遠に決められたことを繰り返していた罪人たちは全員同じ存在だった。主人公のようにそれぞれ考えていることはあったかもしれないが、それを言葉や文字にすることはない。心の中は違っても同じ存在として働いていた。しかし、男が文字を教えるようになってから違いが表面化した。一度変わりだした罪人たちは言葉を通じて更に変わっていく。自分はこう思う、あいつとは違うといった言葉を使い違いを確認する。
言葉や文字を使って表さないと、何を考えていても同じものとして扱われてしまう。その怖さとそれに対抗するための言葉の大切さが伝わる作品である。
3.人形たちの白昼夢 マンダリン
小説 2017年 著者:千早茜
あらすじ
同上。
9作目。マンダリン(Mandarin)。
考察
この作品を読むと世間から変だと思われている人の孤独さが想像できる。
主人公は物を壊すことや死んだ人に対して綺麗だと感じる。人と違う感覚を持った主人公は孤独で、同じく孤独な人の小説を書いている。きっと主人公にとっての芽衣は皇帝にとっての小鳥と同じなのだろう。芽衣はそのうち自分と離れてしまう。しかし、芽衣のことを殺したら一緒にいれるかわりに二度と話せなくなる。主人公の感覚が理解できない読者からするととても恐ろしいことのように感じるが、自分が到底理解できない感覚だからこそ彼の孤独さを想像できる。
4.人形たちの白昼夢 モンデンキント
小説 2017年 著者:千早茜
あらすじ
同上。
11作目。モンデンキント(Moon child)。
考察
今作は自分の好きなものを信じることを肯定してくれる作品である。
二人が塾と部活をサボって一緒に帰る場面がある。ここで翠は「なんでこんなことになるのかな」という台詞で、教室での生活に不満を漏らしている。たしかに、翠とりっちゃんが二人でいることを良しとせずからかってくる教室は居心地の悪い世界であろう。しかし、りっちゃんは自分にとって綺麗な音楽と翠を信じて生きている。翠は本とりっちゃんを信じきれずに教室での喧騒をまともに受け止めてしまう。
どんなに情報や雑念が多いときでも一番に信じられる軸を作ること、それ以外のことに惑わされないこと。後悔しないように生きていくには大事なことだと感じた。
5.放課後
小説 1985年 著者:東野圭吾
あらすじ
校内の更衣室で生徒指導の教師が青酸中毒で死んでいた。先生を2人だけの旅行に誘う問題児、頭脳明晰の美少女・剣道部の主将、先生をナンパするアーチェリー部の主将――犯人候補は続々登場する。そして、運動会の仮装行列で第2の殺人が……。乱歩賞受賞の青春推理。
考察
本作は著者のデビュー作ということもあり、いかにもミステリーらしい展開になっている。当然、立て続けに起こる事件パートとそれらが繋がる推理パートは本作の面白さを担っている。
しかし、この作品独特の魅力は女子高という舞台設定にあると考える。本文では、大人の事件の動機を「色と欲と金」、女子高生の事件の動機を「美しいもの、純粋なもの、嘘のないもの」と表現している。その具体例として友情、恋愛、肉体、顔、思い出、夢を挙げている。彼女たちとは歳も性別も違う警察には「なぜこんなことで」と感じるような憎しみ、共鳴が女子高生たちの間に渦巻いている。このことが事件を複雑化させてミステリー的な魅力を高めるのと同時に、女子高生の繋がり意識や脆さ、透明感を与えて個性的な作品になっていると考える。
6.きみの色
映画 2024年 監督:山田尚子
脚本:吉田玲子
あらすじ
人のことが色で見えるトツ子は、学校で見かけた美しい色を放つ少女と、古書店で出会った少年とひょんなことからバンドを組むことになる。それぞれ人に言えない悩みを抱える3人は、音楽を通して心を通わせていく。
考察
話としての面白さよりも、主人公たちの心情を自分に当てはめて前向きになれることがこの作品の魅力だと考える。
本作は物語の展開がシンプルなだけに、テーマが複数回にわたって強調されている。「ニーバーの祈り」は作中何度も唱えられ、主人公たち三人がそれぞれテーマに沿った行動をする。三人の悩みは極端にされているが、学生が抱えやすい悩みであり共感しやすい。
自分から動き出す、秘密をうちあけるという点は若い年代に響きそうなテーマだが、「ニーバーの祈り」は過去を沢山積んで年を取った大人たちにこそ響くものじゃないかと感じた。
7.きみの色
小説 2024年 著者:佐野晶
あらすじ
同上
原作である映画を元にノベライズされたもの。
考察
映画のような映像表現ができない分、小説特有の一人称視点による心情描写が多く、映画で理解できなかったことが深まる。
映画だとルイときみに比べてトツ子の悩みがあまり深刻に感じられなかった。対して、小説では「色」が他人に伝わらないことの辛さ、バレエへの苦い思い出がトツ子の心情として語られている。これによってトツ子にとっての聖書の言葉の重さや、ルイときみに「色」を話して二人の前でバレエをすることの意味が強く感じられた。
また、同じ場面を別の人物の視点で再度語ることによって各人物ごとの考えの違いなども分かる。
8.島はぼくらと
小説 2013年 著者:辻村深月
あらすじ
瀬戸内海に浮かぶ島、冴島。朱里、衣花、源樹、新の四人は島の唯一の同級生。フェリーで本土の高校に通う彼らは卒業と同時に島を出る。ある日、四人は冴島に「幻の脚本」を探しにきたという見知らぬ青年に声をかけられる。淡い恋と友情、大人たちの覚悟。旅立ちの日はもうすぐ。別れるときは笑顔でいよう。
考察
この作品の魅力は青年たちが自分の力で悩みを解決することだと考える。
源樹が島の外から来た人間であることは変えようがなく、周りの大人に特殊な家の子供と扱われるのも変えられない。そんな源樹を受け入れるために、幼かった朱里は源樹に「兄弟」になろうと言った。「兄弟」は男同士がなるものなのにも関わらず。衣花が綱元の家の子供で、島から出られないことも変えられない。衣花はそれでも朱里と繋がっていたくて、朱里に「兄弟」になりたいと言った。実際に衣花は村長として島に残りながら、島のルールを変えて朱里と「兄弟」になる。島を守るために制限が多い環境だからこそ、自分たちの力で助け合う四人に勇気をもらえる作品である。
9.天空の蜂
小説 1995年 著者:東野圭吾
あらすじ
奪取された超大型特殊ヘリコプターには爆薬が満載されていた。無人操縦でホバリングしているのは、稼働中の原子力発電所の真上。日本国民すべてを人質にしたテロリストの脅迫に対し、政府が下した非情の決断とは。そしてヘリの燃料が尽きるとき……。驚愕のクライシス、圧倒的な緊追感で魅了する傑作サスペンス。
考察
作品として魅力を上げるなら一番にメッセージ性をあげたい。しかし、人に読ませるという点で緊張感こそがこの小説の魅力だと感じた。
今作は文庫にして622ページという厚さながら、作品世界での時間経過は一日に満たない。序盤は事件に関係する各所で話し合いが行われるので、むしろ重大事件の割にゆったりしているといった印象を受けるかもしれない。だが、時間が迫っていくにつれて全ての視点で緊張が高まっていく。警察、航空会社、消防、ヘリコプター技師、犯人の恋人。そんな中で犯人だけは驚くほど冷静である。これから原爆を攻撃するなんて嘘のように犯行を進める。それが正しい行為だと信じている。だからこそ彼のメッセージ性が強調される。
きっと犯人は他の人物のように慌てふためく時期をとうに超えている。全て他人事だと思っている群衆にどうにか忘れさせないために事件を起こした。最後のセリフを読んてしまうとどうしても「犯行が成功していれば」と思ってしまう。
10.時ひらく
小説 2024年 著者:辻村深月
著者:伊坂幸太郎
著者:阿川佐和子
著者:恩田陸
著者:柚木麻子
著者:東野圭吾
あらすじ
350年の時を刻む老舗デパート『三越』
楽しいときも、悲しいときも
いつでも、むかえてくれる場所
物語の名手たちが奏でる6つのデパートアンソロジー
文庫オリジナル!
制服の採寸に訪れて感じたある予感。ライオンに跨る必勝祈願の言い伝えを試して見えたもの。老いた継母の買い物に付き合ってはぐれてしまった娘。命を宿した物たちが始めた会話。友達とプレゼントを買いに訪れて繋がった時間。亡くなった男が最後に買った土産。歴史あるデパートを舞台に、人気作家6人が紡ぐ心揺さぶる物語。
考察
実際に存在するデパート三越日本橋店をテーマに著名作家六人が短編を寄せている。どれも個性的な作品だが、三越日本橋店というテーマの特殊性を一番活かしているのは柚木麻子の『七階から愛をこめて』だと考える。
三越のシンボルであるライオン像にまつわる逸話を採用した作品は他にもある。しかし、その逸話と三越の長い歴史を掛け合わせ過去と現在を繋いだ発想は独創的だった。国内でも国際的にも問題の多い世界だが、これでも少しずつ変わってきている。これからも変えていこうと前向きになれる作品である。
11.氷菓
小説 2001年 著者:米澤穂信
あらすじ
省エネを信条とする高校一年生、折木奉太郎は、ひょんなことから廃部寸前のクラブ「古典部」に入部することに。 「古典部」で出会った好奇心旺盛なヒロイン、千反田える、中学からの腐れ縁、伊原摩耶花と福部里志。 彼ら4人が神山高校を舞台に、数々の事件を推理していく青春学園ミステリ。
考察
一般的に考えて、この作品で面白いところは登場人物の小気味よい会話と日常ミステリーだろう。しかし、個人的には角川文庫版p180からの独白が印象的だった。
この独白で奉太郎は自分のスタイルと合わない熱狂的な生き方に価値を見出す。十年後に過去を思い返して後悔しないように。だが、その後の推理で熱狂的なスタイルのせいで過去に事件があったことを知る。
奉太郎は省エネな人間から熱を持った人間に変化する機会があった。物語としてはそうなった方が綺麗である。しかし、事件の真相を知った結果奉太郎は今のスタイルも悪くないと感じる。主人公が変化しかけたのに、それを止めたまま終わらせる。これによってとても続きが気になる終わりになっていると感じた。
12.儚い羊たちの祝宴
小説 2011年 著者:米澤穂信
あらすじ
夢想家のお嬢様たちが集う読書サークル「バベルの会」。夏合宿の二日前、会員の丹山吹子の屋敷で惨劇が起こる。翌年も翌々年も同日に吹子の近親者が殺害され、四年目にはさらに凄惨な事件が。優雅な「バベルの会」をめぐる邪悪な五つの事件。甘美なまでの語り口が、ともすれば暗い微笑を誘い、最後に明かされる残酷なまでの真実が、脳髄を冷たく痺れさせる。米澤流暗黒ミステリの真骨頂。
考察
本作品一番の面白さは、やはりミステリーらしいどんでん返しだろう。だが、そこには他の作品にはない不気味さがある。
普通であれば、展開が進むごとにゆっくり証拠が集められ、最後に驚きのトリックと犯人が明かされる。対してこの作品では、物語中盤から登場人物の怪しい動きや犯行過程が暗示されていく。読者は誰が何をしようとしているのか次第に察しながら、それを見守ることしかできない。夜中に一人で怖い話を読むようにただ不気味なページを捲っていく。結末も明確に描かれないまま終わってしまう。
それでいて全部が全部バッドエンドというわけでもない。残酷でありながら主人公の願いが叶う作品として『玉野五十鈴の誉れ』はぜひ読んでほしい。
13.ぼくのメジャースプーン
小説 2006年 著者:辻村深月
あらすじ
ぼくらを襲った事件はテレビのニュースよりもっとずっとどうしようもなくひどかった――。ある日、学校で起きた陰惨な事件。ぼくの幼なじみ、ふみちゃんはショックのあまり心を閉ざし、言葉を失った。彼女のため、犯人に対してぼくだけにできることがある。チャンスは本当に1度だけ。これはぼくの闘いだ。
考察
私がこの作品を読んで受けたメッセージは「分かり合えない人と無理に関わる必要はない」ということである。
一見ひどく消極的で閉鎖的な考えに見える。しかし今作を読んだあとにはとても前向きな選択だと思える。たしかに「分かり合う」というのは時間がかかるものだが、話すたびに離れていくような相手と関わり続けるのは前向きに見えて何も変化しない。分かり合えない人と正面から戦うのではなく、距離をとってそれぞれのやり方で行きていくしかない。
状況を好転させるには目の前ことを諦めるのも方法の一つだと感じた。
動物虐待にあたる描写があるので注意。
14.スロウハイツの神様 上 下
小説 2007年 著者:辻村深月
あらすじ
人気作家チヨダ・コーキの小説で人が死んだーー
あの事件から10年。
アパート「スロウハイツ」ではオーナーである脚本家の赤羽環とコーキ、そして友人たちが共同生活を送っていた。
夢を語り、物語を作る。
好きなことに没頭し、刺激し合っていた6人。
空室だった201号室に、新たな住人がやってくるまでは。
考察
沢山の魅力がある作品だが、最終章が面白すぎて全部飛んでしまった。
私は絵や小説など一つのことをずっと続けて何かを完成させたことがない。そういう努力をしたことがある人間なら共感できることが多くて更に楽しめるかもしれない。幼い頃に持った憧れを信じ続けることの大切さを教えてくれ、努力を後押ししてくれる作品だと考える。
仮にそのような努力をしたことがなくても、つまり作品を享受している側でも出来ることがある。最終章ではそう感じさせる納得感がある。
15.嘘をもうひとつだけ
小説 2000年 著者:東野圭吾
あらすじ
「嘘をもうひとつだけ」「冷たい灼熱」「第2の希望」「狂った計算」「友の助言」の5編からなる短編集。
考察
あらすじにある通り、この作品の面白さは人間の悲哀である。大切なものを守るためにそれが犯罪と分かっていながら嘘をつく。ミステリーはそれを描く手段だと考えられる。
本作はミステリーの短編集でありながら、全て犯人の視点で語られる。とはいえ最初から視点主が犯人だとは分からず、段階的に察せられる。最後に探偵役の加賀によって全てが明らかにされることで、視点主は犯行を認める。このような作りによって犯人が守ろうとするものの大切さ、守るための稚拙ながら懸命な犯行が犯人の心情とともに伝わってくる。これは普通のミステリーのように探偵役が淡々と真相を述べるだけでは生まれない面白さだろう。
人間の悲哀というテーマを自分の得意なミステリーという形式で表現するために、視点を犯人に設定するという工夫が面白さを生んでいると考えられる。
16.春季限定いちごタルト事件
小説 2004年 著者:米澤穂信
あらすじ
小鳩君と小佐内さんは、恋愛関係にも依存関係にもないが互恵関係にある高校1年生。きょうも2人は手に手を取って清く慎ましい小市民を目指す。それなのに、2人の前には頻繁に謎が現れる。名探偵面などして目立ちたくないのに、なぜか謎を解く必要に駆られてしまう小鳩君は、果たしてあの小市民の星をつかみとることができるのか? 新鋭が放つライトな探偵物語、文庫書き下ろし。
考察
この作品の魅力は主人公たちの過去・本性を探ることだろう。コメディタッチな学園ものと日常ミステリーは当然人気だが、それは作品の特徴よりも作者の特徴と言える。
物語で大切なのは心理的な変化・成長だと言われる。小市民シリーズとしても主人公たちの変化は大きな魅力である。しかし、シリーズ初作品である今作は主要人物の深掘りが中心となる。「小市民」とはなにか、なぜそれを目指すのか、二人の約束とはなにか。日常ミステリーを展開しながらこれらの謎を明らかにしていくことで、ただのミステリーに物語が生まれる。今シリーズの基礎となる作品だと考えられる。
17.夏季限定トロピカルパフェ事件
小説 2006年 著者:米澤穂信
あらすじ
小市民たるもの、日々を平穏に過ごす生活態度を獲得せんと希求し、それを妨げる事々に対しては断固として回避の立場を取るべし。賢しらに名探偵を気取るなどもってのほか。諦念と儀礼的無関心を心の中で育んで、そしていつか掴むんだ、あの小市民の星を! そんな高校2年生・小鳩君の、この夏の運命を左右するのは〈小佐内スイーツセレクション・夏〉!? 待望のシリーズ第2弾。
考察
この作品の魅力はやはり衝撃的なラストである。衝撃的とはいっても犯罪が起きるわけではなく、二人はつとめて冷静である。
小鳩君にとって最大の謎は小山内さんのいつもと違う言動だった。わけもなくスイーツめぐりに連れていき、ルール違反である謎解きを扇動する。その謎を暴き小山内さんのルール違反を指摘するが、謎を暴くこと自体が小鳩君のルールに反しており矛盾をかかえてしまう。
今作では主人公たちに大きな転機が訪れる。それは誘拐という一大事ではなく二人の関係解消である。このことからもシリーズ通しての魅力がミステリーより主人公たちの変化・成長であることがうかがえる。それは青春小説らしさとも言えるだろう。
18.秋季限定栗きんとん事件 上
小説 2009年 著者:米澤穂信
あらすじ
あの日の放課後、手紙で呼び出されて以降、ぼくの幸せな高校生活は始まった。学校中を二人で巡った文化祭。夜風がちょっと寒かったクリスマス。お正月には揃って初詣。ぼくに「小さな誤解でやきもち焼いて口げんか」みたいな日が来るとは、実際、まるで思っていなかったのだ。――それなのに、小鳩君は機会があれば彼女そっちのけで謎解きを繰り広げてしまい……シリーズ第3弾。
考察
今作の魅力は小鳩君と小山内さんの変化である。
前作で関係解消していた二人はそれぞれに小市民の道を歩きだしている。その第一歩として、当然告白を断ることはない。小鳩君は恋人と過ごすことで小市民的な生活を送っていた。しかし、解きたがりな性格が変わることはなく彼女とのすれちがいが生まれる。あれだけ小市民を目指していたが、いざ現実になるとやっぱり謎を解いてしまう。今作では事なきを得たが、コンボの件で小鳩君が現状に限界を感じていることが分かる。
19.秋季限定栗きんとん事件 下
小説 2009年 著者:米澤穂信
あらすじ
ぼくは思わず苦笑する。去年の夏休みに別れたというのに、何だかまた、小佐内さんと向き合っているような気がする。ぼくと小佐内さんの間にあるのが、極上の甘いものをのせた皿か、連続放火事件かという違いはあるけれど……ほんの少しずつ、しかし確実にエスカレートしてゆく連続放火事件に対し、ついに小鳩君は本格的に推理を巡らし始める。小鳩君と小佐内さんの再会はいつ?
考察
上巻に続いて今作の魅力も小鳩君と小山内さんの変化と言える。
上巻で感じていた通り小鳩君は彼女と別れることになる。その時の心象は「賽の河原で石を積む夢」として表現されている。民間信仰と異なるのは、石を崩すのが鬼ではなく自分という点である。これは、小市民になるべく嘘を重ねておきながら結局推理してしまうことへの自省だと考えられる。
自分の性質を無理に変えようとせずに、受け入れてくれる人と共にいるべきというメッセージが感じ取れる。
20.巴里マカロンの謎
小説 2020年 著者:米澤穂信
あらすじ
11年ぶり、シリーズ最新刊!創元推理文庫オリジナル
そしていつか掴むんだ、あの小市民の星を。
謎に遭遇しがちな小佐内さんと、結局は謎解きに乗り出す小鳩君。
手に手を取って小市民を目指すふたりの高校生が帰ってきました!
考察
今作の魅力は純粋な日常ミステリーだと言える。
主人公の変化・成長が無い理由は、今作が四つの短編からなる番外編だからである。これが番外編であることは時系列が『春季限定いちごタルト事件』と『夏季限定トロピカルパフェ事件』の間に遡っていることから分かる。しかし、本文でそのような注釈が一切なく、作中での時間も九月半ばとなっているため最初は『秋季限定栗きんとん事件』の続きだと思ってしまう。これを単なる説明不足としては面白くない。本文から時系列を推測できる要素を読み取り、納得していくのが本シリーズの読み方だろう。
21.冬季限定ボンボンショコラ事件
小説 2024年 著者:米澤穂信
あらすじ
小市民を志す小鳩君はある日轢き逃げに遭い、病院に搬送された。目を覚ました彼は、朦朧としながら自分が右足の骨を折っていることを聞かされる。翌日、手術後に警察の聴取を受け、昏々と眠る小鳩君の枕元には、同じく小市民を志す小佐内さんからの「犯人をゆるさない」というメッセージが残されていた。小佐内さんは、どうやら犯人捜しをしているらしい……。冬の巻ついに刊行。
考察
今作の魅力はやはり主人公たちの変化である。
これまで暈されていた、二人が小市民を目指すきっかけとなった事件がついに明らかになる。小鳩君は三年ぶりに過去に向き合うことになった。考えてみれば、主人公の変化・成長を書くためには過去の話も重要となる。それを単なる回想ではなく現在の事件と繋げるところはミステリーを活かした面白さがある。
これまで小鳩君は過去の失敗に囚われ、ネガティブな意味で小市民を目指していた。しかし、過去に区切りをつけて小山内さんとの関係も変わってきた今、前向きな目標に変わるだろう。
22.推し、燃ゆ
小説 2020年 著者:宇佐見りん
あらすじ
逃避でも依存でもない、推しは私の背骨だ。アイドル上野真幸を”解釈”することに心血を注ぐあかり。ある日突然、推しが炎上し――。デビュー作『かか』が第33回三島賞受賞。21歳、圧巻の第二作。
考察
本文で明言されてはいないが、主人公の描写にはADHDや境界知能へのイメージが浮かんだ。メモしているのに、借りたものを返すことも宿題も忘れる。一、二、三と一画ずつ増えてくのに、四から崩れるのが理解できず覚えられない。バイトでは情報量の多さに圧倒され、床にはものが散らかっている。自分はここまで酷くない、と思いながら共感できるところも多かった。主人公には煩わしいことが多い。切っても切っても伸びてくる爪と毛。自分の思いどおりにしたがる母と姉。偏らない平等な人間関係。そういった煩わしいものに対する不満や反発が、自分が面倒くさいと思ってきたことにも繋がると感じた。多数派の常識をあたかも正解のように押し付けられるのが嫌になりながら、みんなと同じように何かに熱中しないといけないという焦燥が推し活に行き着いたのではないかと考える。
23.月は無慈悲な夜の女王
小説 1966年 著者:ロバート・A・ハインライン
翻訳:矢野徹
あらすじ
2076年7月4日、圧政に苦しむ月世界植民地は、地球政府に対し独立を宣言した! 流刑地として、また資源豊かな植民地として、月は地球から一方的に搾取され続けてきた。革命の先頭に立ったのはコンピュータ技術者マニーと、自意識を持つ巨大コンピュータのマイク。だが、一隻の宇宙船も、一発のミサイルも持たぬ月世界人が、強大な地球に立ち向かうためには……ヒューゴー賞受賞に輝くハインライン渾身の傑作SF巨篇。
考察
私がこの物語から感じたのは、植民地戦争や人種差別などの地球上で起きる諸問題が宇宙規模に拡大されていることであった。わざわざ宇宙規模になっているところには人間の性質の不変さを読み取れる。結局小さな国でも広大な宇宙でも人間がやることは変わらない。
また、月で起きた革命の首謀者はたった三人であり、劇的な速度で進められた。そんな革命での意思統一の難しさや分裂など多くの問題が描かれている。
24.アンドロイドは電気羊の夢を見るか?
小説 1968年 著者:フィリップ・K・ディック
翻訳:浅倉久志
あらすじ
第三次大戦後、放射能灰に汚された地球では生きた動物を持っているかどうかが地位の象徴になっていた。人工の電気羊しかもっていないリックは、本物の動物を手に入れるため、火星から逃亡してきた〈奴隷〉アンドロイド8人の首にかけられた莫大な懸賞金を狙って、決死の狩りをはじめた! 現代SFの旗手ディックが、斬新な着想と華麗な筆致をもちいて描きあげためくるめく白昼夢の世界!
リドリー・スコット監督の名作映画『ブレードランナー』原作。
考察
この本は他人の心を考えすぎることを止めてくれると感じた。
今作は海外のSFを読み慣れていない私にとってとても複雑で難解だった。
登場人物が非常に多く、人間もアンドロイドも出てくる上にアンドロイドは自分のことを人間だと思っている。結果的に誰が人間で誰がアンドロイドだったのか全く思い出せなくなっている。しかし、そんな状況こそ今作の世界に入り込めていると言っていいのかもしれない。
誰が人間で誰がアンドロイドか全く分からないような世界なら、むしろ何も疑う必要がないと考えられる。本音や建前に疲れがちな現代に刺さる作品かもしれない。
25.華氏451度
小説 1953年 著者:レイ・ブラッドベリ
翻訳:伊藤典夫
あらすじ
華氏451度──この温度で書物の紙は引火し、そして燃える。451と刻印されたヘルメットをかぶり、昇火器の炎で隠匿されていた書物を焼き尽くす男たち。モンターグも自らの仕事に誇りを持つ、そうした昇火士(ファイアマン)のひとりだった。だがある晩、風変わりな少女とであってから、彼の人生は劇的に変わってゆく……
考察
今作は平民が上層に対抗するための本だと考える。
一つの国があったときに、国のトップは知っているのに平民は知らないことというのは沢山ある。トップはその地位を維持するために構造を複雑化させる。平民が理解できないように。同時に平民の理解力を衰退させれば都合が良い。平民の記憶、好奇心がなくなってしまえばトップはずっとトップでいられる。平民にそのことを忘れさせないため、知識と好奇心を忘れないための本が今作だと考えた。現実にファイアマンがいたら真っ先に燃やされそうな本であるが、すでに暗記している人が沢山いるだろう。
26.夜の床屋
小説 2014年 著者:沢村浩輔
あらすじ
慣れない山道に迷い、無人駅での一泊を余儀なくされた大学生の佐倉と高瀬。だが深夜、高瀬は一軒の理髪店に明かりがともっていることに気がつく。好奇心に駆られた高瀬が、佐倉の制止も聞かず店の扉を開けると……。第4回ミステリーズ!新人賞受賞作「夜の床屋」をはじめ、奇妙な事件に思いがけない結末が待ち受ける、全7編を収録。新鋭による不可思議でチャーミングな連作ミステリ。
考察
この作品の魅力はとことんまでミステリーというところである。
一般にミステリー小説というとまず一見解決不可能な事件がある。それを名探偵が論理的に解明するというものである。しかし、実際ミステリーというのは謎である。謎というのは解決しないから謎といえる。今作でも、主人公は謎に近づいて解き明かそうとする。謎は少しずつ解決してきたと思いきや新たな謎を残していく。不思議な法則や関連を残して近づくたびに離れていく。
謎本来の好奇心を掻き立てる神秘性が存分に出ているのが今作の魅力だろう。
27.変身
小説 1991年 著者:東野圭吾
あらすじ
平凡な青年・成瀬純一をある日突然、不慮の事故が襲った。そして彼の頭に世界初の脳移植手術が行われた。それまで画家を夢見て、優しい恋人を愛していた純一は、手術後徐々に性格が変わっていくのを、自分ではどうしょうもない。自己崩壊の恐怖に駆られた純一は自分に移植された悩の持主(ドナー)の正体を突き止める。
考察
人間の死生観や意識について考えざるを得ない作品である。
今作のように実際に誰かの脳が自分の中で生きることはなくとも、人に大きな影響を受けることは多々ある。東野圭吾が今ここにいないとしても、私がこの本を読み死生観について考えるときに東野圭吾がいないというのは直感的に否定したくなる。
同時に、他人の意識に影響を与えることが重大なことだという感覚も生まれてきた。言葉や文章が人に与える影響を軽視するとひどい目にあう。パワハラやSNSでの中傷を見ていてもそう感じる。
28.ツナグ
小説 2012年 著者:辻村深月
あらすじ
死者は、残された生者のためにいるのだ。
一度だけ、逝った人との再会を叶えてくれるとしたら、何を伝えますか――。死者と生者の邂逅がもたらす奇跡。心に染み入る感動の連作長編小説。
考察
今作の魅力は歩美の変化であるが、その変化をそのまま読者も味わえるのが面白いと感じた。
結局消えてしまう死者の側からしたら亡くなったあとに会うなんて無意味かもしれないが、生者からすればそれでもなんとか行きていくしかない。大事なのは進むことである。
この魅力を生んでいるのは何よりも構成である。最後に歩美の視点を持ってくる発想は自分が何かを作るときにも活かせそうだと感じた。
29.猫町
小説 1935年 著者:萩原朔太郎
あらすじ
東京から北越の温泉に出かけた「私」は,ふとしたことから,「繁華な美しい町」に足を踏みいれる.すると,そこに突如人間の姿をした猫の大集団が…….
考察
普段見ているものを別の視点から見てみることの面白さが感じられる作品である。
主人公は道に迷ううちに、いつも歩いているU町に反対の入口から入ってきた。そのせいで自分がU町にいるのを認識できないばかりか、そこがとても風情のある美しい町だと感じる。だが、だんだんとその町全体が非常に繊細で今にも崩れそうだと感じる。これは最初に錯覚した美しい町と、心の中で無意識に浮かんでくるU町との乖離が進むことによる違和感だと考えた。そして何かのきっかけ──今作の場合は黒いネズミをきっかけにここがU町だと気づく。
気付いたあとにはガッカリするかもしれないが、普段見るものを別の視点から見ることは手軽に新しい発見ができる行為だと知れた。
30.まほろ駅前多田便利軒
小説 2006年 著者:三浦しをん
あらすじ
まほろ市は東京のはずれに位置する都南西部最大の町。駅前で便利屋を営む多田啓介のもとに高校時代の同級生・行天春彦が転がり込み、二人は様々な依頼に精を出す。ペット預かりに塾の送迎、納屋の整理……ありふれた依頼のはずが、このコンビにかかると何故かきな臭い状況に。
考察
この作品で魅力的なのは主人公の悪意だと考えた。
最初は行天が変人で多田がまともという認識で読んでいた。実際多田はまともな人間だろう。だからこそ多田が悪意を自白するとき妙にリアリティがあった。まともな人間が主人公であるということはそれなりの悪意もあるものだと。しかも多田の悪意は結果が惨事だったとしてもやったことは大したことではなかった。それを結果の悲惨さに怯み、一生引きずっているのがいかにもまともな人間らしい。
最後には昔悪意の矛先であった行天に影響されて変わりだすのが綺麗な終わり方だと感じた。
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